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99.宿屋ノボリング

 ジネットと共に鍛冶屋シプリアンに戻るとマルセルの剣の研ぎ抜きは完了していた。

 マルセルは銀貨5枚をシプリアンに渡して、剣を受け取ると、刃先を確認して嬉しそうにニヤッと笑った。

 遥が「嬉しそうだね」と話しかけると、マルセルは答えた。


「かなりボロボロにしてしまったから剣に申し訳ないと思ってたんだよ」


 剣士ならではの感情なのかもしれない。

 その後、私たちがシプリアンとジネットの2人に礼を言って店を出ようとした時だった。


「そうだ、ハルコ様のことで」


 とジネットが私たちを追って話しかけてきた。

 私たちが振り返ると、


「先ほど話が枝豆に飛んでしまったのでお伝えそびれたんですが」


 とジネットが言った。

 確かに豆を探す(くだり)から遥が枝豆に話を飛ばした。


「ハルコ様は、本当に短い期間なんですが、お金を稼ぐために屋台を開かれたことがあって」


 そういえば目撃情報の中にもあった記憶がある。


「集めた情報の中にもありました。変わった道具を売っていたとか」


「そうです。召喚される前の世界で使っていて、この世界に無かったものを作って売られてました」


「例えば?」


「実物をお見せした方が早いと思います」


 ジネットはそう言って奥に入っていき、そして何かを持って帰ってきた。

 私と遥はジネットが手に持っているものを見て、すぐに何かを理解した。


「箸と鰹節削る用のカンナ?」


 遥が私に言ってきた。

 私は「そうだね」と返答した。

 ジネットが持ってきたものは、手作り感満載の箸とハイリスで私たちが買った鰹節削り用のカンナ。


「やはりご存じの物なんですね。これは試作品としていただいた物なので、実際に売っていた物はこれよりクオリティは高いものやったんですが」


「売れたんですか?」


「売れへんかったんですよ。何にどう使うか理解されんくて。こっちのカンナは鰹節と一緒に売っとったんですが、売れへんくて」


 私は心の中で「そうだろうな」と呟いた。


「せやけど、ハルコ様が付けていた腕時計が宿屋ノボリングの主人に高額で売れて目標額達成したっちゅうんで、屋台は畳むことにしたそうです」


「宿屋ノボリングの主人の腕時計のことは聞いてました。店で売っていたわけではなかったんですね」


「はい、通りがかったノボリングさんがハルコ様の腕時計に一目惚れをしたらしく、何度も何度も交渉を重ねてきたそうです。宿屋ノボリングに行けば、自慢げに見せてくれると思いますよ」


 私たちは再びシプリアンとジネットの2人に礼を言って店を出た。

 そして、本日の宿泊予定先の宿屋ノボリングに向かった。


「しっかし、素晴らしい剣や盾をたくさん見てきたからと言って、顔を見たこともなかった鍛冶師に惚れて、探し出して猛アプローチして結婚したくなるものなのか?」


 マルセルがぶつぶつ言っている。

 ジネットから聞いたシプリアンに惚れた理由が腑に落ちなかったようだった。


「それは人それぞれですから」


 ヤニックがマルセルをなだめている。

 やがて目的の場所、宿屋ノボリングの前に到着した。

 マルセルはあからさまに嫌な顔をした。


「ここだ。宿屋ノボリング。あ~、ロランス様の紹介状を出した方がいい」


「なんで?」


「嫌な奴なんだ。冒険者をすごく下に見る。ヤニックも」


 マルセルは何か言いかけて言い淀んだ。

 ヤニックはそれを察したのか、訊いた。


「獣人族を嫌うタイプですか?」


「典型的なそれだ。だからヤニックは特にロランス様の紹介状が絶対に必要だ。もし宿泊を拒絶してきたなら、時計の話を聞くだけで終わらせよう」


 私たちはマルセルの言葉に頷き、意を決して宿屋ノボリングの中に入っていった。

 受付に立っていた男性がこちらを見るなり、怪訝そうな顔をした。


「冒険者向けの部屋は今日は満室や」


 男性は言った。マルセルの表情から察するにこの男性がノボリングだろう。


「冒険者向けの部屋ではない方が良いです」


 マルセルが言うと、ノボリングは、


「銀貨20枚出せるか?」


 と訊いてきた。そしてヤニックを見るなり、


「獣人はお断りなんや。部屋にニオイを残しよるからな」


 と言ってきた。

 嫌な奴とは聞いていたけれど、本当に嫌な奴だと思った。

 マルセルは「銀貨20枚は余裕だけど」と声に出して言ってから、私たちに向けて丁寧な口調で話しかけた。


「どうされますか?ウィザード・ロランスのお客人ですので、首都ベンチャの中でも高級と言われる宿に案内したつもりでしたが、宿屋の主人が失礼なことを。ご不快な想いはされていませんか?」


 ノボリングは顔色を変えて、途端に作り笑いを浮かべた。


「ウィザード・ロランスのお客人?!言うてるだけやないですか?証拠はあるんですか?」


 遥はマルセルの臭い芝居に乗っかって、ロランスの紹介状をノボリングに見せた。


「こちらで良いかしら?」


 次いで、私とヤニックもロランスの紹介状を見せた。

 ノボリングはまるで媚びを売る様に満々の笑みを浮かべた。


「大変失礼いたしました。まさかウィザード・ロランスのお客人であったとは。トイレ付きの我が宿最高級のお部屋を用意いたします」


 マルセルは「銀貨20枚だよな」と念を押すように訊く。

 ノボリングは作り笑顔で「もちろんでございます」と答えた。

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