62.ベリンズ村①
私たちはマルセルの案内で、ギルドがあるという村に向かうことになった。
「ギルドがあるのに村なの?」
道中、遥が訊ねる。
「ベリンズ村という元々は製鉄が盛んというくらいの特徴しかない村だったんだ。この辺りは鉄鉱石が多く採れるんだよ」
「魔鉱石ではなく鉄鉱石?」
「魔鉱石は魔素を含んだ鉱石だ。つまり魔鉱石が発見される場所というのは、むしろ他の鉱石の方が多く見つかるものだ。鉄鉱石や石炭、金鉱、銀鉱、銅鉱とかな。で、この村の近くにあるのは鉄鉱山ということだ。村民の規模的にはヤニックのアドリア村くらいで昔はギルドなんてなかったんだが、鉄鉱を採りすぎて量が減ったということもあって、別の鉱床を探していたらダンジョンが発見され、そこに冒険者が来るようになって、小さな冒険者ギルドが出来た。今は鉄鉱の村ではなく、ダンジョンの村として生計を立てていて、宿屋も首都シャルタルほど多くも大きくもないが、寝泊まりはできる程度のものがある」
遥は「へえ」と納得したような返事をしたが、私は気になったので聞いてみる。
「そんなに冒険者が来るのだったら、魔鉱石なんて残ってないんじゃないの?」
マルセルは頷いている。
「そうなんだよ。そもそもベリンズ村は魔鉱石を使った製鉄をしていた村だからあの付近はかなり採り尽くされてるんじゃないかと思う」
遥はそれに対して不服と言ったふうに質問する。
「じゃあ、行く意味なくない?」
「だから、今日は一泊そこでして、明日はちょっとズラした場所の中腹に向かう。首都シャルタルから行くよりは移動が短くて済む」
「それならば納得」
「明日早めに洞窟探しをして、夕方までには首都シャルタルに戻るイメージでいこう。研究所から預かった書類も渡さなければならないしな」
「書類は明日でもいいの?」
「俺らには車というアイテムがあるから感覚がおかしくなっているだけで、普通の冒険者は日帰りなんてできない。研究所だって書類が届くのは明日や明後日だと思っているはずだ」
そんな会話をしているうちにベリンズ村近くに到着した。私たちはいつも通り車を降りて空間収納にしまってからベリンズ村まで歩き出した。
首都シャルタルや温泉地ルシュダールには遠く及ばないけれど、ちらほらと冒険者の姿がある。
なんとなくニンニクっぽい匂いがしてきたのが気になった。
少し歩いてベリンズ村に到着した。マルセルはアドリア村と同じくらいの規模と言っていたが、ぱっと見だけでアドリア村よりは発展していると思った。違いはおそらく冒険者ギルドと冒険者向けの宿屋や食堂の存在だろう。
マルセルの導きで、私たちは宿屋に入っていった。
宿屋の主人はマルセルを見るなり、
「おや?ウィザード・ロランスのお弟子さんじゃないか。弟子をご卒業されました?」
と訊いてきた。
マルセルは「はあ」と面倒くさそうに息を吐いてから、
「卒業はしていません。ウィザード・ロランスからの任務中です。今日4部屋空いてますか?あるいは2人部屋が2部屋」
「2人部屋なら空いてますよ」
「では、2人部屋を2部屋お願いします」
食堂の主人は手元のメモに何か書き込んだ後、
「朝はどうします?」
と訊いてきた。
マルセルは私たちを見た。
「朝食はこだわりないよな?」
私たちは全員頷いた。こだわる以前に何があるのか分からないのでこだわりようがない。
マルセルは私たちの反応を受けて「つけてください」と主人に返した。
その後、私たちは夕食までの間、ベリンズ村見学をすることにした。お店は少ない。首都シャルタルでは野菜、肉、果物、薬、武具、服などの専門店がそれぞれ存在していたけれど、この村の村民は基本的にアドリア村と同様に自給自足、地産地消の暮らしをしていて、お店は冒険者向けのものとなっている。そのためか、品ぞろえも少なく、食料でまとめて一つの店、武具と服屋でまとめて一つの店といった形になっている。
「ここで大ネズミ売れる?」
遥はマルセルに訊く。
「売れるけど、首都シャルタルよりは安値になるぞ」
遥はマルセルの答えを聞いて「じゃあ、いいや」と引っ込んだ。
マルセルは武具&服店に入り、何かを物色しているようだった。そして私に選んだものを渡してきた。
「これを魔道具化できないか?」
私の手には大きな石がついたブローチのようなものだった。
「これを?どうやって?」
「これは商品にならないちょっと質の悪い鉱石を土産用に加工したものなのだが、これを光らせることができないか?どこかを押すと光らせたり消したりできるような。ヤニックが作ってくれた腕輪も役立ったんだが、少々重いのがネックで、今回は大ネズミくらいだったから対応できたが、もっと危険な魔物がでてきたら動きにくいかなと。これは服につけられるから、両手が完全にフリーになる。夏子なら大ネズミの魔石やさっき採った魔鉱石のかけらで十分魔道具化できると思うんだ」
マルセルのおだてのような文句に気分が良くなった私はついつい受け入れてしまった。
「わかった。宿屋で作ってみる」
マルセルは人数分のブローチのようなものを購入し、私に預けた。
そして私たちは村で唯一の食堂に向かった。




