第一話 氷の女王
怪物ネズミをコンテナに乗せた大型トラックを、運転する水色髪の少女—――凍冷蒼。
怪物だらけの道路を走り、巨大な壁に覆われた街に入る。
街の名は池袋。
東京で安全に人々が暮らせる街の一つ。
池袋の街の中を運転していた蒼はチラリと周りを見る。
歩道を歩く人々。
その中で子供の手を握り、笑いながら歩く大人の男女。
彼らを見ていた蒼はわずかに目を細め、前を向く。
少女は無表情だったが、どこか寂しそうだった。
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蒼はしばらく運転し、とある建物の駐車場で大型トラックを止めた。
トラックから出た彼女は、鋼鉄でできた大きな建物の中に入る。
建物の中には剣や銃などを装備した男や女が大勢おり、誰もが蒼に視線を向けた。
「おい、あれって『凍結女王』か?」
「ハンターの中でも実力者であり、多くのモンスターを討伐したあの?」
「依頼達成率は九十八パーセントらしいぞ」
ヒソヒソと話す武装した大人達。
彼らの声を無視して、蒼はカウンターに向かう。
カウンターには制服を着た美人の受付嬢がおり、ニコニコと笑っている。
「ようこそ、ハンター協会へ。ご用件はなんでしょうか?」
「依頼完了の報告とモンスターの死体の買い取りをお願いするわ」
「承りました、凍冷蒼ハンター。少々お待ちください」
受付嬢は奥の部屋へと行き、姿を消した。
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十分後、受付嬢がカウンターに戻ってきた。
「おまたせしました。依頼報酬とモンスターの死体の買い取りを合わせて、180万円になります。現金でお渡ししますか?それとも電子でしょうか?」
「電子で」
蒼はポケットからルービックキューブのような白い物体を取り出し、カウンターのテーブルの上に置いた。
ニコニコと笑う受付嬢は慣れた手付きで、白いキューブ型の携帯端末―――キューブ・デバイスを何度も指で撫でる。
するとキューブ・デバイスから1800000という数字が空中に投影された。
「ありがとう」
冷たい声でそう言い残した蒼はキューブ・デバイスをポケットにしまい、その場から去っていく。
彼女がハンター協会から出て行った後、受付嬢は深いため息を吐き、肩の力を抜いた。
「いつ見ても恐ろしい子ね。あの子」
「先輩……大丈夫ですか?」
彼女の隣に座っていた十代の可愛らしい受付嬢が、心配そうな顔で声を掛ける。
「ええ……大丈夫よ」
「それにしてもあの人、私と同じくらいの歳なのに他のハンターと雰囲気が違いますね」
「ああ……確かにあなたはまだ新人だったわね」
「はい。受付嬢になって二か月です」
「なら簡単に教えてあげるわ」
先輩受付嬢は優しい声で、氷の女王のような少女ハンターのことを説明した。
「あの子は凍冷蒼ハンター。まだ十八になったばかりの女の子。あらゆる依頼を完璧に達成するAランクハンターよ」
「エ、Aランク!?」
思わず驚きの声を上げた後輩受付嬢の口を、先輩受付嬢の手が塞ぐ。
「声が大きいわよ!」
「す、すみません。でも……Aランクって、ハンターの中で二番目にすごい人ってことですよね?」
「ええ。バーサーカー・ウイルスに感染した生物―――モンスター。それを討伐する傭兵―――ハンター。その中で二番目の実力者よ」
「ハンターのランクはSからEまであって……いや、でもAランクって……十八で?」
後輩受付嬢は信じられないという様子で困惑していた。
「まぁ、そういう反応になるのはわかるわ。だけど驚くのはここから……Aランクにまで上り詰めたのは仲間の力ではなく、単独の力」
「はぁ!?」
後輩受付嬢は目を大きく見開く。
「ちょっと待ってください。Aランク以上のハンターになるには、最低でも街一つ滅ぼせる強力なモンスターを討伐しないと」
「そう……最低でもBランクハンター三十人いないと倒せないモンスターを、彼女は単独で討伐したの」
「!」
「それも一度や二度じゃない。何度もよ。氷の如く冷徹にモンスターを討伐する姿を見て、多くのハンターたちは氷の女王のようだと思ったの」
「だから凍冷蒼ハンターの二つ名が……『凍結女王』」
「そう……モンスター討伐以外の依頼も完璧にやっているわ。そして誰に対しても氷のように冷たい」
「すごい人もいたもんですね」
ほへ~と口を大きく開けて、呆然とする後輩受付嬢。
そんな彼女に先輩受付嬢は別の情報を与える。
「因みにそんな氷の女王様にはファンがいるの」
先輩受付嬢はチラッと別の方向に視線を向ける。
彼女の視線を追った後輩受付嬢は、軽蔑の感情を両目に宿した。
「ああん!なんて冷たい目をしているんだ、凍冷様!」
「あの人に思いっきり踏まれたい!『凍結女王』様~!」
「僕は全身を凍らせてほしい~!」
男性ハンターたちが身体をクネクネと動かしながら、『凍結女王』のことで熱く語り合っていた。
近くにいた女性ハンターたちはドン引きしている。
「……凍冷蒼ハンターは男性ハンター達に人気なのよ。特にドMに」
「気持ち悪いです」
「ええ。そうね。激しく同意するわ」
後輩受付嬢の言葉に、先輩受付嬢は力強く頷いた。




