74.情報の中身②
私は読み終わった束をマルセルに回し、マルセルはヤニックに回し、ヤニックは遥に回した。
そして遥から受け取った。主にエンガ王国の情報だった。
エンガ王国のいろんな場所で確認されているようだ。地図はないけれど地域ごとに目撃された時期が違っているので、勇者一行が移動していることは読み取れる。最も古いのが4~5年前の又聞き話でどこそこのダンジョンで勇者が特訓をしていたという話が多く、3~4年前の又聞き話ではどこかに現れた魔物を勇者パーティが討伐したらしいというものが多い。2~3年前の又聞き話は空を泳ぐ人魚の情報が多くなる。エンガ王国での目撃談は4件あるが全て2~3年前の話になっていて、目撃談のうち3件は人魚が空を飛んでいるのを見たというものだった。
「勇者一行はマチュヤ王国方向に進んでいっているという理解で良いの?」
とマルセルに訊いた。
マルセルは読んでいるメモから視線を上げて、
「今エンガ王国の分を読んでる?」
と訊いてきた。
私は「そう」と答える。
「そうとは限らない、一度ベンチャ王国側に戻っている時期がありそうだ」
遥も私と同様にマチュヤ王国方面に進んでいっていると解釈していたようで、
「そうなの?」
と驚いてマルセルに訊いた。
「ベスティムにいる期間が長そうだろう。ベスティムはエンガ王国で最も北側にある街だが、最もマチュヤ王国寄りというわけではない。そのメモから読み取れるのは、温泉のビュッフェで会った人が言っていたように、ベスティムを拠点にエンガ王国の中を移動していたのではないかということだ」
マルセルの考察を聞いてからメモを読み直すと確かにベスティムでの情報は複数年に渡っているように見える。2年から4年前の話が多くなっている。1年以内の話は存在していないので、単純に1年以内に目撃した人がシャルタル王国に来ていないだけという可能性もあるけれど、今はエンガ王国にいない可能性が高いのではないだろうか。
ビュッフェのお姉さんが語っていたヴェルタン村のダンジョンの話は2年前という話だった。エンガ王国を離れる直前の出来事だったのではないだろうか?
「ヴェルダン村はマチュヤ王国に向かう途中にある?」
「マチュヤ王国寄りではあるけど途中という場所ではない。ヴェルダン村はキレネー山脈の麓にあって、そこを通ってマチュヤ王国に向かおうとするのは遠回りになる。だから村を救う目的であえて向かったのだろうと思う」
ベスティムでの情報は多くはない。しかし、他の地域であった人魚が空を飛んでるのを見たという話は少なく、冒険者ギルドで持て余していた高難易度依頼を勇者パーティが引き受けてくれたらしいとか、どこかに現れた魔物を勇者パーティーが討伐に向かったらしいという話だ。ヴェルダン村の話もその一つだろう。
そしてエンガ王国の残る一つの目撃談がベスティムでの話だった。その目撃情報では2~3年ほど前に勇者エイタがベスティムの同世代の友人と勝手にパーティーを組んで冒険ギルドの依頼を受けて出て行ってしまい、人魚はじめパーティの人たちが困っていたという話だ。人魚は「エイタが反抗期に入ってしまった」と漏らしていたという。
エイタ君は遥の一つ下だ。今から2~3年前というと12歳~13歳くらいの時の話である。年齢を思い浮かべると、確かに第二反抗期いわゆる思春期の時期と重なる。遥も一時的に反抗期が来て、一度だけ家出をしたことがある。
全て憶測だけれど、人魚が泳いでいたのは上空からエイタ君が同世代の友人と組んだパーティーの様子を上空から確認していた、あるいは、エイタ君のパーティーを探していた。だから人魚が空を泳いでいる姿が多く確認されていたのではないだろうか?
そして最後の束が回ってきた。流れで言うとマチュヤ王国の話だろうと考えていたら違った。ザックリ言うと勇者パーティが見つけたダンジョンの場所という位置づけのものだった。どうやら勇者パーティはかなりの数のダンジョンを見つけていたようだ。ベンチャ王国とエンガ王国それぞれに20か所以上発見しているようだ。
「この勇者が見つけたダンジョンは、行ったら勇者一行を見つけるヒントとかあったりするかな?」
私はマルセルに声をかけた。
「ああ、その束な。冒険者ギルド的には参考にならないということで一括りでまとめたんじゃないか?」
マルセルの考察がすんなり頭に入ってきた。
「ママとエイタ君の跡を辿るなら、まずはハッシュ経由でベンチャ王国に入るという方針は変わらない感じだよね」
遥が言う。
「このメモの束を見る限り、今いる可能性が最も高いのはマチュヤ王国だとは思う。だから、逆にヴァッヂ経由でマチュヤ王国に入ってしまうというのも手ではある」
マルセルが返答する。
私はマルセルに訊く。
「マルセル的にはどちらがおすすめ?」
「勇者や人魚に一日でも早く会いたいならヴァッヂ王国経由でマチュヤ王国に入る。デメリットは現時点で情報が一つもない。勇者や人魚のエピソードを辿りながら進みたいならハッシュ経由でベンチャだ。デメリットは遠回りになる。あんたら次第だ」
「遥はどうしたい?」
私の問いに、遥は悩むまでもないという風に速攻で答えた。
「二人の痕跡を辿る。二人がどういう場所で過ごしていたのか見たいし、知りたい。7年会えてなかったんだもん。再会が2~3か月、半年延びたところでだよ」




