71.魔道具屋
運転教室が無事終わり、帰路はヤニックの運転で首都シャルタルに戻ることになった。
ヤニックはこのパーティにおけて今のところ目立った活躍ができていないと悩んでいたようで(土魔法を使って色々やってくれていたから、そんなことは全くないと思うのだけれど)、これでやっと役立つことが出来るとかなり嬉しそうに運転している。ヤニックの運転センスはなかなかのもので、今後の運転は本当にヤニックに任せたくなってきた。
まだ外は明るいので、首都シャルタルの付近で車を降りて徒歩で向かうことになった。
「明日、ハッシュに向かうんだよね」
私はマルセルに話しかけた。
「その予定だが、まだ首都シャルタルに留まりたいか?」
「ううん、ハッシュに向かうで良いんだけど、首都シャルタルで購入しておいた方が良いものってあるの?他の場所で買えるものだったら急がないんだけど、もしも首都シャルタルにしか売ってないものがあるなら今日購入しちゃった方が良いと思うんだ」
「そうだなあ。食材なんかは首都シャルタルの方が揃っているものもあるし、ハッシュの方が揃っている場合がある。例えばジャガイモやチーズの類は首都シャルタルの方が安いし種類もある。あとは冒険者関連だと武具かな。武具はここの武具屋の方が揃ってはいる」
「武具ねえ。あまり使うイメージができないな」
「そうだな、あんたらは魔法でどうにでもなるからな。でもナイフの一本くらい購入していても良いかもしれない。何かの役には立つだろう。あとは薬とかかな」
冒険者ギルドが閉まるまでまだ時間があるので、買い物で時間潰しをすることにした。
マルセルおすすめの武具屋へ行き、食材が切れそうな短刀を購入した。
「甲冑は買っておいた方が良いんでしょうか?」
ヤニックがマルセルに訊ねる。
「ヤニックの場合はいざとなれば石の壁を出せばよいし、怪我したら夏子が回復魔法をかければいいだけし、重いし動きにくいしで絶対に必要とは思わないが欲しいんだったら買えばよいと思う。ただ、ヤニックの場合は甲冑よりマジックバッグの方がいいんじゃないのかな」
マルセルの提案にヤニックはハッとした顔をした。
「そうでした。僕はそれを買うべきですね!」
そのやり取りを見て私も思い出した。
「そうだ!私、魔法書が欲しかったんだ」
マルセルは私の言葉を聞いて、「あ~」と思い出すように言った。
「では、この後は魔道具屋に行くか」
「魔道具屋に売ってるの?本屋じゃなくて?」
「魔法関連のものは基本魔道具屋だ。杖だけは別だが」
遥がそれに乗ってきた。
「魔道具屋行きたい!」
こうして私たちは魔道具屋に行くことになった。
魔法の杖のお店は裏道にあったので魔道具屋も裏道にあるかと思いきや、思いっきり大通りに面した場所にあった。
「ひっそり開いているんじゃないんだ」
「ここの住人にしてみれば、便利な魔道具が売ってるただの雑貨屋だからな」
ドアを開けるとチャランチャランというベルが鳴った。ドアにベルが付いているのかと思いきや、何も付いていない。不思議だ。
レジ台っぽい場所に座っていた店主がこちらに気づいて、
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
と声をかけた。
店内はヴィレッジヴァンガードかドンキホーテかKALDIかというくらい物が並んでいる。何を最初に見たら良いのか分からないくらいだ。基本は自分で探さず、店主に欲しいものを伝えるシステムなのだろう。
「魔法書が欲しくて」
店主はレジ台から出てきて「魔法書はこちらです」と案内してくれる。少し奥に進んだところに本が並ぶコーナーがあった。
「魔法全般が載っているものが良いですか?それとも属性別の魔法書にされますか?」
「そんな選択肢があるんですか?」
「ええ、うちは一通り揃えております」
「では、光属性向けの魔法書を」
店主は「え?」と反応した。その反応に対して私は「え?」と返してしまった。
「光ですかあ…」
「光向けは無いんですか?」
「いや、あるにはあるんですけど、古い本になりますが良いですか?光属性なんて滅多におられないので需要が無いんですよ」
確かに光属性は珍しいとは聞いている。
「だから、昔仕入れた方が何十年も売れずにそのまま残っていると言いますか」
何年でも十何年でもなく何十年というところに引っかかったけれど、私は店主が取り出した本を受け取った。ペラペラとページを開くたびに鼻に入る匂いが確かに古さを感じる。
「魔法全般が載ってる魔法書と内容が被ってたりするんですか?」
「一部は被ってますね、魔法全般の魔法書はよく使う魔法が満遍なく載っているような形で、属性に特化した魔法書はもっと細かい、あまり使わないような、でもあると便利という魔法が載っています」
そんなに頻繁に使うわけではないだろうから魔法全般の魔法書でも良いような気もするけれど、
「じゃあ、私は風属性向けの魔法書をください」
「では、僕は土属性向けの魔法書をお願いします」
という遥とヤニックの選択を見たら、私は光属性向けの魔法書を買っておくべきというような気持になって、
「では、私は光属性向けのこの魔法書で」
と古い本を購入することにしてしまった。
この後、色々な魔道具を説明してもらった。既に利用したことのあるランプもあるし、お湯を沸かすものや、水を浄化するもの、洗濯機のようなものや、電話のようなもの、掃除機のようなもの、扇風機のようなものなど。電気屋で売っている本格的なものではなく、ヴィレヴァンやドンキで売ってそうなちょっとチープっぽいグッズという風体だ。
「これとか夏ちゃん作れるんじゃない?」
遥が言う通り、頑張れば作れそうな気がする。
一通り見学したけれど、結局購入したのは魔法書だけだった。
店を出る時に店主言われた。
「その光属性向けの魔法書はね、良い品ですよ。古いだけあって、最近の魔法書では掲載されなくなっている古代魔法も載ってますからね」
遥やヤニックの綺麗な魔法書と同じ値段だったことに不服があったけれど、実は得をしたのかもしれないと私は考えを改めた。




