63.ベリンズ村②
ベリンズ村の食堂は首都シャルタルと違って都会的なものではなく、年季の入った下町の食堂という風な感じで、常連のおっちゃんたちがお酒を飲み交わしながらニンニク臭い料理を頬張っている。
「ニンニク臭い…」
遥が鼻をつまむ。
「ニンニクは知ってるのか。ベリンズ村はニンニクの産地なんだ。あのオッサンたちが食べてるのが名物料理のリクルレットというニンニクとイノシシ肉とじゃがいもの煮込み料理だ」
食べる前からなんとなく味の想像がついた。
遥もアドリア村のジビエが頭を過ぎったのか口をつぐんだ。
一方、ヤニックは前のめり気味で嬉しそうにテンションを上げている。
「リクルレット!話には聞いたことはあります。食べてみたかったです。嬉しいです!」
私たちは空いている席に座り、リクルレットとパンを注文した。今、ここにいる女性は私と遥だけで、あとは総じてオッサンという感じで少々肩身が狭い。
陽気な酒飲みオッチャンたちは、
「あまり見ない顔だな~」
などと絡んでくる。
正直ウザいなという想いもあったが、マルセルが作り笑いで対応してくれた。
「今、人探しをしてまして、その流れでこの村にも来てみたんですよ。この村の人ですか?」
「ちゃうちゃうちゃう。クルサ村とここを往復してるだけの配達人さあ」
私はヤニックに「クルサ村って?」と訊いたけれど、ヤニックは首を横に傾げて「聞いたことないです」と返してきた。
知ってます?勇者エイタ」
「ん?勇者エイタ?」
オッチャンは聞いたことないという風な顔をする。
マルセルは肩をすくませて私たちに視線を向けたけれど、次の瞬間想定外のことが起きた。
「お~い、お~い!この中で勇者エイタのこと知ってるやついるかあ?」
と、オッチャンが大きな通る声で店全体に話しかけた。
店にいる人達が一斉にこちらを向く。
すると、奥の方にいたオッサンが手を挙げて大きく振った。
「聞いたことあるぞお~。ガキンチョだろお~」
オッチャンが私たちの方を向いて、
「勇者エイタはガキンチョかあ?」
遥が困ったように、
「私と同じ歳くらいだと思います。今は」
オッチャンは「ガキンチョかあ?」とじっくり遥を見つめてから、先ほど手を挙げたオッサンに、
「お~い、お~い!お前さんが話の聞いたのは何年前だあ?」
オッサンは「え~」と思い出すように上を向いてから、
「最近だよ~、2~3年前だ~」
その後オッサンは「えっと、えっと、えっと、えっと」と机を何度か叩いた後、
「あそこ行った時に聞いたんだよ」
オッサンの返しに、オッチャンは、
「あそこはどこだよ~。わっかんねえよ~」
と誰もが思ったツッコミをしてくれた。
遥は私に小声で「このおじさん、めっちゃいい人」と言ってきた。
私はそれに対して小さく頷いた。
いまだに机を叩きながら「えっと、えっと、えっと、えっと」を繰り返してるオッサンに、その前に座るオッサンが、
「お前さんのことだから、どうせハッシュじゃねえの?」
「あ~、そうだそうだそうだ。ハッシュだよ~。ハッシュが出てこなかったよ~」
私が聞く前にマルセルがにやりと笑ってから、
「ハッシュは元々行く予定のロッジ川下流の港町だ」
と教えてくれた。
手を挙げたオッサンは話を続ける。
「ハッシュでさ~、誰かが言ってたんだよ、ガキンチョに助けてもらっちゃって情けなかったって~」
オッサンが再び「えっと、えっと、えっと、えっと」と机を叩き、
「あそこの親父が、ベンチャ王国のどっかで何かに襲われて、で、たまたま通りがかった勇者の一行に助けてもらったとかなんとか」
するとオッチャンが、
「全然わっかんねえよ~。あそこの親父ってなんだよ~」
と誰もが思ったツッコミをしてくれた。
オッサンが「えっと、えっと、えっと、えっと」と机を叩き続け、
「あそこの親父だよ、漁師のさ、ほらほら、リュキャーンを一本釣りしたと自慢してくる親父」
オッチャンが私たちに「分かる~?」と訊いてきた。
当然、私と遥とヤニックは首を横に振ったけれど、マルセルが、
「イザークさんか?」
とオッサンに訊いた。
オッサンは立ち上がって、
「そう!イザークの親父!名前が思い出せて、すっきりしたわ~、ありがと~」
ヤニックがマルセルに話しかける。
「本当に色んなところに顔を出してるんですね」
「ロランス様にくっついてシャルタル王国の主要な町や村には行ってるからな。まさか、こういう風に役立つ時が来るとは」
遥が水のグラスを手に取って立ち上がって、オッサンに向けて乾杯のような仕草をした。
「ありがとうございます~!良い情報いただきました~!」
するとオッサンは「良かった~、良かった~」と飲んでいるグラスを持ち上げた。
そして遥はオッチャンにも例を言った。
「おじさまもありがとうございました!」
オッチャンはニコニコと笑って、「どうもどうも~」と満足げに自分の席に戻っていった。




