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48.いざ温泉地へ

 遥は上空を見上げ、


「ギガンモーレイ飛んでないな~」


 と残念そうに言う。


「運が良ければ、いつかどこかで見られますよ」


 アルノルドはそう言いながら車の助手席に乗り込んだ。今回助手席に乗るのはアルノルドで、マルセルは運転席の後ろになった。温泉地ルシュルダールへの道案内はアルノルドがやることになったのだ。

 全員車に乗り込み、エンジンをかけたとき、


「ちょっと待って!」


 と、遥が止めた。


「何?」


「お腹空いた。空間収納からフルーツ出す」


 遥は車の外に出て、空間収納を開いた。

 それを見て、私も急激にお腹が減ってきた。時計を見たら昼の2時近くになっていた。


「私も食べたいかも。ヤニックは?」


 3列目に座るヤニックに訊くと、ヤニックは「では、僕も」と答えたので、私は外に出て空間収納から二人分のフルーツが入った包みを取り出してから車に戻り、マルセル経由でヤニックに渡した。

 そして車を走らせる。

 私は運転しながら片手で食べられるラズベリーっぽいマラボア、ブラックベリーっぽいノルボアを頬張る。後部座席では遥がソルダムっぽいミュルボを頬張っている。

 マルセルとヤニックは私たちを見て、


「この中で食べていいのか?」


 と聞いてくる。

 遥はミュルボを頬張りながら首を傾げる。


「え、なんで?お腹空いてるなら食べれば?」


 遥は顎の方に滴り落ちる果汁を車に備え付けているティッシュを取って拭う。


「あ、ティッシュいる?」


 とティッシュを数枚取って、マルセルとヤニックに渡す。

 マルセルは受け取りながら「これ何?」と訊く。


「ティッシュ。この世界には無いの?」


 ヤニックはティッシュを指で挟んで擦ったり、外を透かして見たりしている。


「これは紙ですか?」


「紙だよ。口拭いたり鼻かんだりするときに使うもの」


「初めて見ました。ハンカチのようなものということですね」


「そうそう、使い捨ての」


 アルノルドが遥の方を向いて、


「私にも見せていただけませんか」


 遥は「はい」とティッシュを一枚渡す。

 アルノルドはティッシュをじっと眺めて、


「これはすごい技術だ。これが使い捨てなんですか?」


「うーん、再利用は難しいと思う」


 遥はそう答えた後に杏っぽいクエムをアルノルドに見せた。


「フルーツ食べます?お腹空いてません?」


「でも、私がいただいたら遥さんの分が減ってしまう」


「う~ん、そうだけど、みんな食べるのにアルノルドさんだけ無いのは仲間外れみたいで」


「みなさんが臭いを気にしなければ、私も手持ちはあります」


 私はその返事を聞いて、アルノルドに言う。


「では、窓開けますよ」


 とアルノルド側の窓を開け、その後運転席、後部座席の窓も半分くらい開けた。

 自動で開く窓にアルノルド、マルセル、ヤニックは異常に驚く。


「え、勝手に開いた?」


「勝手じゃない。私が操作した」


 マルセルは「魔術?」と訊いてきた。

 私は苦笑して「違う違う、機械」と答える。

 窓を開けたため、風が車の中を通り抜ける。


「では、私の手持ちを出しますよ」


 とアルノルドは自分のマジックバッグから茶色いものを出した。その瞬間とても獣臭いジャーキーのような匂いがした。


「それ、何?」


 遥がアルノルドに訊く。


「イノシシの干し肉です」


 私と遥は同時に「あ~」という何とも言えない声を出した。

 その反応を気にする様子もなく、アルノルドは干し肉にかぶりついた。

 そして、私たちもフルーツを食べながら温泉地ルシュダールに向けドライブを続けた。

 車はアルノルドの案内の通り進めていく。


「海だ~」


 遥がマルセル越しに外を覗く。

 それにヤニックが反応する。


「これが海!」


 ヤニックは子供のような顔で窓の外を見ている。


「ここからはひたすら海岸線を進みます」


 アルノルドの案内に遥が反応する。


「温泉地は海沿いにあるの?」


「そうです」


「海沿いに温泉地とか珍しい。温泉は山の中が多いイメージ」


 遥の言葉が引っかかったので、私はついつい口を挟んだ。


「全然珍しくないよ。湯河原とか熱海とか指宿とか和倉とか男鹿いっぱいあるって。ナトリウム塩化物泉が多い感じじゃない?」


「ナトリウム…塩?」


「そうそう、だからたぶん保温効果が高いんじゃないかな。湯上りのポカポカが続くというか」


 私の言葉にアルノルドが、


「その通りです。ルシュダールの温泉につかるとポカポカになります」


 そんな話をしながら私たちは海沿いの道をまっすぐ走る。海沿いを走り出してからしばらくは景色が殆ど変わらないのでどれくらい進んだのか実感が湧かなかったけれど、徐々に人を抜かすことが増えてきた。

 するとマルセルが、


「そろそろ車を降りて歩いた方が良いかもしれない」


「もうすぐってこと?」


「ああ、もう見えてる」


 マルセルが前を指す。

 そこには石造りの白い建物がいくつも並んでいる。

 そしてアルノルドは言った。


「あれが温泉地ルシュダールです」

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