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46.初仕事⑤

「もう帰るの?」


 残念そうに遥が言う。

 アルノルドは遥の真意が分からないという風に首を傾げた。


「粘液は十分に取れましたよ」


「ギガンモーレイを見てみたい。卵の殻っぽいものは見えてもギガンモーレイは見えないの」


「しかし、早く帰らないと夏子さんのメモが役に立たなくなります」


 アルノルドの言葉に、遥ではなく私が「は?」と聞き返した。


「どういうこと?」


「ご確認いただいている通り、これは木です。木の集合体です」


「そうですね」


「死んだ枝を組み合わせて造ったものではなく、生きている木です」


「そうですね」


「つまり、木は成長するんですよ」


 今度は遥が「どういうこと?」と口を挟んだ。

 それに対して今度はマルセルが回答した。


「来る時にあった隙間が木の成長で埋まっている可能性があるということだ」


「え、聞いてない」


「だから、一秒でも早く帰るべきだということだ」


 アルノルドはフォローするつもりだったのか、遥に言った。


「帰り道、運よく上空を飛んでくれたら見られるかもしれないです。認識できればの話ですが」


 こうして私たちは一秒でも早く戻ることとなった。帰路は私が先頭で出口に向かってゆく。ただの線と矢印と歩数しか書いていないメモであったけれど分かりやすかった。しかし、


「あれ、ここに左に抜ける道があったはずなんだけど」


 マルセルが木と木の隙間を覗くように見た。


「こりゃ埋まってるな…」


 遥がマルセルに訊ねる。


「ここの木を切っちゃってさ、通り抜けることできないの?」


 私はそれは良いアイディアだと思ったけれど、アルノルドが答えた。


「それができないんですよ。切った瞬間その木が死ぬんです。すると、その部分が朽ち始めてギガンモーレイの巣自体がバランスを崩して崩壊してしまいます」


 遥は絶望的な顔で「まじ?」と聞き返した。


「はい。だから隙間を縫って外に出るルートを探すしかないのです」


 私は自分のメモを見返した。左のルートが埋まっている。しかし右側のルートは残っている。こちらのルートは先ほど確認していないから何があるか分からない。


「となると、こっち、右側に行くしかないね」


 私はボールペンを取り出して、新しいルートを書き足しながら歩き出した。

 他の4人も付いてくる。

 方向的には左側のルートに繋がる道を見つけなければならない。再び上って、下って、左折して、右折してを繰り返す。なるべく外に出るようなルート。行き止まりだった場合はバツを付けて戻って。そうしている間に往路のルートに重なりそうな道に入った。正確にはそんな気がするだけだ。なぜなら、この線は私が自由に書いている縮尺が正しいとは限らないものだからだ。それでも、私の勘が正しければ、


「ここを下に降りたら行きに使ったルートに繋がるかも」


 すると、アルノルドが頷いた。


「信じますよ、夏子さんの勘を。光魔法の保持者ですから」


 アルノルドの言葉に引っかかった遥が訊く。


「光魔法の保持者だと勘が当たるの?」


「ええ、光魔法保持者の予感は当たることが多いですよ。もちろん預言者ではないのですべてが当たるわけではないですがね」


 そうなんだ。日本にいた時の私は勘が鋭い方ではなかったけれど…と思いながら、私は下りルートを進む。4人も私の後をついてくる。

 そして私はデジャヴではないけれど、見覚えのある道に出た気がした。


「繋がったかも!」


 メモ上でもちゃんと繋がっている。


「ここからは、左へ」


 私はメモに従って進んでいく。4人もついてくる。そして無事、私たちは大樹のようなギガンモーレイの巣を出た。

 私は外に出て空を見上げた。ギガンモーレイが飛んでいるのを期待したけれど、ただの空しか広がっていない。残念だ。

 そして、明るい外に出て分かったけれど、髪も服も顔もみんな薄汚れていた。


「なんか臭ぁい」


 遥が自分の髪の毛を嗅いだ。


「そりゃそうだ。巣の中にいたんだからギガンモーレイの汚物まみれだよ」


 マルセルは当たり前という風に答えた。

 遥は浄化魔法を発動させようとしたが、それをアルノルドが慌てて止めた。


「ここではダメです。森の外に出てからにしてください」


「どうして?」


「あまりにもギガンモーレイの巣に近すぎる。子育て中のギガンモーレイに刺激を与えてはいけません」


「え、でも巣の中で遠視召喚使ったけど?」


「浄化魔法がダメなんです。使うならリリスキジカのあるところで。リリスキジカの咲く場所は魔力がその範囲に留まります。だから気づかれない」


 アルノルドの説明を聞いて、森の中に進もうとした遥を今度はマルセルが止めた。


「ちょい、待て。リリスキジカのゾーンには今度はエッフーシュカがいる」


「え、でもさっき殆ど昇天させたじゃん」


「エッフーシュカなめんな。霊体だから、どんどん湧いてくる」


 マルセルの言葉を聞いて、遥だけではなく私とヤニックも絶望的な顔をした。


「だから、浄化魔法を使うのは森を抜けてからだ」

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