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「7月91日」  作者: S


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【第五章】夏祭りと、最後になるかもしれない約束

夏には、特別な力がある。


いつもの景色を少しだけ輝かせて、

何気ない一日を忘れられない思い出に変えてくれる。


蓮と星にとって、この夏祭りの日もまた、二人だけの大切な時間になる。


笑顔。

約束。

そして、胸の奥に残る小さな不安。


これは、永遠だと思っていた瞬間を刻む、ひと夏の記憶。

夏祭りの日。


病院の窓から見える空は、いつもより少しだけ高く感じた。


中庭には提灯が並び、遠くから太鼓の音が聞こえてくる。


「ねえ、蓮くん」


ベンチに座った星が、目を輝かせながら言った。


「行こう」


「どこに?」


「夏祭り」


思わず星を見る。


「無理だろ」


「何が?」


「病院の外」


星は少しだけ頬を膨らませた。


「ちゃんと許可は取ってるよ」


そう言って、首から下げた外出許可証を見せる。


「準備いいな……」


「だって、夏祭りって一年に一回しかないんだよ?」


その言葉に、僕は少しだけ黙った。


星はいつもそうだ。


当たり前のことを、まるで特別な宝物みたいに言う。


「……分かったよ」


そう答えると、星は嬉しそうに笑った。


「やった」


その笑顔を見るだけで、断る理由なんてなくなっていた。



祭り会場は、人で溢れていた。


焼きそばの匂い。


屋台から聞こえる声。


子供たちの笑い声。


全部が懐かしかった。


「蓮くん、何食べる?」


「星、病院食あるだろ」


「今日は特別」


「……」


「夏祭りの日くらい、いいじゃん」


結局、僕たちは二人で焼きそばを食べ、りんご飴を買った。


「昔もこんなことあったよね」


星が突然言った。


「夏祭り?」


「うん」


思い出す。


小学生の頃。


人混みの中で星とはぐれて、泣きながら僕の手を握っていた。


『蓮くんがいるから大丈夫』


あの頃と同じように。


今も星は僕の隣にいる。


でも。


今は守っているのが僕なのか、守られているのが僕なのか分からなかった。


「蓮くん」


「何?」


「楽しい?」


「……うん」


素直に答える。


「久しぶりに、楽しいと思った」


星は嬉しそうに笑った。


「よかった」


その言葉が、なぜか少し寂しく聞こえた。



夜。


花火が上がる時間になった。


空に大きな光が咲く。


赤。


青。


白。


一瞬で消えていく光。


「綺麗だね」


星が呟く。


「うん」


「ねえ、蓮くん」


「何?」


「来年も、一緒に見ようね」


胸の奥が少し痛んだ。


なぜか分からない。


ただ、その言葉が約束というより、願いのように聞こえた。


「当たり前だろ」


僕は答えた。


「来年も、その先も」


星は少し驚いた顔をして。


そして、優しく笑った。


「……そっか」


花火の音に紛れて、星の小さな声が消える。


「約束だよ」


「うん」


僕たちは小指を絡めた。


子供の頃から変わらない約束。


でも、この時の僕は知らなかった。


その約束を守るために、僕がどれだけ大きなものを背負うことになるのか。


そして。


星がこの夏を、僕よりずっと大切にしていた理由を。

第五章まで読んでいただき、ありがとうございました。


今回は、蓮と星が一緒に過ごす「普通だけど特別な時間」を描きました。


夏祭りや花火、何気ない会話。


一つひとつは小さな出来事ですが、二人にとっては決して忘れることのできない大切な思い出になっていきます。


そして、星が口にした「来年も一緒に見よう」という約束。


その言葉に込められた想いが何なのか、これから少しずつ明らかになっていきます。


物語はいよいよ、星が隠している秘密へと近づいていきます。


蓮と星の夏を、最後まで見届けていただけたら嬉しいです。


感想や応援、ブックマークなどが執筆の励みになります。


次章もよろしくお願いいたします。

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