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52.ビュッフェ

 私たちは温泉を堪能したので上がることにした。残念ながらドライヤーが無かったので自然乾燥か…と覚悟していたけれど、


「ちょっと実験させて」


 と遥が言うので実験に付き合った。目に見えるものが召喚できるならば、髪の毛に絡まった水分も召喚できるのではないかという予想のようだった。そして、その予想は当たり、私の髪は乾燥した。そう、乾燥した。しっとり感が若干失われた気がする。遥自身はそれを見て学んだようで見える部分だけ水分を取ってあとは自然乾燥にしたようだ。

 その後、カウンターで預けた荷物を受け取って個室で冒険者服に着替えた。入浴用の服はカウンター横の回収ボックスに入れる。すると受付に人が代わりにチケットを渡してくれる。

 チケットが戻ってきたことに驚いていると、アルノルドが説明してくれた。


「そのチケットが食事の引換券になるんですよ」


 そして私は王の保養所時代にホールだったという食堂に向かった。等間隔に並ぶ白く太い柱に支えられる広いホールに長いテーブルがいくつか並ぶ。ハリー・ポッターの食堂のようなイメージだ。あえて違いを言うならば、全体的に白っぽいところだ。

 そこに並ぶように座る人々は、それぞれが大皿に特殊な盛り方をした食事をとっている。


「あちらでチケットと皿と引き換えて、食べたいものを取っていくスタイルです」


 それを聞いて、遥が「ビュッフェ?!」とテンションを上げた。


「そうです。ビュッフェスタイルです」


「ど、どうしたらいいんですか?」


 不安そうにヤニックが訊く。


「食べたい料理を、食べたいだけ盛るんです。但し1回だけです。おかわりはできません。また、食べ残した場合は残した量に応じた罰金を払わなければなりません」


 テーブルを見ると、お酒を飲んでいる人もいる。


「お酒も引き換えられるの?」


 私が訊くと、そこはマルセルが答えた。


「あれは別料金。チケット引き換えられるのはガズロだ」


「ガズロ?」


「ガスが入った水だな」


 それに対して遥が、


「ガスが入った水?そんなの飲めるの?!」


 と驚く。

 しかし私は想像がついた。


「炭酸水だよ」


 それを聞いて、遥は「ああ」と納得した。

 首都シャルタルの食堂で食べたものと同じ料理もあったけれど、違う料理もあった。しかし、基本的にはジャガイモと肉とチーズがメインで、ふかしたジャガイモ、鶏肉のオーブン焼きのようなもの、豚のソテーのようなもの、チーズグラタンっぽいもの、それ以外にサラダやパン、目玉焼き、ラタトゥイユのような野菜の煮込み料理などが並ぶ。

 私たちは料理が並ぶカウンターから食べたいものをとっていく。おかわりが出来ないというので少し多めに、でもあまり取り過ぎても罰金が取られるので常識の範囲内でと考えながら料理を取っていく。

 アルノルドは比較的常識の範囲内に見えるけれど、マルセルとヤニックはかなりこんもり取っている。遥も食べきれないのでは?と思ってしまう量を乗せている。

 一通り料理を選んだあと、ガズロの入ったコップを受け取り、空いている席に座った。


「そんな量食べきれるの?」


 私は遥に確認する。


「たぶん、余裕っしょ。まだ若いし。温泉でカロリーいっぱい消費してるはず」


 私と遥とヤニックが横並び、その前の席にマルセルとアルノルドが座った。

 私たちは右手を胸に当てて目を閉じ、全員で口にした。


『サンバチスト様、この食事に祝福を、そして命に感謝を込めて』


 そして食べ始める。

 少々味が薄い。この国の料理は基本的にに薄味になっているのだろうか?首都シャルタルの食堂で食べた料理の方が味が濃いめだった。あれは冒険者向けだったからだろうか?とはいえ、全然獣臭さもなく、まずいわけでもないので食べられる。


「ねえねえねえねえ、アルノルドさん」


 と遥がアルノルドに話かける。


「なんでしょう?」


「アルノルドさんは何属性なの?今日は浄化魔法くらいしか使ってなかったから気になって」


「私は遥さんと同じ風属性ですよ。そして同じように遠くのものを見ることができる能力があります」


「え~、じゃあ今日は私必要なかったってこと?」


「いやいや、遥さんと私では能力に決定的な違いがあります。遥さんは今いる場所から遠くのものを見ることができ、さらに見たものを召喚することができる。私にはそれはできません」


「召喚ができないの?」


「召喚もできないですし、初めての場所では遠くを見ることができない、役に立たないんです。私の能力は一度行った場所に自分の目の代わりを残すことができるヴィジョンという能力です」


「目の代わり?」


「分かりやすく言うと、みなさんが受けられた試験ですね。私はあの場所にいくつか自分の目の代わりを置いています。外からでも中のみなさんの様子が見えていた、ということです」


 私が遥に「監視カメラみたいな感じだ」と言うと、遥は「あ~」と納得した。

 「そうだ!」と私は遥に向かって言った。

 遥は「何?」と聞き返す。


「冒険者ギルドに頼むことになった」


「何を?」


「勇者と人魚の情報を集める依頼。アルノルドに提案してもらったの。噂話は1件銅貨5枚、目撃談は銅貨50枚、現在の居場所の情報だったら銀貨10枚」


 遥はハッとして表情をしてから、アルノルドに向かって「それは名案!」と熱く伝えた。

 アルノルドは満足げに「お任せください」と答えた。

 すると、マルセルの隣に座っていたカップルと思われる若い男女の女性の方が、


「今、勇者と人魚って言った?」


 と声をかけてきた。

 マルセルは頷いて、女性に訊いた。


「はい。何かご存じなのですか?」


「私、勇者と人魚に助けられたことあるんだよ~」


 と軽いノリで言ってきた。

 私たちは一斉に「え?!」と女性を見た。

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