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36.買い物

 宿屋で部屋を確保した後、私たちは部屋の内装を確認することなく再び外に出た。


「まずは服?杖?」


 マルセルが訊いてきた。


「服!」


 遥が答える。

 お腹もかなり減っていたのだけれど、先に服と杖を買いに行かなければ店が閉まるということだったので、私はかなり速足で移動した。

 到着した服屋は想像していたものと少し違った。


「全体的に茶色っぽいね」


 遥が言う。


「冒険者向けの店だからな。そういうのを望んでるんだろ?貴族向けのパーティードレスの店の方が良かったか?」


 マルセルが反論してきたので遥は首を横に振った。


「ううん、明日の初仕事に向いている服がいい」


 私たちが店に入ると、髭面の男性店主が「いらっしゃい」と反応した。そして、そのまま男性店主は私たちをジッと見た。


「異国人かい?」


 私と遥は思わず「はい」と答え、その後にマルセルが続いた。


「ウィザード・ロランスのお客人だ。少しの間ここで冒険者をすることになったから、仕事向けの服と部屋着を用意したい」


 店主は「予算は?」と聞いてくる。

 私と遥は相場を知らないのでマルセルを頼るように見る。


「銀貨20枚に収まるように」


 マルセルが答えると、店主は、


「フル装備でなくても良いということだな」


「ああ、最低限のラインで大丈夫だ」


 店主は頷いてから、私と遥に訊ねてきた。


「好みはあるか?」


 遥が「可愛い系で」と答えると店主は怪訝な顔をする。


「どういう服を想像している?そうだな、いくつか候補を出そう」


 店主はそう言ってハンガーラックにかかる服からいくつか選んで中央のテーブルに並べた。全てアウトドアウェアのようだった。基本的にパンツスタイルで色はカーキかベージュかこげ茶か。トップスはきなりのTシャツにジャケットを羽織る形で、ジャケットが長いタイプか短いタイプかという形だ。ただ、素材が分からない。この世界にポリエステルはないだろうけど、それっぽい肌触りだ。


「これ、素材は何ですか?」


「デモンボンビクスの巣糸製だ。これは銀貨10枚程度の製品なのでランクの低い糸で作られているが」


「デモンボンビクス?」


「キレネー山脈のエンガ王国側に出現するモンスターだ。その巣の糸で作る服は柔らかいので動きやすく、汗をかいても乾くのが早い」


 モンスターの巣の糸というのが想像つかないけれど、特性としてはナイロンやポリエステルに近いのだろう。


「どうしようかな。これとこれでいっか」


 私はピンときた服をパッと選んだ。パンツはベージュ、トップスはきなりのTシャツに腰が隠れる長さのジャケットにした。


「え、ちょっと、選ぶの早くない?」


 遥が焦っている。


「選択肢少ないんだから、適当に好みのものを選べば?」


 遥は「う~」と悩みながらも、


「よし、これとこれで。ちょっとサバイバルっぽい感じで」


 とカーキのパンツ、きなりのTシャツ、カーキの短めのジャケットを選んだ。

 店主は私たちが迷っている間に部屋着を用意してくれていた。


「うちにある、おたくに合いそうな部屋着はこれくらいなんだが、これで良いかい?銀貨3枚だ」


 こちらは一択で藍色のコットンパジャマといった服だった。


「問題ないです」


 私は答えた。

 店主は頷いてから、私と遥の足元を見た。


「最後は靴だな。サイズ的には…これくらいかな」


 いくつか並ぶ靴の中から2足手にして、私と遥の前に並べた。


「履いてみて」


 店主に言われるまま、私と遥は靴を試し履きした。ぴったりだった。


「ピッタリ!凄い!」


 遥も驚いたように言う。

 店主は得意げに「プロだからな」と笑った。

 金額はマルセルが発注した通り銀貨20枚以内に収まっていた。私が銀貨19枚、遥が銀貨18枚だった。金額の差はジャケットの長さだったようだ。

 私たちは店の試着室で購入した服に着替えさせてもらい、着ていたスーツと制服はそれぞれ空間収納にしまった。

 次に向かったのは魔法の杖屋だった。冒険者試験の時はマルセルに借りたけれど、ヤニック曰く、


「杖は魔力の属性に応じたものを使った方が効果が上がります。ロランス様にそう習いました」


 ということだったので、冒険者としてお金を稼ぐならば自前のものを持ちたかった。

 マルセルに連れられ路地に入っていく。そして3分くらい歩いたところで杖屋に到着した。店の作りはこじんまりとしている。

 中に入ると店の中央にカウンターがあって、カウンターの後ろに小箱がずらりと並んでいる。店主はいない。

 マルセルはカウンターに置いてあるベルを鳴らす。

 すると奥からいかにも魔女という感じの妖艶な女性が出てきた。

 服屋を出た後にマルセルが「次はあっという間に終わる」言っていたけれど、すぐに意味が分かった。

 女性は私と遥を見るなり「ふ~ん」と言って、手にしていた杖をぐるぐるし始めた。すると、カウンターの後ろの小箱がゴトゴトと揺れ始め、2つの箱が宙に浮いた。そしてその箱が私と遥の前にポンと置かれた。そして、箱が勝手に開いた。ただの木の枝のように見えると思っていると、


「あなたは風属性で、あなたは光属性ね」


 店主が言い当てた。


「はい、そうです。分かるんですか?」


 店主は困った顔をして言った。


「分かると言うか、出てきた杖がその属性のものだから」


 マルセルが私たちの背後から小声で「属性に合ったものを選ぶ魔術だ」と言った。

 私は「なるほど」と小さく頷いた。


「銀貨8枚」


 店主は言った。

 私たちは素直に銀貨8枚を出して、店を後にした。マルセルの言う通り、あっという間に終わった。

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