第四十二話 日記
アリスを失い、絶望していた蒼。
そんな彼女の耳にパサリとなにかが落ちる音が聞こえた。
死んだ魚のような目で、蒼は音の発生源と思われるものを見つめる。
「これって……」
ソファーから立ち上がった蒼は歩き、しゃがんで拾い上げた。
一冊のノートを。
「これって……アリスの日記」
蒼はペラリと日記を開き、目を見開く。
日記に書かれている文字は汚く、全てがひらがな。
だがその文章にはアリスの想いが宿っていた。
『きょう、あおいがもじをおしえてくれた。ていねいでわかりやすくて、あおいのやさしさがわかる。そんなあおいがすき』
蒼はページをめくる。
『わたしがつくったりょうりをあおいがたべて、おいしいといってくれた。すごく、うれしい。あおいがおいしいといってくれると、わたしはしあわせなきぶんになる』
消えていたはずの蒼の目の光。
その光が徐々に取り戻していく。
『わたしのせいであおいがけがをした。ぜったいにつよくなって、こんどはわたしがたすけるんだ』
蒼は唇を震わせる。
『あおいとでーとして、たのしかった。こんなにしあわせなきもち、はじめて』
蒼の瞳からポロポロと涙が零れる。
『わたし、あおいがとてもたいせつ。ずっといたい。きっとこれが……こいなんだ』
蒼は日記を持っていた手を震わせた。
『あおい……だいすき』
涙の雫が日記の紙の上にポツポツと落ちる。
嗚咽を漏らす蒼は日記を抱き締めた。
(ああそうか……ようやくわかった)
蒼は気付く。
ようやく本当の意味でわかった。
なぜ蒼がアリスといるだけで胸が温かくなるのか。
蒼にとってアリスはどういう存在か。
(私は……アリスのことが)
蒼は小さな声で呟く。
「好きなんだ」
その言葉を言った瞬間、蒼の中でなにをするのかが決まった。
腕で強引に涙を拭った蒼は、険しい顔を浮かべる。
瞳に宿るのは、強い決意と覚悟の光。
「あのクソ共から……アリスを取り返す」
氷の女王は動き出す。
愛する聖女を取り戻すために。




