54.ユドレスのギルド
全員集合したので執務室に鍵を返しにいったところ、
「アルノルドさん、ユドレスのギルドのみなさんがご挨拶したいと」
昨日受付にいたエルフのお姉さんが声をかけてきた。
受付のお姉さんに案内される形で従業員専用のフロアから冒険者ギルドのホール側に移動すると、そこにあったベンチに8人の男女が座っていた。彼らは私たちを見て一斉に立ち上がった。
その中の一人、最も年配そうな女性が前に出てきて、
「お久しぶりです」
とアルノルドに声をかけた。
「サンキさん、お久しぶりです。そうか、サンキさんが新しいギルマスに就いたんですね」
「ええ、私が就任いたしました」
「サンキさんは向いてますよ。ユドレスのギルドがどうなっていくのか楽しみです」
「そうそう、お伺いしたいんですけど、ベンチャ王国にAクラス魔物が出るダンジョンが出現したという話が出ていたりしますか?」
サンキは真剣な顔でアルノルドに訊く。
「いいえ、そんな話は聞いていません。そういう話があるんですか?」
サンキは首を横に振る。
「いえいえ、私はベンチャ王国側には疎いもので。実はヴァッヂ王国に最近Aクラス魔物が出るダンジョンが出現したらしいんですよ」
「え?」
アルノルドが驚愕といった顔をしている。
私は状況が分からずマルセルを見る。
するとマルセルが私たちに小声で教えてくれた。
「前に話した通り、五大国では出現するダンジョンのレベルが異なる。サンバチスト様の勢力圏となってからはサンバチスト様の結界が張られたわけだけれど、その前までは魔王国から魔素が流れてきていた。魔王国に近ければ近いほどその影響が高くて、北の国に出現するダンジョンはSクラスやAクラスと言った高ランクの魔物が出る確率が高く、影響が北よりは弱いから西や東の国に出現するダンジョンはBクラスやCクラスの中ランクの魔物、南のシャルタル王国はキレネー山脈があることによって魔素の影響がわずかしか届かなかったこともあってDランク以下のダンジョンしか出現しない」
「つまり、西のヴァッヂ王国にAクラスの魔物が出るダンジョンが出現するのは珍しいということ?」
マルセルは「そういうことだ」と頷いた。
アルノルドとサンキは話を続けている。
「サンバチスト様の結界が消えた影響だろうか……警戒が必要ですね」
「ええ、ベンチャ王国側の情報が入りましたら共有していただけますと幸いです」
「分かりました」
二人は熱い握手を交わしている。
そしてサンキはマルセルに目を向けた。
「マルセルさんもお久しぶりです。状況はエチカルネさんに伺いました」
と受付のお姉さん・エルチカネを一瞥してから、視線をマルセルに戻した。
アルノルドは両手を握る様にパンッと合わせ、エルチカネに訊いた。
「そういえば、昨日は勇者の話はしてないよね?」
「ええ、されていません」
アルノルドは私たちを手のひらで指して、
「彼女たちは今、勇者と人魚の情報を集めていて、何か情報を持っていたりしないですか?」
エルチカネは「勇者と人魚ですか…」と何かを思い出すような仕草をしたけれど、
「すみません、あまり役に立つ情報はないですね。サンバチスト様が何年か前に召喚した異世界人という情報しか持ち合わせていないです」
続いてサンキが答える。
「申し訳ないですが、私もあまり情報はありません」
サンキは他のメンバーに確認をする。
「何か情報を持っている人はいますか?」
多くの者が首を横に振る中、一人の若い目の男性が手を挙げた。
「以前、マチュヤ王国のキレネー山脈の麓にあるダンジョンへ行ったときに逢ったことがあります」
遥が「逢った?!」と驚いて口にする。私も思わず息を飲んだ。
アルノルドは男性の回答に反応する。
「それは何年前ですか?」
「6年くらい前です。勇者が子供で攻撃のコントロールが悪いということで、そのダンジョンで特訓していました」
私は「人魚はいかがでした?」と訊ねた。
「勇者のお母さんみたいでしたね。何かと世話焼いていたといいますか。怪我したら治療したり、食事を用意した。あとは空を泳ぐスピードがめちゃくちゃ速かったです」
古い情報ではあったけれど、2人はきっと疑似親子のように過ごしているのだろう。この世界に召喚された当時の遥とエイタ君の様子が聞けて嬉しかった。
遥も同じような想いを抱いたのだろう。話を聞いてほほ笑んでいた。
私たちはユドレスのギルドの人々と別れ、冒険者ギルドを後にした。車を出せる場所に移動しながら、アルノルドが言った。
「最新情報はなかったですが、一つの仮説は立ちましたね」
「仮説?」
「ユドレス側に情報がない、ユドレスのギルドで唯一情報を持っていた人は北西のマチュヤ王国の話をしていたということは、勇者パーティーは西側に現れていないのではないかということです」
「なるほど」
「最初に東のベンチャ王国を目指すことにしたのは正解だったかもしれませんね」




