89.次の目的地
夕食までの間、私たちはハイリスの街を再び散策することになった。朝と違ってほとんどの店が開いている。食材屋テレサッテも開いていた。事前に聞いていた通り市場にはない商品がずらりと並び、醤油と味噌もしっかり販売されていた。醤油は500mlくらいの瓶に入ったもので銀貨1枚、味噌はカップラーメンくらいの大きさのガラス瓶に入ったもので銀貨1枚になっている。もっと高いかと思っていたけれど、べらぼうに高い金額ではなかった。そして驚いたのは鰹節まで売っていた。私は鰹節とカンナのような道具を合わせて購入した。
一通りハイリスの見学が終わって食堂シンファルに戻ると、シンファルが待ってましたと言わんばかりに私たちを昨日と同じテーブルに案内してくれた。
「いももちを先付けで出しとんやけど、好評やで。こりゃレシピ共有すればハイリスの名物になるかもしれん。感謝するわ」
「それは良かったです」
「食事の用意するから、水汲んで待っとって」
私たちが水を汲んで戻ってくると、いももちが先付けとして登場した。サイズは一回り小さくなっているけれど、醤油、味噌、みたらし、チーズ、全ての味が並ぶ形になっている。先付けとしてはちょうど良いサイズ感なのかもしれない。
私たちは右手を胸に当てて目を閉じ、全員で口にした。
『サンバチスト様、この食事に祝福を、そして命に感謝を込めて』
私たちは再びいももちを頬張る。
「本当にこれは美味しいですね!」
ヤニックが感動してる風に言ってくる。
マルセルはいももちを食べながら、
「いももちだけではなく、片栗粉もきっと名産として売り出すぞ。シンファルさんは商売人だからな」
と言ってシンファルさんを目で追った。
続いて運ばれてきたのは昨日と同じお吸い物と刺身の盛り合わせだった。しかし刺身の種類が違う。見た目だけで判断するとマグロ、ハマチ、カツオのたたきのような刺身になっている。また、漬けではなく別の醤油が入った小皿が出されている。
「毎日泊っても飽きないように変えてるんだね。私としては、これがマグロか分からないけど、マグロっぽい刺身が食べられて嬉しい」
と遥が嬉しそうにマグロを口に入れた。
「なんだか僕も食べられるようになってきた気がします」
とヤニックが明るい表情で刺身を食べている。
私たちが刺身を食べ終わると、今日は煮魚が出てきた。見た目はカレイに見える。
「これはお米が欲しい」
私は思わず呟く。
「お米ってどんなものなの?」
マルセルが訊いてくる。
「白い楕円の粒で、もちもちしてる感じ」
マルセルは「白い粒…」と天井を見ながら呟く。
「確かに俺も見たことはない気がする。粒状の食べ物はいくつかあるんだけど。丸ではなく楕円だろう?黄色っぽい丸い粒とか、薄茶の楕円とかはあるんだが」
黄色っぽい丸い粒はクスクスのようなものだろうか?おそらくコメの類ではないだろう。一方、薄茶の楕円の方が気になる。玄米の状態の可能性がある。
「薄茶の楕円の粒はどこで見たの?」
「どこだっけなあ。この国ではなかったと思うぞ。たぶん北の方だ」
「エンガ王国かマチュヤ王国かということ?」
「たぶん、山の近くだった気はする」
遥が「でもさ」と口を挟む。
「もしもエンガ王国に米があったなら、ママがシンファルさんに伝えに来ると思うんだよ」
確かに言う通りだ。春子は飛んで移動できるのだから、米が見つかった時点で醤油や味噌を作ってくれるハイリスの人たちに一報入れる気がする。
「マチュヤだったかなあ…覚えてないな。美味しかったという記憶が残ってないからだと思う」
マルセルが言う。
そこに約束の肉じゃがが運ばれてくる。
「肉じゃがだー!」
遥がテンションを上げる。
見た目は日本で食べていた肉じゃがのまんまだ。すごい再現度だ。味はというと、こちらもかなり近い味になっている。少し違う気がするのはみりんの代わりにハチミツを使っている部分だと思われる。
最後にすいとんが入った豚汁が出てきた。
「豚汁だ!」
とテンションを上げた遥は、一口飲んでから、
「味噌を手に入れたし、この先でも飲めるよね」
と私に言ってくる。
「それは私に作れと言っているの?」
私は遥に問う。
「私も手伝えることはやるよ」
その後、食後のデザートを食べて、私たちの夕食は終わった。
「明日はどうしますか?」
ヤニックが訊いてきた。
私としては、
「首都ベンチャには行きたいと思ってる。春子とエイタ君が暮らしていたという家も見てみたいし、宿屋ノボリングの主人にも時計の話を聞きたいし、地下道の話も気になってる」
「ここから首都ベンチャはどれくらいかかるの?」
遥がマルセルに訊く。
マルセルは「うーん」と唸ってから答えた。
「首都シャルタルからハッシュに行く距離よりも少し遠いくらいだ。だから車で行くなら半日もかからず到着するだろう」
「では、明日は首都ベンチャに向けて出発ですね?」
ヤニックが確認するように訊いてくる。
「うん、その計画で行こう」
私は答えた。




