81.よく知る人
カウンターを後にして、参考として仕事一覧を確認してみた。首都シャルタルと比べると当然ながら仕事量は少ない。仕事内容も薬草探し、漁師の網掃除の手伝い、畑の柵の入れ替えなど冒険者の仕事というより雑用係に近い印象だ。マルセルも、
「特にやるべき仕事はないな」
という判断した。
そのまま冒険者ギルドを出ようとしたが、重大なことに気づいて私はカウンターに戻った。慌てて3人もついてくる。
受付の男性はにこやかに対応してくれた。
「何か気になる仕事がありましたか?」
「すみません、お訊ねそびれたことがありまして」
「何でしょうか?」
「昔、ハイリスに勇者と人魚がいた時があったと聞きました。その時の様子とか何か知っていることがあれば聞きたいのですが」
受付の男性は何故そのようなことを聞くのだろうという風な顔をして、
「勇者エイタと人魚についてですか?」
と確認してきた。
私は大きく頷いて「はい」と答える。
「確かにハイリスを拠点に修行していた時期はありました。6~7年くらい前ですかね」
「その時のことをお聞きしたいです」
「その時はまだ勇者一行は冒険者活動を開始していなかったので、冒険者ギルドとしては交わることはなかったのですが、海で魔獣を討伐する特訓をしていたようです」
内容としてはハッシュの漁師と同じだ。
「他には?」
受付の男性は少し困った顔をした。
「たまに町で買い物とか食事とかされている姿は拝見したことがありますが…うーん、そうですね。私よりももっと詳しい方がいらっしゃいます。その方にお聞きした方が、お求めになっている回答を得られるのではないでしょうか」
「どなたでしょう?」
「宿屋のシンファルさんです。シンファルさんは漁師をやりながら宿屋を経営されている方で、この辺りの海事情に詳しく、漁師たちの漁と勇者の特訓の調整をされていました。また、勇者と人魚がハイリスに滞在している間はシンファルさんの宿を利用していました」
「シンファルさんの宿はここから近いですか?」
「ええ、市場の前にあります」
「ありがとうございます!シンファルさんの宿屋に行ってみます」
こうして私たちは宿屋シンファルに行くことになった。太陽は沈みかけていた。
「どうせなら今日は宿屋シンファルに泊まるか?」
マルセルは訊いてきた。
「いいね、それ!」
遥が乗った。
「ただ、空いてるかな」
マルセルは不安そうに言う。
「満室の可能性あるの?」
「ある。宿屋シンファルは人気の宿なんだ。俺も泊まれたのは一度だけだ」
「そうなの?」
「朝夕の食事付きでさ、だから少し割高ではあるんだが、店主が漁師なだけあって活きの良い魚介料理でさ、それが美味いんだ」
ヤニックがそれを受けて、少し興奮気味に主張した。
「であれば、より一層そこに泊まりたいです」
「よし、部屋が残っていることを祈って向かおう」
速足で前を歩くマルセルの背中に向かって、遥が慌てて言う。
「部屋はトイレ付がいい」
マルセルはちらっと振り返って
「安心しろ。どの宿屋もそういうワンランク上の部屋ほど空いてるもんだ。俺が一度しか泊まれなかったのも安い部屋が空いてなかったからという理由もある」
マルセルの先導で真っすぐ宿屋シンファルに向かう。
やがてハッシュと同じような市場が見えてくる。冒険者ギルドの受付の男性が言っていた通り、市場の正面に宿屋シンファルは建っていた。一階が食堂になっていて、そこで朝夕の食事ができるらしい。既に食べている人もいるようだ。
「この食堂がフロントも兼ねてる」
と言って、マルセルは食堂の扉を開けた。チャリンチャリンと扉に付いたベルが鳴る。
その音に気付いて、店主と思われるこんがり肌の男性が声をかけてきた。
「いらっしゃい。どちらで御用?宿?飯?」
どうやら宿泊客以外で夕食だけ食べに来る人も受け入れているようだ。
マルセルが代表して主人と思われる男性の質問に答えてくれる。
「宿の方で、本日4名泊まれますか?」
「安い部屋は埋まっとるけど、一人部屋ならまだ空きあるよ」
店主と思われる男性の回答に対して、遥が確認するように訊く。
「その部屋はトイレ付きですか?」
「トイレ付いてる部屋やよ。銀貨13枚前払いやけどええかい?」
誰が答えるよりも先に遥は「良いです!」と答えた。
私たちは店主と思われる男性に銀貨13枚を払って部屋の鍵を貰った。
「食事、してまう?」
店主と思われる男性が聞いてきた。
私たちが「はい」と答えると、宿泊客専用らしいテーブルに案内してくれた。




