第三十七話 一緒
「ありがとう……蒼」
落ち着きを取り戻し、指で涙を拭うアリス。
彼女は微笑みを浮かべ、「もう大丈夫」と告げる。
「そう……よかった。さて……ならシャワーに入って、ごはんを食べて、すぐに寝ましょう」
「ねぇ……蒼」
「ん?なにかしら?」
「今日……一緒に寝よ?」
アリスの言葉を聞いて、蒼は困った顔で笑みを浮かべる。
(少し……恥ずかしいわね。でも…)
アリスの過去を知り、彼女の涙を見た蒼は「いやだ」と断ることができなかった。
「わかったわ。今日は……一緒に寝ましょう」
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食事と風呂を済ませた後、ライトを消し、蒼とアリスは同じベットに横になる。
一人用のため狭かったが、蒼は不思議と嫌ではなかった。
それどころか大切な人が近くにいるだけで、彼女は安心感を得ていることに気付く。
「……ねぇ、蒼」
窓から差し込む月の光に照らされたアリスは、唇を動かす。
どこか幻想的で美しい彼女に少し見惚れながら、蒼は「なに?」と問う。
「昔の蒼って……どんなだったの?」
「……なんでそんなことを?」
「気になったの。昔の蒼がどんな子で、どんなことをしていたのか」
蒼は口をつぐむ。
黙り込む水色髪の少女。
だけどそんな彼女にアリスは問い掛けた。
「だから……教えて?」
話すか一瞬だけ迷った蒼は目を閉じる。
そして目を開けた彼女は、ポツリポツリと語り始めた。
己の過去を。
「昔の私は……あなたみたいに元気で、明るかった」
「蒼が?」
「ええ。家族にも友達にも恵まれて……こんなクソったれな世界だったけど……それでも幸せだった」
懐かしむように蒼は頬を緩め、言葉を続ける。
「童話の絵本がどうしようもなく好きで……夢は絵本作家になることだったの」
「へぇ~……そうなんだ」
「……でもある日、《竜》が故郷に突然現れた。そして……両親も家も友人も失って……たくさんの人が死んだわ」
「!」
蒼の言葉を聞いて、アリスは目を丸くする。
「生き残ったのは私だけ。悔しくて、絶望して、泣いたのを覚えてる」
蒼は唇を噛み、拳をギュッと握り締めた。
弱かった自分が呪いたいほど憎い。
そんな想いが蒼の瞳に宿っていることに、アリスは気付く。
「私は……弱い自分が大っ嫌いだった。だから私は強くなって生きることを選んだの。鍛えて、強くなって、武器を買って、依頼を受けて、モンスターを倒して、倒して、倒して……気付いたらこうなってたわ」
弱い自分を消し去るために、強くなった。
強くなるという選択肢以外はなかった。過酷な世界で生きていくためには。
だから元気で明るかった少女は、心も冷たい氷の女王へとなってしまったのだ。
「これが……私の過去よ」
蒼の過去を知ったアリスは唇を紡ぐ。
そして彼女は蒼を優しく抱き締める。
「アリス?」
パチパチと目を瞬きする蒼の耳に、アリスは優しい声で囁く。
「ずっとそばに居るよ」
その言葉を聞いた蒼は、胸が温かくなるのを覚える。
目頭が熱くなるのを感じた彼女はグッと堪え、アリスの大きな胸に顔を埋めた。
「ありがとう」
聖女の体温を感じながら氷の女王はゆっくりと目を閉じ、眠りについた。




