第三十話 危機
廃墟と化した大きな街で銃声と激しい破壊音が鳴り響く。
水色の髪を伸ばした少女は素早く動き回りながら、手に持っていた対物ライフルで弾丸を撃つ。
しかし兎型の《竜》はいとも簡単に弾丸を躱す。
(狙って撃つのは無意味!なら!)
背中から生えた四本のロボットアームが持つ重火器で無数の弾丸を放った。
空薬莢が大量に地面に転がり、カランカランカランと地面に転がる。
(いくら反射神経がよくてもこの量の弾なら!)
蒼はこれなら当たると思った。
しかしその予想は裏切られる。
兎型の《竜》は無数の弾丸を全て回避。
大型トラック並みの大きさでありながら、俊敏に動く。
(これも躱すの!?なら無数の弾丸を連射しながら、隙を見て対物ライフルを撃ち込む!!)
無数の弾丸を回避している《竜》の急所に狙い撃つために、蒼は対物ライフルを構える。
素早く動く兎型の《竜》のわずかな隙。
それをハンターの経験と研ぎ澄まされた勘で、引き金を引く。
銃声が鳴り響いた直後、超高速に弾丸が飛ぶ。
弾丸が《竜》の頭に直撃しようとした。
その直前、大剣の如き尻尾で弾丸を防がれる。
急所を完璧に守った白きドラゴン。
奴は瞳を怪しく光らせた。
「!」
全身から大量の汗が噴き出すほどの危険を感じ取った蒼は、ハンターの勘に従って素早く横に跳んだ。
直後、先ほどまで蒼がいた場所に兎型の《竜》の超高速蹴りが炸裂する。
大きな打撃音が鳴り響き、地面が大きく陥没。
そして陥没した場所が一瞬で氷に覆われる。
「凍結能力!?まさか周囲の水分を利用しているの!?」
驚愕の表情を浮かべる蒼に、《竜》の尻尾が襲い掛かった。
剣の如き鋭い刃を持ち、冷気を纏った尻尾攻撃。
咄嗟に蒼は身体を傾け、攻撃を回避する。
しかし完全に攻撃を回避することができず、背中から生やした四本のロボットアームと重火器、対物ライフルが凍結。
甲高い音を立てて、機械の腕と武器が砕け散った。
そして遠くにあった大きなビルが真っ二つに切断され、崩れる。
(圧倒的な破壊力と速さを持つ脚に、あらゆるものを切断する太長い尻尾。そして一瞬で凍らせる冷気に、バカみたいに探知能力が高い耳。こんなのどうやって倒すのよ!)
腰に装備していた二本の刀を抜いた蒼は、苦々しい顔で舌打ちする。
思考能力を奪おうとする焦り。
自分は生き残ることができるのだろうかという不安。
身体を震わせる死の恐怖。
あらゆる負の感情が毒の如く蒼の心と身体を蝕んでいく。
それを氷の如き冷たい頭と心で蒼は負の感情を抑える。
(落ち着くのよ、なにかあるはずよ。なにか……)
蒼がフゥ―と息を吐いて頭を回転させた時、五本の矢が《竜》に向けって飛んできた。
兎型の《竜》は剣の如き太長い尻尾で全ての矢を弾く。
矢を放ったのは他でもない。
アリスだ。
兎型の《竜》の意識がアリスに向く。
(まずい!このままじゃあ!)
蒼は想像してしまう。アリスが死ぬ瞬間を。
自分が死ぬよりも最悪な恐怖に襲われた蒼は、駆け出す。
(ミサイルで視界を一時的にでも塞ぎ、死角から攻撃するしかない!)
両肩のミサイルポッドから全てのミサイルを放つ蒼。
《竜》は尻尾でミサイルを防ぐ。
黒い煙が舞い上がり、兎型の《竜》の頭を覆う。
見えなくなっている隙に、蒼は高く跳躍して二本の刀を振り下ろす。
狙うは弱点と思われる長い耳。
だが《竜》は本能で理解していたのか、彼女の斬撃を尻尾で弾き返す。
煙で見えていない状態だというのに。
「アリス、逃げなさい!ここは私がなんとかするわ!」
蒼は大声で叫び、嵐の如く刀を振るう。
死角を探し、脚の関節や首に剣撃を叩きこもうとする蒼。
しかし兎型の《竜》は正確に尻尾で弾き返し、素早い動きで躱す。
だがそれでも蒼は攻撃を止めなかった。
頭を回転させ、連撃を放ち続ける。
(せめて、アリスだけでも!)
死を覚悟した上での囮。
蒼の考えを理解したアリスは、泣きそうな顔で頭を左右に振るう。
「いやだ!蒼を置いて、そんなの!」
逃げようとしないアリスに、蒼は鬼の如き顔で大声で怒鳴る。
「行きなさい!速く!」
一分一秒でも多く時間を稼いでいた時、蒼の刀が突然砕け散った。
(なっ!最硬の金属で作られた刀よ!?なんで……)
理解ができず混乱していた蒼は、刀が凍っていることに気付く。
(この《竜》!冷気の力で!?)
失敗だ。
蒼がそう思った時には、もう遅かった。
冷気を纏う巨大な剣の尻尾。
それが振り下ろされ、蒼を襲う。
回避不可能な死を感じた蒼は、手を伸ばして近づいてくるアリスに視線を向ける。
時間の流れが遅くなった世界で、蒼は涙を流す金髪の少女に謝罪の言葉を告げた。
「ごめんなさい、アリス。あなただけでも……生きて」




