第二話 汚染世界
東京都、秋葉原。
そこでは多くの者達が非合法に店を出していた。
いわゆる闇市である。
化学合成のコーヒーとフードプリンターの料理を出すカフェ。
可愛らしい服から戦闘服まで売っている服屋。
毒、ドーピング、覚醒剤などあらゆる薬を売っている薬屋。
一般人やハンター、そして裏の世界で生きる人間がやってくる闇市で、蒼は歩いていた。
冷たい目で道を歩く少女が向かうのは、カンカン!とハンマーで金属を叩く音が聞こえてくる小さな店。
店の看板には『武器屋』という文字が書かれていた。
「来たわよ」
蒼は店に入り、氷のような冷たい声を出す。
店の中には剣や槍、銃や鎧などが並べられていた。
独特な金属の臭いが蒼の鼻を刺激する。
「いらっしゃい。蒼☆」
店の奥から一人の少女がピョコッと現れる。
背が小さく、幼い顔立ちをした黒髪の女の子。
頭にゴーグルをつけ、作業服姿の彼女は汚れていた。
「ミク、アレはできてる?」
「うん。もちろん☆」
右手の人差し指と中指を立ててVの形をした武器屋の少女—――ミクは、棚から大きな散弾銃と大きな箱を取り出した。
「最新の金属で作った特別製ショットガン。そして弾も強力なやつを千発分。これで大抵のモンスターは一撃だね☆」
片目を閉じてウィンクしたミクから、散弾銃と弾が入った箱を受け取った蒼は「いつも悪いわね」と呟く。
「気にしなくていいよ☆私たちは友達だもん☆他の客より優先するのは当然だよ☆それに前払いしてもらってるし☆」
「……ありがとう」
「だから気にしなくていいって☆それよりハンターの仕事はどんな感じ?」
「……あまりいいとは言えないわ。また強力なモンスターが現れるようになった。しかも前よりもモンスターの数も増えている」
僅かに目を細める蒼は、どこか危機感を感じていた。
カウンターテーブルに両肘を置いたミクは「やっぱりね☆」と苦笑する。
「ウチの客も言ってたよ☆強いモンスターがたくさん現れて大変だって☆」
ミクは少し悲しそうに目を閉じながら、静かな声で呟く。
「仲が良かった常連さんが三人ぐらい死んじゃったよ」
友人になんて言えばいいかわからない蒼は「……そう」としか言えなかった。
「まぁ……こんな世界だから仕方ないけどね」
ミクは化学合成コーヒーを入れたコップを二つ用意し、片方を蒼に渡す。
コーヒーを受け取った彼女はフゥ―フゥ―と息を吹いて冷まし、一口飲む。
「2025年8月13日。突如、謎のウイルスーーーバーサーカー・ウイルスが発生。そのウイルスに感染した人間は死に、他の動物や虫、植物は変異して狂暴化。多くの人達は食い殺された」
「……そして人類は五割まで減った。人間が暮らせる安全な場所は少なく、ほとんどの場所はバーサーカー・ウイルスによって汚染されている」
コーヒーが入っているコップを強く握り締める蒼は、無表情だった。
だが彼女の冷たい声には、全てを凍らせるような怒りが宿っている。
友人の怒りを感じ取ったミクは、静かにコップに入っているコーヒーを飲む。
「街の外に出るにはガスマスクしないといけないし、モンスターがたくさんいるから武装しないとダメだし……面倒な世界になったね☆」
「……そうね」
コーヒーを一気に飲んだ後、蒼は店から出ようとした。
その時、彼女の背中にミクは声を掛ける。
「蒼……今度、ご飯を一緒に食べに行こう☆」
「……」
店のドアノブを握り締めた蒼が、動きを止める。
「だから……死なないでね☆」
「……ええ。約束」
扉を開けて店から出て行った蒼は、短くそう返事をした。
店の中で残されたミクは、沈んだ顔でコーヒーを飲む。
「約束……だからね」




