プロローグ
『不思議の国のアリス』。
それが氷の女王が謎の少女と出会って思った第一印象だった。
氷の如く水色の瞳に映るのは、美しい金色。
長い黄金の髪を伸ばした女の子。
一糸まとわぬ姿で硬いコンクリートの上で寝ている少女。
そんな彼女から、水色の髪をポニーテイルに結んだ少女は目が離せなかった。
これが氷のような冷たい心を持つ少女と、黄金のように美しい少女との出会い。
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2050年4月15日。
東京都、新宿。
そこでは人間がいない廃墟となっていた。
あるのはいつ壊れてもおかしくないビルと、皹だらけのコンクリートの地面。捨てられて錆びだらけになった車。
そして……廃墟をウロウロと歩き回る異形の怪物達。
いくつもの目を持つ犬や刃の如く鋭い翼を持つ烏。
何十本の脚を生やした猫や巨大なゴキブリ。
全ての生物が異常。
中でも異常な存在は、中型トラック並みに大きなネズミだった。
頭には大きな花を咲かせており、背中から生えた無数の蔦が触手のように蠢いている。
「ヂュウウウウウゥゥゥゥゥゥゥ~」
不気味な姿をした巨大ネズミは、口から白い煙を吐きながら街の中を歩く。
ドシン!ドシン!と重く大きな足音が響き渡る。
そんな怪物ネズミを、少し離れたビルの上層階から見ている者がいた。
その者は人間の少女。
青い機械仕掛けの鎧を纏い、口元を黒いガスマスクで覆っている。
被っているフードの奥から、氷の如く冷たい水色の瞳が怪しく光った。
「……」
彼女はなにも喋らず、静かに構えていた。
銃身が長い対物ライフルを。
スコープで大型ネズミを捉え、少女はゆっくりと引き金を引いた。
次の瞬間、大きな銃声が鳴り響く。
銃口から放たれた弾丸が音速を超えた速度で飛び、植物ネズミの片目に直撃した。
「ヂュウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ~!?」
激痛に襲われ、悲鳴を上げる怪物ネズミは潰れた片目から大量の血を流す。
右目を奪われた怪物ネズミは、左目でビルの上層階を睨む。
目が合った瞬間、少女は対物ライフルを両腕で抱えてビルの中を走り出した。
「ヂュウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ~!!」
殺意と怒りの雄叫びを上げた怪物ネズミは、ビルに向かって走り出した。
見た目から想像できない速さで、皹だらけのコンクリートの上を走る怪物ネズミ。
ビルに辿り着くまでかかった時間は二十秒。
ネズミの血走った目に映るのは、ビルの中を走る人間の少女。
「ヂュウウウウウ!!」
怪物ネズミは背中に生やした無数の蔦を操り、人間の少女に攻撃する。
ビルの窓ガラスを突き破り、高速に迫りくる蔦達。
それを少女は跳んで躱し、身体を回転させて躱し、滑って躱す。
そして窓ガラスが割れた場所から少女は跳び出した。
地面に向かって自由落下する彼女の頭を覆っていたフードが外れ、水色の長い髪が露になる。
ポニーテイルに結ばれた水色の髪が風で激しく揺れた。
「ヂュウウゥゥゥゥゥゥ!」
獲物を見つけた怪物は無数の蔦で攻撃を放つ。
襲い掛かる触手攻撃を少女は身体を回転させて躱していく。
そして対物ライフルを構え、彼女は五発の弾丸を撃つ。
五発の弾は怪物ネズミの左前脚、右前脚、左後脚、右後脚、そしてもう片方の目を撃ち抜く。
「ヂュウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
血を流し、悲鳴を上げる怪物ネズミは暴れる。
無数の蔦が地面やビル、信号機、車などぶつかり、破壊していく。
痛みに襲われている怪物ネズミの目の前に着地した少女は、対物ライフルを投げ捨てる。
「……」
彼女は無言のまま腰に装着している刀の柄を握り締め、鞘から静かに抜く。
黒い刀身が太陽の光に反射して怪しく輝いた。
刀をぶら下げ、機械仕掛けの鎧を纏った少女は駆け出す。
水色の長い髪と鎧の上から着たコートを揺らし、突撃する彼女は高く跳んだ。
そして氷のような少女は、容赦なくネズミの頭に刀を突き刺した。
赤い血が飛び散り、怪物ネズミは悲鳴を上げる。
「ヂュウウウウゥゥ~……」
ゆっくりと地面に倒れた怪物ネズミは白目を剥き、命を落とす。
ネズミの頭から刀を抜いた少女は血を払い、鞘にしまう。
「……依頼完了」
怪物をあっさり殺した少女は、冷たい目を空に向ける。
雲の隙間から見える太陽が彼女―――凍冷蒼を照らす。
太陽の光に照らされた少女は氷の如く美しく、そして冷たい。
まるで氷の女王。




