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91.首都ベンチャ

 タイムリーパーの話で盛り上がっている間に首都ベンチャに近づいていた。


「ここらで車から降りて歩こう」


 マルセルの提案で私たちは車を降りて歩き出した。車も金の卵も空間収納にしまった。


「ベンチャ王国って赤いよね」


 遥が正面に見えてきた首都ベンチャの石壁の、その奥の街並みを見て言った。

 石壁は首都シャルタルとほぼ同じに見えるけれど、その奥の街並みは全く違う。道中で赤い建物をぽつりぽつりと見てきたけれど、首都ベンチャはその赤い建物の集合体のようになっている。


「ベンチャ王国はレンガを多用する文化なんだ。首都シャルタルの冒険者ギルドがレンガ造りだったろう?あれはこの国の影響を受けている。冒険者ギルドの発祥がベンチャ王国なんだ。五大国の冒険者ギルドはこの国の造りに倣って造られているんだ」


 マルセルが説明してくれる。

 私たちは冒険者証を見せて門を通過し、首都ベンチャの中に入った。


「どうする?宿屋ノボリングに行くか?それとも地下道?それとも勇者と人魚が住んでいた家?正直、家だけは難しいんだが」


 遥が「何で?」と訊く。


「シャルタル王国では俺はロランス様の従者の立場で北側エリアに入る許可が下りている身だったけど、この国では違う」


「そっか。じゃあ、最悪諦めなければならないってことね」


「可能性があるとすればロランス様の従者、ロランス様の紹介状を持つ者という立場でクレマンス様に頼むという手段だ」


 そういえば、出会った時、クレマンスはマルセルの恩人だと言っていたような記憶がある。


「クレマンス様と繋がりはあるの?恩人だって言ってたよね?」


 私はマルセルに訊いた。

 マルセルが「ああ」と言って少し口ごもった。


「何か言えない事情が?」


「言えないってわけではない。俺が最初に弟子入りを志願したのはクレマンス様なんだ」


「そうなの?」


「冒険者として、ある仕事をした時に、うちのパーティーが壊滅的な被害に遭ってさ、そこに助けに来てくれたのがクレマンス様で。そこで縁が出来たんだ。パーティの半数以上がこの被害がトラウマになって冒険者辞めてさ、俺も辞めようと決心したんだが、その時に気づいたんだ。手に職が無いって。性格的に商売人タイプでもないし、俺の魔力は剣にこめるくらいしかできなくて、いわゆる魔法も使えない。で、偉大な魔法使いに弟子入りしたら魔法が使えるようになるのではないかと考えて、弟子入り志願したんだ。クレマンス様に」


「そうだったんだ…あれ?確かロランス様は押し付けられたって言ってた」


「俺の傷口を広げるな。クレマンス様に断られて、ロランス様を紹介されたんだ」


 遥が何を悟ったのか、マルセルの肩をぽんぽんと叩いた。


「つまりクレマンス様に会いに行くのは気まずいということだね」


 マルセルは気まずそうな顔をしながら言った。


「気まずいわけでもないんだけど、首都ベンチャに今いるか分からない。ロランス様のように地方に行っている可能性がある」


 なるほど、確かにその可能性はある。では、


「まずは冒険者ギルドに行ってみたい」


 私はマルセルに言った。

 マルセルは「なぜ?」と返した。


「勇者パーティの仲間を知りたい。情報によると引退していたタンクとか、クレマンスの一番弟子とか、ハーフエルフのSランク魔術師とかが仲間になったというけど、どういう人なのか冒険者ギルドなら知ってると思って」


 マルセルは頷いた。


「ならば冒険者ギルドに行こう」


 こうして私たちは首都ベンチャの冒険者ギルドに向かった。全ての建物がレンガ造りで見た目がほとんど同じに見える中で、一か所だけ見覚えのある造りの建物があった。


「あれが冒険者ギルド?」


 私が訊くと、マルセルは「そうだ」と答えた。

 先ほどマルセルが五大国の冒険者ギルドは、ベンチャ王国の冒険者ギルドの影響を受けていると言ってはいたが、これはさすがにまんますぎる。そっくりだ。

 建物の中に入る。内部の造りもほぼ同じである。チェーン店のファミレスかラーメン屋かといったぐらい似ている。


「あら?マルセル?」


 カウンターの女性が声をかけてきた。

 マルセルは気まずそうな顔をして「よお」と返事をした。


「久しぶりやね。どしたん?冒険者に戻るん?」


 ここでも「ウィザード・ロランスに捨てられて冒険者に復帰?」と聞かれない。やはりこの国ではマルセルがロランスに師事していることは知られていないのかもしれない。


「いや、冒険者に戻るんやなくて、教えてほしいことがあってな」


 マルセルの口調がベンチャなまりになっている。ハイリスではシンファルに引きずられることはなかったのに、ここでは簡単に引きずられている。かつてのここでの生活を思い出したのだろうか。


「何?」


「俺、今はシャルタル王国のウィザード・ロランスの従者をしとんのや。こちらはウィザード・ロランスのお客人で勇者パーティに関する情報を集めている」


 カウンターの女性は私たちに会釈をした。


「勇者パーティに関するどのような情報?」


「どのような情報でもええ。今知っとんのは勇者と共に召喚された人魚のほかに、引退していたタンク、クレマンスの一番弟子、ハーフエルフのSランク魔術師が仲間になったという情報や」


「なるほど。あ、ちょっと待って」


 カウンターの女性は、私たちの後ろに並ぶ仕事情報の紙を持った冒険者に向けて、


「すみません、他のカウンターに回ってください」


 と案内し、マルセルに視線を戻した。


「ここやとまた並ばれてまうから、そこのテーブルで」


 と、空いているテーブルセットを指した。

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