61.麓の洞窟②
魔鉱石はわずかに光るという情報を得て、私と遥は俄然やる気が出た。
しかしヤニックが浮かない顔をしている。
「どうしたの、ヤニック?」
私が訊くと、ヤニックは頭の上の耳をぴくぴくと動かした。
「気になるんです。わずかな音が」
「音?」
「何かが動いているような音が聞こえて、それが何か分からない。今まで聞いたことが無い音で」
ヤニックの証言にマルセルが心配そうな顔で「どんな音だ?」と訊いてくる。
「なんて表現したらいいだろう。ガリガリ、ガリガリ、ガリガリみたいな」
マルセルは「はあ」と大きくため息をついてから「そうかあ」と呟いた。
「何?なんか問題のある音なの?」
私が訊いた後、遥も被せるように訊いた。
「逃げた方がいいの?」
マルセルはカチャと剣を持ち直した。
「いや、もう遅いな。行くしかない。夏子は杖を構えておいて」
「遅い?何なの?」
ヤニックが耳をピクピク動かして、
「近づいてきてる」
と手を地面につけた。
そして、私たちの耳にもガリガリ、ガリガリ、ガリガリという音が聞こえてきた。それは徐々に大きくなってくる。
「ねえ、何なの?」
マルセルは剣を構える。
「大きなネズミだ」
キラッと暗闇の中でいくつか赤く光ったと思った瞬間、私が見上げてしまうほどの大きな黒いものが目の前に何匹も現れた。まさしくそれは大きなネズミだった。
襲い掛かってくる大ネズミをマルセルが華麗な剣さばきで退治していく。
私も光魔法で応戦する。試験の時のゴーレムのように大ネズミは破裂するように消えた。そして小さな赤いものがポトッと落ちる。
ヤニックは襲い掛かってきそうなネズミの下から石壁を高速で出して天井と挟む形で退治する。
遥も杖を使って攻撃しているが、当たっていない。
そして、襲い掛かってきた大きなネズミは全て撃退した。
私やヤニックが撃退したネズミは赤いものを落として消えた一方で、マルセルが撃退したネズミはそのまま残っている。
「何故マルセルが退治したネズミは姿が残ってるの?」
遥が訊くと、マルセルは大きなネズミから赤いものを取り出しながら、
「魔法攻撃ではないからだ。魔法攻撃だと魔物は魔石だけを残して消える」
マルセルは赤いものを取り出した後、大きなネズミの皮を剥いで肉を切り出した。そしてそれをこちらに見せて、
「これ、空間収納にしまえるか?」
と訊いてきた。
私と遥はあからさまに嫌そうな顔をしていたのだろう。
マルセルは「だよな」と言って、肉を小さく切って自分のマジックバッグにしまった。
「ネズミの肉を持ち帰るの?」
遥は気味悪いものを見るようにしてマルセルに訊いた。
「そこそこの高値で売れるんだぞ、これ。これくらいの塊で銀貨2枚分くらいにはなる」
「じゃあ、もっと大きい塊だったら宿1泊分くらいになる?」
「そうだな。モモの部分丸ごとで銀貨5枚程度になるから両足持って帰れば1泊できる」
遥は意を決したように、
「空間収納に入れるよ」
とマルセルに伝えた。
マルセルは一瞬鼻で笑い、
「無理しなくていいぞ。昨日の仕事でそこそこの金は得てるし」
「いいの、入れる。いつ何時、どんな出費が発生するか分からないもん」
「じゃあ、解体しないで丸ごとお願いできるか?その方が鮮度を保てる」
遥はマルセルの指示通り、マルセルが撃退した全てのネズミを空間収納にしまった。
その後ドロップした小指の爪くらいのサイズの小さな赤い魔石を拾い集めた後、マルセルは「さあ、進もう」と言ってから、私たちの方を向いて念を押すように言った。
「いいか、この大ネズミの撃退は比較的容易だ。E級レベルだ。しかし、この大ネズミがやっかいなのは1匹いるところには100匹いるということだ」
私たちは岩壁を光らせながら、そしてマルセルの警告通りガリガリ、ガリガリ、ガリガリという音と共に襲ってくる大ネズミを撃退しながら、奥へ奥へと進んでいく。
しばらくして暗闇の中で薄っすらとだけれど光っている場所が見えてきた。
「着いた。これが魔鉱石だ」
マルセルがマジックバッグからハンマーとノミのようなものを取り出して、薄っすら光っている部分に打ち込み、光った岩を取り出した。
「あまり質の良いものではないが、簡単な魔道具なら作れると思う」
とマルセルが切り出したばかりの魔鉱石を私に渡した。
「ありがとう」
「とりあえず、見えるものは全部持って帰るか」
そう言って、マルセルは光る部分を次々に切り出していった。私たちはそれを次々に空間収納にしまっていく。そして一通り切り出したところで、帰ることとした。
倒したはずの道中で再び大ネズミに襲撃され、それを撃退しながら私たちは入口まで戻った。空はまだ明るかった。
「そういえば、岩を光らせたやつはそのままで良かったの?」
私は訊ねる。
するとヤニックが答えてくれた。
「これは僕の場合ですけど、隆起させた岩を元に戻すとき自分の手に魔力を戻すようなイメージをするんです。もしかしたら夏子さんの光も同じように戻そうと思えば消えるかもしれないです」
私は洞窟の中の光を覗きながら、自分の手に魔力を戻すようなイメージをした。すると、光は一瞬で消え、洞窟の中は真っ暗になった。
その後、私たちは車を降りた道の切れ目まで戻ってから、車で中腹が見える位置まで移動した。
遥が中腹の方を目を細めて見る。
「どうだ?」
マルセルは遥に訊く。
遥は目を細めたまま右から左へとゆっくりと視線を動かしていく。
「遠視も限界があるみたいなの…ただ、一か所ノイズのような、何かに邪魔されるような場所が」
マルセルは「それだ!」と指を鳴らした。
「それはどこだ」
遥は若干右寄りを指した。
「あそこに他より少し高い木があるでしょう。そこの右上くらい」
マルセルは「ということは」と左側を指した。
「こっち側がねらい目ということだ」
その後、左側を指していた指をそのまま顎の下に持ってきた。
「あそこ…」
「何?」
「今日は首都シャルタルに戻らず、あの付近に泊まろうか」
「泊まれる場所あるの?」
「ああ、あの麓にギルドがある街がある」




