60.麓の洞窟①
私たちは遥が見つけた地下に通じる洞窟に向かって歩き出した。時折出てくる虫や蛇は先頭のマルセルや最後尾のヤニックが処理してくれるので、私と遥はただ歩いているだけになっている。
先頭のマルセルは虫や蛇などの処理をしながら、少々太めで少々長めの木の枝を拾っては確認して、取捨選択しながら歩いている。
「なんで枝拾ってるの?」
私はマルセルに訊くと、マルセルは枝を拾いながら、
「松明代わりだ」
「洞窟が暗いから?」
「それもあるけど、ガスの確認用でもある」
私は「あ~」と納得した。その可能性を考えていなかったけれど、確かにそうだ。
遥の方はピンと来ていないようで「何で?」とマルセルに訊く。
「火をつけた枝を洞窟に投げ入れて、すぐ消えたり、爆発したら、その洞窟には入らない。有毒ガスが出ている証拠だ。最悪死ぬかもしれないからな」
「そんな危険な可能性があるの?」
「ある。確認しないで入るなんて自殺行為だ。確認しないで入れるのは、既に何人も入っている洞窟位だが、そんな洞窟に魔鉱石なんて残っているわけがない」
遥は勉強したという風に「ふ~ん」と返した。
どれくらい進んだだろうか。整備された道ではないため長く感じただけかもしれないけれど、結構歩いた気がする。遥が見つけた洞窟に辿り着いた。これだけ離れた距離でも見ることができる遥の視力を体験してみたいと思った。
地面に空いた穴は入口が広めで、人ひとりはは入れそうな大きさがある。
マルセルは見つけた枝を地面に刺して、その先を十字に切ってマジックバッグから取り出した藁のようなものを挟み、そこに火打石で火を付けた。そして火のついた枝を地面から抜いて、火の様子を確認してから、それを洞窟の入り口にかざした。
「ここでは消えないな」
マルセルはそのままその火の明かりで中の様子を伺う。
「投げ入れるから、入口から離れて」
私たちは指示に従い、穴から離れた。
マルセルは私たちが離れたのを確認してから、穴に火のついた枝を投げ入れる。マルセルは離れることなく火の行方を追っている。
爆発はしない。
火はどうだったのだろう。
マルセルは私たちの方を向いて「大丈夫そうだ」と言った。
私たちは穴の近くに戻った。
「じゃあ、入るの?」
「ああ、入ってみよう。ただ、その前にこれを覚えてほしい」
マルセルはそう言って、マジックバッグの中から魔法書を取り出して、あるページを開いた。
「これは?」
「光魔法で周辺を照らす魔法」
「そんなのあるんだ」
私は魔法書を確認する。マルセルが開いたページには石を光らせる魔法というのが載っていた。
「石を光らせる魔法?」
「そうだ。さすがに壁一面は無理だと思うが一部分でも光らせることができれば周辺の様子が確認ができるはず。ヤニック、石を作ること出来るか?できれば腕にはめられるような輪っかのような形で」
ヤニックは「できると思います」と言って、洞窟の入り口から見える岩肌に手を置いた。すると冒険者試験の時のように石が壁から出てくる。そしてマルセルのリクエスト通り、輪っかになった石がポコと出てきた。
マルセルはそのヤニックの石を一つ手に取って、私に渡してきた。
「これを光らせてみて」
私は魔法書を見ながら魔力を石に注ぎ込んだ。するとそこそこ明るい電球のように石が発光した。
マルセルは首をひねりながら「すげーなー」と呟いて、輪っかの石を左手に通した。
「おお、いい感じだ。さすが村長の息子。これを人数分作ってくれ」
ヤニックはそれぞれの手のサイズに合わせる形で輪っか型の石を作り出し、私はそれを発光させる。そして一人一つ腕にはめた形で穴の中に入っていくことになった。そして入りかけてすぐ、マルセルが腕にはめる形をリクエストした理由が分かった。冒険者試験の時と違い足場がすこぶる悪い。手を壁につけたバランスを採りながらでないと進むことが難しい。
またヤニックの石は自分の周囲1mくらいを照らすには十分であるが、10m先を見ることはできなかった。
「この壁面、照らすことできるか?」
マルセルが言ってくる。
私は先ほどの要領で壁面の岩肌に魔力を込めてみる。マルセルの予想通り壁面全体を光らせることはできなかったけれど、手のひらよりも一回り大きいくらいの範囲を光らせることができた。照らせる範囲はマルセルの石よりも少し広いくらいで大差はない。
「街灯みたいでいいじゃん。この調子で等間隔で光らせて行けば、全体的に明るくなるよ」
誰もが思ったことを遥が言った。
私たちは壁面を等間隔で発光させながら慎重に奥へと進んでいく。冒険者試験の時は最後尾でひっそりついてきていたマルセルだが、今回は剣を片手に先頭で進んでいる。頼もしい。
しかし、いくら進んでも特に変わった様子はない。ただ、洞窟を奥へ奥へと進んでいるだけである。
「魔鉱石無さそう?」
遥がマルセルに訊く。
マルセルは即答せず「うーん」と悩んでいる。これは可能性がゼロではないということなのだろうか?
私は逆に遥に訊く。
「遥は奥が見えないの?」
「さっきからちょこちょこ見ようとはしてるんだけど、薄暗いだけなんだよね。少しの光もなければただ暗闇が見えるだけなんだよ、たぶん」
「暗い場所では役に立たないのか」
「うん、試験の時にゴーレムが見えたのは、あの場所が青く光ってたせいだと思う」
私たちの会話を聞いていたマルセルが言った。
「今、奥が薄暗いって言ったか?」
「うん、薄暗い」
「暗闇ではないということか?少しは見えるということか?」
マルセルは畳みかけるように訊いてくる。
「そうだけど?」
「なら、あるかもな、魔鉱石。魔鉱石はわずかに光る」




