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44.初仕事③

 遥の遠視能力を使いながら慎重に左側ルートを進んでいく。

 マルセルから、


「杖をすぐに取り出せる場所に入れておいた方がいい。手に持った状態で歩くのがベストだ」


 と言われたので、私と遥は空間収納から魔法の杖を取り出して、手に持って歩くことにした。

 気持ち的には肝試しに参加しているような感じで、時折ガサガサっと音が鳴らして現れる生物に異常に驚いてしまう。大抵は蛇や大きな虫で、アルノルドとマルセルが華麗に処理していく。無駄な殺生はしない、それがサンバチスト様勢力圏でのルールらしい。だから基本的に襲ってこない場合は追い払い、襲ってきた場合は退治する。蛇の場合は退治した後、毒蛇の場合は皮を剥いで皮だけを、毒蛇ではない場合は血抜きをしてから水で洗い、アルノルドが自分のマジックバッグにしまった。


「それ、俺らにも分け前くれよ」


 マルセルがアルノルドに言う。


「分かってますよ」


 アルノルドは答える。

 遥がアルノルドに訊いた。


「蛇は何で持ち帰るの?」


「皮は貴族向け、毒のない蛇は食用です」


 アルノルドの答えに遥が強張った顔で「蛇食べるの?!」と驚く。

 遥の反応に対してアルノルドは逆に驚く。


「蛇食べないんですか?」


 遥はドン引きした顔で私を見たので、私は知っている情報をそのまま伝えた。


「中国とかでは食べられたりしてるんだよ」


 私の話に、遥は「え…」と更にドン引きした顔をする。


「私も食べたいとは思わないけど、蛇とかカエルとかワニとかって鶏肉みたいな味するって聞いたことある」


「えっ、カエルとかワニとかも食べれるの?」


「らしいよ」


 マルセルは諭すように遥に言う。


「冒険者をやる気なら、食べ慣れておいた方がいいぞ。人がいない場所へ遠征するときに食べることになる。首都シャルタルのような場所であれば食用に育てられた肉を食べられるし、当然そっちのが上手いからそっちが優先になるが、そうじゃない場合は森の生き物が貴重な食材になる」


 遥は「まじ…」と拒絶するような顔をする。


「今日の夕飯は蛇を食べてみるか?」


 マルセルが訊いてくる。

 遥は首を横に振って、


「昨日の食堂で普通の食事を食べたい。蛇は切羽詰まった時にする」


 そんなことを話しながら、私たちは先に進んでいく。

 やがて先の方に赤い花が見えてきた。あれがリリスキジカだろう。


「いますね」


 アルノルドが小声で言った。


「いいですか、見ない、気づかない、ひたすら前に進む、です」


 現段階ではっきり見えているわけではないけれど、確かに薄っすら馬の形をしたものがいるような気がする。あれが死の沼に引きずり込むというエッフーシュカ?

 万が一の場合に備え、先頭にマルセル、次に遥、私、ヤニック、最後尾にアルノルドという体制で進んでいくことになった。

 私は目線をしっかり前に向けたまま、薄っすら見えるものは見えていないように振舞って進む。リリスキジカに近づけば近づくほど、それはハッキリ見えるようなった。目の中に入れないようにしようとしても、それは視界の中に端っこの方に入り込んでくる。馬の霊体というけれど、背中からゆらゆらとした青い炎のようなものが立ち上がっている。

 見ない、見えない、見ない、見えない。私は心の中でそう唱えながら進む。


「あ…目が合った」


 ヤニックが声を漏らした。

 その瞬間、エッフーシュカがあっという間にヤニックの元にやってきた。


「走れ!」


 後ろからアルノルドが叫ぶ。

 私たちは一斉にエッフーシュカから逃げるように走っていく。しかしエッフーシュカはヤニックから離れず、背中に乗せようとしている。


「夏子、光魔法!」


 マルセルの声を受け、私はエッフーシュカに向けて杖で星を描いて丸で囲んだ。杖から光が放たれ、エッフーシュカに直撃した。するとエッフーシュカは岩のゴーレムの時と同じようにパンっと弾けるように消えた。


「ありがとう」


 ヤニックは青ざめた顔で礼を言ってきた。


「顔青いけど大丈夫?」


「エッフーシュカに触れた場所が冷たくて」


 するとアルノルドが「見せなさい」とヤニックの服をまくり上げた。エッフーシュカが触れていたのは背中の部分だった。


「一部入ったか…」


 ヤニックの背中の一部が紫色になっていた。

 ヤニックが「入った?」不安そうに聞き返す。


「エッフーシュカの霊炎だ。夏子さん、回復魔法の経験は?」


 アルノルドが私に訊いてきた。


「いいえ、教えてもらってないです」


「そうですか。私も回復魔術師ではないので…」


 とアルノルドが残念そうに言う。

 その様子にヤニックが更に不安を増したようで、


「このままだとどうなるんですか?」


「この部分が壊死する可能性が、すぐに街に戻りましょう」


 戻ろうとするアルノルドとヤニックを止めるように「待って」とマルセルが言った。

 マルセルはマジックバッグの中から魔法書を取り出した。


「確かここに」


 マルセルは魔法書をザクっと開いてから、数ページめくった。


「ほら、ここに回復魔法のやり方が載ってる。夏子の読める?」


 マルセルは開いたページを私に見せてきた。

 私はそのページを覗く。


「読める!」


 そのページに書かれた手順には杖は登場しない。手を患部にかざして、手のひらに魔力を集中させる。そして、元の形に戻るようなイメージをする。

 「おお」というアルノルドが感嘆の声を出す。

 ヤニックの背中の霊炎はみるみる消えていき、元に戻った。


「さすが光魔法の使い手。経験なくても一発で出来るんですね」


 アルノルドは手を握る様にパチパチと叩いた。


「ありがとうございます!本当にありがとうございます!」


 ヤニックが本当に嬉しそうな顔で言ってきた。顔色も良くなっている。

 魔法で人助けをする。ヤニックの笑顔を見て、私は憧れていた魔法使いに一歩近づいた気がした。

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