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90.車内の雑談

 翌朝、私たちは首都ベンチャに向けてハイリスを出発することになった。

 宿代について私は払うと言ったけれど、シンファルは宿代を半額にしてくれた。そして、


「空間収納持っとるんやろ?刺身持ってき」


 と獲れたての刺身盛り合わせをお土産として渡してくれた。

 空間収納は物が劣化しない。つまり海から離れた場所で鮮度の良い状態の刺身を食べられるということだ。その発想を全くしていなかったので勉強になった。

 私たちはシンファルのお土産をヒントにこの先で手に入りそうにない新鮮な魚を大量に購入し、空間収納にしまった。食材屋テレサッテで醤油、味噌、鰹節も追加で購入した。

 そして、私はハイリスの門を出た。

 少し離れたところから車に乗り込む。今回の運転手はヤニックだ。助手席にマルセル。私と遥が後部座席に座る。私は空間収納から出しておいた金の卵を膝の上で温める。寝る時はずっと抱いて温めているけれど、いまだに(かえ)る様子は無い。

 車窓はシャルタルと少し違って見えた。家の作りも違っている。シャルタル王国が西欧風な白や黄色っぽい街並みだとすると、ベンチャ王国は中東欧風な赤っぽい街並みという感じだろうか。首都シャルタルでは冒険者ギルドだけがレンガ造りの建物だった印象だけれど、ベンチャ王国は殆どの建物がレンガ造りという印象だ。


「ねえねえ、タイムリーパーの話どう思った?」


 遥が私たちに訊いてきた。


「春子が『いる』と言ったなら、本当にいるのかもしれないとは思ったよ」


 私は答える。


「異世界から車ごと落ちてきた人を目撃した以上、未来から来た人間がいるという話も否定はできないよな」


 マルセルはヤニックに同意を求め、


「そうですね。僕はこのあとどんな人が目の前に現れても驚かない気はします。例えば、不死身ですとか」


 ヤニックが運転しながら答える。


「不死身はヤニック自身がそうじゃん。ダンジョンで不死身アイテム手に入れたじゃん」


 遥がヤニックに反応する。


「不死の護符ですね。一応胸ポケットにちゃんと入れてます。でもこれは一回しか使えないんですよね」


 マルセルは振り返って後部座席の私を見る。


「そういえば金の卵はどうなったんだ?」


 私は金の卵を見せて、


「今のところ何の反応もないよ。本当に(かえ)るの?」


(かえ)るはずなんだけどな。意外と時間かかるんだな」


「私のエアプリウムもいつ使うことになるやら」


 遥は鳥の羽っぽいエアプリウムを取り出して眺めた後、エアプリウムで私の金の卵をさっと撫でた。金の卵は特に反応しない。


「ねえ、タイムリーパーの話に流れを戻すけど、タイムリーパーは何のためにダンジョンの整理をさせたんだと思う?ダンジョンって何度も挑戦できるんじゃないの?整理できるの?」


 遥がマルセル向けに質問した。

 マルセルはそれを察して答える。


「商業用ダンジョンならば基本的には何度も挑戦できる。ベリンズ村のダンジョンなんかは典型的な商業用ダンジョンだ」


「商業用と商業用じゃないのがあるの?」


「ある。商業用ダンジョンのボスは倒されたとしても復活できる。それこそヤニックの不死の護符みたいな仕組みだ。商業用ではないダンジョンはボスを倒すとダンジョンが消失する」


「どうやって商業用とそれ以外に分けるの?」


「俺もそこまで詳しいわけではないんだが、聞いた話ではサンバチスト様が何かやってるみたいだけどな。基本的にはダンジョンが出来れば冒険者が集まってきて近隣の町は潤うようになる。だからダンジョンを商業用化することが多いが、中には商業化するには危険すぎるダンジョンとか、近隣の町がダンジョンを望んでないとかあるんじゃないか?」


「タイムリーパーがエンガ王国のダンジョンを整理するようにサンバチスト様に進言したということは、整理しなかった世界線では何かしらの危険があったということ?」


 遥に立て続けに質問され、マルセルは困ったような顔をする。


「俺に訊くなよ。その世界線を俺は知らないんだから」


 そりゃそうだと思った。


「タイムリーパーに会うことが出来たら、本人に訊いてみればいいんじゃないですか?」


 ヤニックが運転しながら遥に言った。ヤニックは運転に慣れてきて余裕が出てきているのかな、とふと思った。


「タイムリーパーに会えるかな。男なのかな、女なのかな」


 遥が私に言ってくるので、私は答える。


「実はもうすれ違ってるかもしれないよ」


 遥は目を丸くする。


「その可能性考えてなかった。温泉地ルシュダールのブッフェで声かけてきたカップルが実はタイムリーパーで、私たちにエンガ王国へ行くよう誘導していたパターンとかあるかも!」


 それに対してマルセルが突っ込む。


「もしタイムリーパーならそんな回りくどいことするかよ。ど直球で来るだろう。タイムリーパーが望む未来において俺たちが必要な存在だったのならば、俺たちに会いに来るじゃないか。夏子と遥は未来を変えるのに必要だからこの世界に呼ばれたっつー可能性も出てくる」


「マルセルとヤニックが私たちに同行するのもタイムリーパーによってコントロールされた結果だった可能性も?」


 と遥は言った後、


「え、まさかのロランス様がタイムリーパーの可能性ある?!サンバチスト様に近い存在だし。私たちはロランス様に召喚された?」


 と、まるで正解を導き出したような顔をして言った。

 しかしマルセルが冷静に答えた。


「それはないよ。車が落ちてきたとき、お師匠、あ、ロランス様はビックリしてたから。な、ヤニック」


「はい、村での魔法の練習中で、一人だけ車に背を向けている状態だったので、誰よりも遅く気づいて、誰よりも『あらあら~』と慌ててましたからね」

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