第二十二話 後悔
モンスター討伐依頼を終えたアリスは、蒼と共に家に帰った。
アリスは暗い表情を浮かべており、目のあたりが赤く腫れている。
そんな彼女を心配そうな顔で見ていた蒼は、ボロボロになった機械仕掛けの鎧を脱ぎ始めた。
「!」
鎧を脱いでいた蒼の背中を目にしたアリスは、目を大きく見開く。
蒼が負った傷は完全に塞がっていたが、大きな傷跡が残っていた。
罪悪感と後悔という名の剣が心に突き刺さり、アリスは泣きそうな顔で俯く。
(私の……せいで)
苦しく感じる胸を手で押さえていたアリスは、目頭に涙を浮かべた。
その涙を蒼は指で拭う。
彼女の瞳は、まるで妹を心配する姉のような優しさが宿っていた。
「アリス……一緒に風呂に入ろう」
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お湯を沸かし、浴槽に湯船を張った後、蒼とアリスは一緒に入る。
浴槽は少し狭く、二人は脚を曲げていた。
温かいお湯につかっていたアリスは、チラリと蒼の身体を見つめる。
蒼の身体は細長く、だけどしっかりと筋肉がついていた。
そして身体のあちこちに古い傷跡が刻まれている。
アリスが古傷を見ていることに気が付いた蒼は、「……気になる?」と静かな声で問う。
「えっと……うん」
アリスは少し躊躇いながらコクリと頷く。
「私はこのクソったれな世界で生きていくために、強くなってモンスターと戦ったわ。戦って戦って戦って……気付いたらこうなってたわ」
蒼は自嘲するかのようにそう言って、右肩にある傷跡を指で撫でる。
「痛くても戦って。苦しくても戦って。辛くても戦って。まったく……昔の私は無茶や無理をしたものよ」
蒼は無表情だった。
しかしその無表情には、どこか過去の自分を愚かだと思っているようにアリスは感じる。
「……どうしてハンターになったの?ハンターって危なくない?生きるためなら、他の仕事をすればいいのに」
アリスは問わなければならなかった。
なぜ戦うのかと。
聞かないといけないと彼女は思ったから。
「そうね」
天井を見つめる蒼は、十秒ぐらい無言でいた。
その沈黙がなにを意味するのか、アリスにはわからない。
「気に入らなかった。弱い自分でいるのが」
ゆっくりと開いた蒼の口から出た言葉は、それだった。
その言葉には、己が憎いという感情が確かに宿っていたことにアリスは気付く。
「弱い……自分?」
「そう。抗いたかったのよ、この地獄に。だからハンターになったの」
「……」
蒼は右手で前髪をかき上げ、ポツリポツリと呟く。
「昔の私は……弱くて、本当に弱くて。なにも守れなかった。そんな自分が大っ嫌いだったわ」
反吐が出ると言いたげな顔で蒼は鋭い目つきをする。
だがすぐに彼女は優しい目をし、アリスを見つめた。
「アリス……強くなりなさい。私が言えるのはそれだけよ」
昔の私みたいにはならないで。
そんな風にアリスには聞こえた。
蒼の言葉を本当の意味で理解したアリスは、瞳に決意の光を宿す。
「わかった。私……強くなる!」
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数日後、アリスはランニングマシンで走り込みをしていた。
ハァハァと息を漏らし、汗を流す彼女は真剣な表情を浮かべている。
走り込みを終えると、アリスは腕立てや腹筋などの筋トレを始めた。
(強くなる……蒼がもう私を庇って傷つかないように!)
蒼に庇われる自分は嫌だ。
だから強くなるんだ。
そう自分に言い聞かせたアリスは、ダンベルを持ち上げた。
強くなるために努力するアリスを、少し離れたところで見ていた蒼は優しい声で呟く。
「がんばれ……」
蒼の小さな呟きがアリスの耳に届くことはなかった。




