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69.途中経過

 アルノルドは魔力の検査をした部屋ではなく、依頼人と交渉する応接室に通してくれた。

 マルセルはサラエド研究所から預かった書類をアルノルドに渡す。

 アルノルドは封筒は自らの傍らに置き、添付の書類の方に目を通す。


「内容に不備はなかったこと確認しました。こちらの封筒は我々でお預かりします」


 そしてアルノルドは脇に置いていた袋の中から金貨を取り出して、テーブルの上に置いた。金貨が1枚だ。


「こちらが今回の報酬ですが、銀貨の方が良いですか?」


 とアルノルドは私たち全員を見る。


「はい、銀貨でお願いします」


 と答えたのは遥だった。

 アルノルドは「ですよね」と金貨を再び袋にしまい、別の袋から布に包まれた棒のようなものを取り出して、テーブルの上で布を開いた。中には銀貨が並んでいる。


「こちら、ご確認ください」


 マルセルは枚数を数えながら、25枚ごとに分けていく。そして、私と遥とヤニックに渡す。


「銀貨100枚あること確認しました」


 とマルセルが告げると、アルノルドは一枚の紙を「それではサインを」マルセルの前に置いた。

 マルセルは紙にサインをする。

 その様子を眺めているアルノルドに遥が声をかける。


「アルノルドさん、勇者と人魚の情報集まってますか?」


 アルノルドは両手を握る様にパンッと合わせる。


「その件ですね、現時点の情報は銀貨8枚程度。つまり、最新の情報は残念ながら集まってない状況です。噂話や又聞き話が100件ほど、昔の目撃談が5件ほどです。予定通り明日で締め切りますか?それとも1週間延ばしましょうか?」


「ハッシュの漁師イザークさんの話あったりしますか?」


 私はアルノルドさんに訊いた。


「移動先でハッシュの漁師の情報を入手されたんですね。こちらでも確か情報がありましたよ。現時点のまとめたものがこちらにあります」


 アルノルドは椅子の脇に置いたメモの束のようなものを取り出し、「ハッシュのネタはこの辺に…」

とブツブツ言いながらメモをめくっている。


「ドニーズさんが情報について地域ごとにまとめてくれているんですよ。ありましたありました。こちらで得ている情報は『ハッシュの漁師たちが漁猟に出た際に巨大なリュキャーンに襲われ、船に大きな穴が開き船諸共海の中に引きずり込まれそうな状況に陥ったところ、空を飛んできた女と子供がリュキャーンを撃退し、漁師たちを船ごとを救ったらしい』という内容です」


 ベリンズ村のオッサンの話と少しばかり違う。ベリンズ村のオッサンはハッシュの漁師イザークさんがベンチャ王国のどこかで何かに襲われた時に偶然通りかかった勇者の一行に助けてもらったという話だった。しかし、冒険者ギルドに届いた情報では、ハッシュの漁師たちが海で巨大リュキャーンに襲われて、わざわざ飛んできた女と子供、おそらく春子とエイタ君に救ってもらったという話だ。似て非なる話のような気がする。


「この情報は又聞き話ですか?」


 アルノルドはメモを確認して、


「漁師本人から聞いた話ということです」


「私たちがベリンズ村で聞いた話では、ハッシュの漁師イザークさんがベンチャ王国で何かに襲われた時に勇者一行に助けてもらったという話だったのです。当時勇者は子供だったそうなので、時期は一致しているんですけど、場所と登場人物が微妙に違っているようで、別の話なのか」


「なるほど。うーむ、だいぶ昔になるので記憶が書き換わっている可能性もありますが、明日はハッシュだけではなく、同じネタのようで微妙に内容が異なる場合は情報を貰って情報量を払うようにしましょうか?」


 そうか。既に冒険者ギルドに届いている情報と同じ情報は報酬を出さない決まりにしていた。しかし、先行する情報の方が記憶違いの可能性もある。だから、私は答えた。


「はい、それでお願いします」


 アルノルドは私たちから聞いたハッシュ村の漁師イザークさんの話をメモに追加した。

 そして、この依頼は明日のギルドが閉まるまでの時間で一旦区切ることになった。


「では、明日ギルドが閉まった後にお越しください」


 私たちは冒険者ギルドを出て、宿屋メルキュールの部屋を確保してから食堂に向かった。

 ベリンズ村のニンニクジビエ料理を経た後の為、食堂の食事が前回以上にとても美味しく感じた。


「明日は何をするんですか?」


 ヤニックが私が聞きたかったことを訪ねてくれた。

 マルセルは「そうだな、丸1日だからな」と言ってから、


「とりあえず大ネズミは売りに行くだろう。あとは、夏子が便利グッズを作るとか」


「そうだ、夏ちゃん、ドライヤー作って」


「それは今晩作る」


 ヤニックが「あの」と私の方を向いて切り出した。


「僕、やりたいことがあって」


「何?」


「明日、特に何も予定がないなら、車の運転を教えてもらえませんか? 毎回夏子が運転しているから、ずっと負担かけている気がして。疲れたら僕が代わって運転できるようにできれば、少しくらいはお役に立てるかなって」


 ヤニックはいい子だ。しかし、免許を持っていない人に運転させても良いんだろうか?いや、でも、教習所なんてこの世界にはない、運転免許証の概念すらない。だったら、教えても問題ないのでは?


「分かった。じゃあ、明日車の運転の練習をしてみよう」


 私がそう答えると、ヤニックは満面の笑みを浮かべた。


「ありがとうございます!」


 そこにマルセルも参加してきた。


「それは俺も運転してみたい!よし、明日は大ネズミを売った後、車の運転練習の日にしよう!」

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