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95.鍛冶屋シプリアン

 「すんませ~ん」と中に入っていったマルセルに続いて、私たちも鍛冶屋シプリアンに入っていた。

 大柄な男はムスっとした顔でこちらを見た。そして不愛想に「何?」と訊いてくる。

 マルセルは剣を大柄な男に見せて言った。


「シプリアンさんにこれを修復していただきたい」


 この大柄な男が店名の主であるシプリアンらしい。

 シプリアンは剣を受け取って刃の様子を見る。


「最近大量に何かを切ったか」


「その通りです。少し前に大ネズミのいる洞窟へ」


「鍛え直しで銀貨50枚、研ぎ抜きで銀貨5枚」


 マルセルは悩むことなく「研ぎ抜きで」と即答して、銀貨5枚をシプリアンに渡した。

 シプリアンはそのまま剣の研ぎ抜きに入ろうとしたけれど、そこをマルセルが止めるように言った。


「あと、ジネットさんいらっしゃいますか?」


 シプリアンはムスっとした顔で「何で?」と聞き返す。


「ジネットさんが以前、勇者の世話役を務めていたと冒険者ギルドで伺いまして、その時のお話をお聞きしたく」


 シプリアンは引き続きムスっとした顔で「何で?」と聞き返す。


「この二人が勇者パーティの人魚の家族で、彼らの情報を集めておりまして」


 シプリアンはムスっとした顔のまま私たちを見た。

 私は小さく会釈して、


「もし、お時間が合えばで良いのですが…」


 と申し訳なさそうに言うと、シプリアンはマルセルの剣を台に乗せて部屋の奥に入っていった。

 そして、奥から小柄な女性と共に戻ってきた。ジネットだ。とても可愛らしく幼い感じのする女性だった。


「勇者の話を聞きたいと?」


 ジネットは私たちに話しかける。


「ご迷惑でなければ」


 私が返すと、ジネットは聞いていた。


「ここやと彼の邪魔になるんで、外でもええですか?」


「はい、どこでも」


 私たちはジネットに案内され、店から少し離れた公園のような広場に移動した。


「ほんで、ハルコ様の家族というんはお二人ですか」


 ジネットは私と遥に訊く。


「はい、私は春子の姉で、この子は春子の娘です」


「確かにそんな雰囲気ありますねえ。当時のエイタ様とハルコ様の話ですかあ。私は確かにお世話係をしておりましたが、ご期待に沿えるようなエピソードはないですよ」


「何でも良いんです。当時の彼らの様子を知ることが出来れば」


「そうですか…。ではお話しますが…。当時、私は魔法学校で武具や魔道具の管理をしておりました」


「魔法学校で?では、ビシアさんとの関係からお世話係に?」


「それは違います。私がお世話係になったんはエイタ様とハルコ様が召喚されて間もない頃で、ビシア先生が勇者パーティに入る前のことです」


「では、なぜ魔法学校で武具や魔道具の管理をしていた方がお世話係に?」


「お二人を召喚したのはサンバチスト様で、基本的にお二人はサンバチスト様の指揮下にあるのですが、召喚された時点では勇者としては未熟ということで暫くはこの国で特訓することになったんです。その間の、この世界に慣れるまでの案内をクレマンス様に託しました。そのクレマンス様の直下の組織がベンチャ王国の魔法学校で、比較的融通の利く仕事をしていたのが私やったんです」


「なるほど」


「でも、大してお世話はしておらんのですよ。魔法学校の仕事もあるものですから、毎日お世話することもできまへんので、この日は魔法学校、この日はお二人のサポートといった形です。主に行っていたのは、お二人が北側エリアで暮らし始める準備のお手伝いですね。首都ベンチャの案内であるとか、通貨の考え方であるとか、生活面でのこの世界の常識をお伝えすることであったり」


「例えば?」


「それこそ既に経験されているかと思いますがトイレのことやったり、食事前のマナーやったり」


 私も遥も納得して「ああ」という声が漏れた。


「ハルコ様は自分で料理をされるちゅうことやったのでこの世界の食材に関することやったり、調理をするための魔道具をそろえるのを手伝ったり、それの使い方を教えたりやったり、簡単な魔法の使い方やったり、魔法の杖を買いに行ったりもしましたね。あとはハイリスへの道案内であったり、ハイリスでの特訓中にハルコ様からこの世界の豆を集めてほしいと言われて集めたり」


 それはきっと醤油づくりの為だったのだろうと思った。


「大豆を用意したのもジネットさんですか?」


「ああ、油用の豆ですね。そうです。食用の豆は全て求めているものと違ったようで、残っていたのが油に加工する豆や、家畜のえさ用の豆にまで手を出して。結果として油用の豆が希望のようなものやったようですが」


 ジネットがそう言った時に、遥が前に出てジネットの手を両手でギュッと握った。


「ありがとうございます!ジネットさんは醤油づくりの功労者だったんですね!」


 ジネットは若干引き気味に造り笑顔を返す。

 遥はジネットの手を握ったまま、


「大豆を品種改良して食べられる枝豆にしたのは?」


「ああ、枝豆ですね。枝豆が出来た頃は私はお世話係から離れておりましたので、後からハルコ様からお土産としていただきました。品種改良したのはおそらくビシア先生ではないかと。枝豆が出来た頃にはビシア先生が勇者パーティに加入しておりましたし、彼は植物を操作することを得意とする木属性の魔術師で、植物に関する知識が豊富ですので。あの…もう離してもらってええですか?」


 とジネットは遥に握られた手を見る。

 遥は「ごめんなさい」と手を離す。


「あと、お伝えできることととすれば…」

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