43.初仕事②
「ここまでだな」
車が進める限界の場所まで到着した。私たちは車を降り、私は車を空間収納にしまった。
到着したのは海の近くだった。目の前には針葉樹の森しか見えないけれど潮の匂いがする。
アルノルドが両手を握る様にパンッと合わせた。
「さあ、行きますか。ここのどこかにギガンモーレイの巣があるはずです」
アルノルドの言葉に引っかかったようで遥が聞き返した。
「どこかに?場所が分かってるんじゃないの?」
アルノルドは首を横に振った。
「ここのどこかにあるというだけでも十分な情報なんですよ。この依頼は、この辺りでギガンモーレイが確認されたという情報から始まってるんです。それくらい情報が貴重な鳥なんです。貴重過ぎたので、私自身が参加したくて表に出してなかったんですがね」
アルノルドがニヤっと企んだように笑った。
それをフォローするかのようにマルセルが言った。
「ギルマスが職権で貴重な仕事を隠すというのもどうかと思うが…遥の遠視の能力がこの仕事に最適だと判断して誘ってきたんだよ、この人は」
遥が「あ~」と納得するような声を出してから、
「だからマルセルは私の遠視が役立ちそうだと言ったの」
マルセルはうんうんと頷いた。
「さあ、どっちの方向に行くべきか、見えるか?」
遥は「ええ?!」と困った風な顔をしたけれど、すぐにやる気を出して目を細めた。
右を見て、前を見て、左を見て、再び右を見て、前を見て、左を見て。
「右も前も今のところ何も見えない。ただの森」
それに対してマルセルが「左は?」と反応する。
「赤い花が咲いてる。彼岸花みたいな」
「ヒガンバナって?」
「細長い茎に、細い花弁が上向きにいくつも生えてる感じ」
遥の答えにアルノルドがピンときたようで両手を握る様にパンッと合わせた。
「リリスキジカだ」
アルノルドの言葉にマルセルが「ああ」と納得したような声を出して、
「じゃあ、左だな」
私は決断の理由が分からず、マルセルに訊いた。
「リリスキジカのあるところにギガンモーレイがいるの?」
「100%いるとは限らないが、リリスキジカの根は地中魔物にとっては毒だと言われていて、その付近に地中魔物はいないとされている」
「地中魔物?」
「主に土の中で生活している魔物で、地上魔物にとって天敵だ」
「地中魔物に狙われる可能性がある地上生物は、リリスキジカが生えている場所にいる可能性があるということ?」
マルセルは「そういうこと」と頷いてアドバイスのように言った。
「逆に言うと、地中魔物討伐依頼があればリリスキジカが生えていない場所に進めばいい」
そこにヤニックが不安そうに入ってきた。
「僕、子供の頃からリリスキジカには近づくなと教えられてきたんですけど」
ヤニックの話を聞いて、私も遥も急に不安になった。
「なんで?」
「リリスキジカが咲く場所にはエッフーシュカがいて、死の沼に引きずり込まれると」
先ほどから聞き慣れない横文字のオンパレードで頭が追い付かない。
「エッフーシュカ?」
「僕も見たことが無いのでどういうものか分からないんですけど」
するとアルノルドが両手を握る様にパンッと合わせた。
「馬の霊体です。それは気にしなくても大丈夫です」
「そうなの?」
「背中に乗りさえしなければ、特に影響はありません。乗せられそうになったら逃げればいい」
アルノルドは怖いことを言っている。乗せられそうになる可能性もあるんだ…
「最悪攻撃を仕掛けられてきたら、夏子さんの光魔法でなんとかなる」
「私?」
「霊体なので物理的な攻撃は全く効かないけれど、光魔法は効くんですよ」
マルセルがそこに情報を被せてきた。
「エッフーシュカ対策のポイントとしては見ないことだ」
「見ない?」
「相手は霊体だ。だから、こちらが見なければ向こうは見えてないと認識する」
「どういうこと?」
「エッフーシュカに気づいていると気づかれなければいいんだ。こちらがエッフーシュカに気づいていると悟られた時点で、エッフーシュカは寄ってくる」
遥は目を細めて左奥の方を見ている。
「今のところ見えてないけど…気づかないふりできるかな」
アルノルドが両手を握る様にパンッと合わせた。
「さあ、進みましょう」




