第二十六話 笑顔
「さて……そろそろ帰るわよ。装備も用意できたし」
買い物をし、カフェで食事をし、色々な店を見て回った頃。
空はオレンジ色に染まっていた。
闇市に並ぶ店には明かりがつき始めている。
蒼がアリスと共に家に帰ろうとした。
その時、
「待って、蒼!どうしても寄りたいところがあるの!」
アリスは蒼の腕を引っ張って、歩き出す。
強引に引っ張られる蒼は「なに、どこ行くの?」と尋ねる。
「あそこだよ」
金髪少女は指を指す。
彼女の人差し指の先にあったのは、少しボロボロな大きいビル。
人の気配はなく、一目で廃墟だとわかる。
「なんでこんなところに来るのよ」
「一番この街で大きくて、高いビルだから」
「小学生の少年みたいなことを言うわね」
「あと一度、こういう廃墟に行ってみたかったの!」
「本当に小学生の少年のような台詞」
瞳をキラキラと輝かせるアリスは蒼の腕を引っ張って、ビルに入っていった。
そして埃だらけの階段を上り、屋上へと向かう。
屋上に辿り着いたアリスと蒼は、目の前の景色を見て目を見開く。
「うわぁ~!」
「これは……すごいわね」
二人の少女の瞳に映るのは、星の如く光る街とオレンジ色に輝く夕陽。
風がアリスと蒼の髪を揺らし、頬を撫でる。
美しい景色と気持ちいい風が二人を感動させた。
「……あなたは不思議な子よ。アリス」
「え?」
夕陽に照らされた街を見下ろしながら、蒼は言葉を続ける。
「まるで別の世界からやってきたような感じで何も知らなくて、だけど一緒にいると心が温かくなる。……もし『不思議の国のアリス』が実在するなら……あなたみたいな子なのかもしれないわね」
「『不思議の国のアリス』……それって本棚にあった絵本だよね?よく蒼が寝る前に読んでいる」
「ええ……一番好きな童話。アレを読んでいると、こんなクソったれな世界でも頑張って生きていける気がするの」
「ふ~ん……なら蒼は兎さんだね」
「え?」
アリスの言葉に蒼は首を傾げる。
彼女は満面な笑顔を浮かべながら、両手で蒼の手を優しく包んだ。
「もし私が『不思議の国のアリス』の主人公なら……知らないことを教えてくれる優しい氷の兎さんが蒼だよ」
アリスの言葉を聞いて、蒼はポカ~ンと口を開ける。
そしておかしく思った彼女はプッと吹き出し、クスクスと笑い出す。
「氷の女王とか呼ばれていたけど、氷の兎なんて初めて言われたわ。アハハ」
「あ、笑った。初めて蒼が笑った!」
「え?あっ……」
アリスに言われて、蒼も自分が笑っていることに気が付く。
「久しぶりに……笑ったわ。何年ぶりかしら」
「可愛いよ、蒼!」
「ちょ、くっつかないで」
アリスに抱きつかれた蒼は顔を赤く染める。
「蒼……今日はすごく楽しかったね」
「……ええ」
二人の少女は手を繋ぎ、笑い合う。
光の聖女と氷の女王を夕陽は眩しく照らすのだった。




