79.港町ハイリス
ハイリスの中を入っていくと、より一層ハッシュの街並みと似ていた。大通りには様々なお店が並んでいて、ハッシュと同じように店員による積極的な呼び込みもある。店員たちの発音もハッシュの店員たちの発音ととても似ている。
「ハッシュにいるのかハイリスにいるのか分からなくなりそう」
遥がきょろきょろしながら言う。
「あの店とかハッシュで見た気がします」
ヤニックが一軒のお店を指した。パン屋のようだ。
それに対しマルセルが「よく気づいたな」と反応した。
「あのオウンリールというパン屋、ハッシュにもあったものだ」
遥は「真似したの?」とマルセルに訊ねる。
「違う、あの店に関しては元のオーナーが同じなんだ。同じ人物がつくった店だ。名前まで同じ」
「国をまたいで進出したってこと?」
「本来シャルタル王国の人間がベンチャ王国に店を出したり、ベンチャ王国の人間がシャルタル王国に店を出したりというのは禁止されている。しかし籍を移してしまえば可能になる。例えばシャルタル王国の冒険者がリタイアして、ベンチャ王国に籍を移すとする。そうすれば元はシャルタル王国の人間でもベンチャ王国で店を出すことができるようになるんだ」
「つまり、あの店のオーナーはハッシュで店を出した後に、ベンチャ王国に籍を移してハイリスでも店を出した。あるいはその逆ってこと?でも、籍を移す前に店を閉じなければいけないんじゃないの?」
「それが、閉じなくても店主さえ替われば問題は無いんだ。あの店は最初にハイリスで開店した。その後オーナーがシャルタル王国に籍を移してハッシュに同じ店を出したという形なんだが、今、そこの店主をしているのはオーナーの息子なんだな。オーナーの息子は籍をベンチャに残している」
「そういう裏技があるんだ」
「そういう裏技で元のオーナーが同じ店というのがいくつも存在する。特にこうやって国境で両岸にあるような町は特に多い。あっちでもこっちでも儲けたいとか、あっちの方が儲かるかもしれないとか商人たちは考えるみたいだな。だからより一層街並みが似るんだ。真似して作るだけではなくて、同じ店を同じ人物が出すわけだからな」
「なるほどねえ」
そんな話をしながら、私たちはハイリスの冒険者ギルドに向かった。
到着したハイリスの冒険者ギルドは首都シャルタルよりもこじんまりしている。規模感としては温泉地ルシュダールの冒険者ギルドに近い。
大きさも冒険者やスタッフの人数もこじんまりしているけれど、基本的に冒険者ギルドの造りは同じようで、木造の太い柱に支えられた広い空間、レンガの壁面に木製の大きな扉と窓枠、幾重にも重なった木の梁がむき出しになった高い天井、全体的に茶色っぽい室内。いくつかあるテーブルと椅子のセット。ここでの冒険者の割合も男性8割、女性2割くらいの比率だ。屈強な男性の集団、屈強な男性の集団の中に冒険者というには貧弱そうな男性が何人か紛れている集団、屈強そうな男性の集団の中に何名か女性が混じっている集団、女性だけの集団という見たことのある光景が広がっていた。
私たちは真っすぐカウンターに行く。唯一、首都シャルタルや温泉地ルシュダールと違うことがある。
受付の男性が「ご用は?」とだけ聞いていた。
受付が男性というところが違うというのもあるけれど、私が気づいた違いはこの男への反応だった。
「冒険者登録をしたいのだが」
マルセルは言った。
「新規登録ですか?それとも他国で冒険者登録をされてますか?」
「シャルタル王国で冒険者登録をしている」
話がどんどん進んでいく。受付はマルセルに対して特に何も言わない。ここにいる冒険者たちも何も言わない。そう、この冒険者ギルドでは一度も「ウィザード・ロランスに捨てられて冒険者に復帰?」と聞かれていない。国が違うから、マルセルがロランスに師事していることは知られていないのかもしれない。
「では、シャルタル王国の冒険者証を提出ください」
マルセルが私たちに「冒険者証」と提出するよう手をカウンターに向けた。私たちは冒険者証をカウンターに置いた。
受付の男性は「お預かりします」と言った後、マルセルに、
「あなたは?」
と聞いた。
マルセルは手を顔の前で横に振って答えた。
「俺は首都ベンチャで既に登録済みです」
「承知しました。それではそちらの3名の検査を行います」




