第八話 名付け
「私は……誰?」
まるで黄金そのもののような少女の口から漏れた言葉には、戸惑いと困惑が隠し切れなかった。
自分が誰なのか?
そんな気持ちが蒼に伝わってきた。
だからこそ一瞬だけ彼女は目を見開く。
(記憶喪失?嘘でしょ?)
すぐにいつもの氷のような冷たい顔をした蒼は、質問を続けた。
「あなたはどこから来たの?」
「知らない」
「あなたの家族は?」
「わからない」
「なにか覚えていることは?」
「……ごめん。なにも思い出せない」
沈痛な面持ちで金髪の少女は頭を左右に振る。
そんな彼女を見て、蒼は目を細めて顎に手を当てた。
(本当に記憶をなくしているわね。このままこの子を放置するわけには……)
記憶を失い、家族が誰なのかもわからない少女。
ただでさえ地獄のようなこの世界で彼女を一人にすれば、間違いなく死ぬだろう。
蒼は小さくため息を吐き、「しょうがないわね」と呟く。
「あなたが独り立ちできるまで面倒を見てあげるわ」
蒼の言葉を聞いて、不安そうな顔を浮かべていた金髪少女は「え?」と目を丸くする。
「いいの?」
「あなたを拾った責任があるわ。しばらく面倒を見てあげるわ」
少し面倒くさそうに蒼が言うと、金髪少女は表情をパアァ!と明るくする。
「ありがとう!」
宝石のように眩しく、美しい笑顔。
それを見て蒼は頬を僅かに赤く染め、顔を逸らす。
「とりあえず……よろしく、アリス」
「アリス?」
「あなたの名前よ。名無しのままでは不便でしょ?初めて会った時、私が好きだった絵本の物語が頭に浮かんだの。その物語の主人公の名前がアリス」
「アリス……アリス、アリス。フフフ!」
黄金の髪と瞳を持つ少女は、何度も自分の名前を連呼した。とても嬉しそうに微笑みながら。
「私……今日からアリス!アリスだよ!」
ただの名前ではしゃぐ少女を見て、蒼は不思議な子だと思った。




