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34.北側エリア

 冒険者ギルドを出た後、私たちはマルセルの案内で万薬草の売り先に向かうことになった。


「ちょっと遠いんだけど」


 とマルセルが事前に言っていた通り、冒険者ギルドを出てから30分くらい歩いている。

 首都シャルタルは王宮を中心に東西南北にエリアが分かれている。入口の門がある南側にはギルドや商店、宿屋の類が集まっている。北側は従者や王国軍など王宮に仕える関係者の訓練や生活を行うエリアになっていて、ロランスの自宅も北側にあるらしい。東側は貴族や豪族などお金を持っている人々が暮らすエリアで、西側は庶民が暮らすエリアになっている。ただ西側は庶民が暮らすエリアとはいえ、首都シャルタル内で生活出来ている時点で余裕のある人が多いらしく治安が悪いということはないらしい。治安が悪い場所は、私たちが車で通り過ぎてきた首都シャルタルの外で、首都シャルタルに近い場所ほど治安が悪く、アドリア村ほど離れていると治安は悪くないということだった。

 私たちは王宮を迂回するように西側の庶民エリアを抜けていく。その先には鉄の柵があった。中に入るにはチェックがある。管理人がいる小部屋に冒険者証を提示する。そして許可が下りてから、北側エリアに入る。マルセルの目的の場所は北側エリアにあった。つまり王宮関係者に売るということだ。


「北側エリアに入るのにチェックが必要なんだ」


 遥がマルセルに聞く。


「当然だろう。機密事項の塊みたいな場所だぞ」


「でも冒険者証見せるだけで入れるくらい緩かったよ?」


「見せるだけではないし、冒険者なら誰でも入れるわけではない。一応俺はロランス様の従者の立場であるので既に許可が下りている身だ。その同行者ということで通れただけだ。それに見てなかったのかもしれないが、北側エリアに入る時点で名前が記録されてるし、俺も書類に目的地をちゃんと書いた」


「そうなの?」


「そこは見とけよ」


 試験の時から思っていたけれど、遥とマルセルはかなり砕けた関係になっているように感じる。

 そして私たちはそのまま目的に向かった。

 南側や西側は人が溢れる団地や商店街という印象だったけれど、北側は自然が多い郊外という印象だった。王宮の真裏は宿舎のようなものが並んでいるけれど、少し離れるとポツンポツンと森の中に一軒家が建っていたりする。この先には王国軍の演習場があるらしい。


「ここだ」


 マルセルが山小屋のログハウスのような家の前で言った。マルセルはそのままトントンと扉をノックした。

 家の中からの返事はない。留守だろうか。

 マルセルは、今度はトントン、トン、トントン、トンとノックして、


「こんにちは、マルセルです」


 と告げた。

 すると家の中からドスの効いた女性の声が聞こえてきた。


「今、手が離せない。何の用だ?」


「万薬草の花が4つ手に入りましたので、お譲りしたいと思い」


「ちょっと待っててくれ」


 その言葉から5分くらい経って、中から見た目は40代くらいだろうか、背の高い女性が顔を出した。女性は私と遥とヤニックを見てから、マルセルに訊いた。


「そちらの方々は?」


「ウィザード・ロランスのお客人です」


「そうか。これ、被ってもらって」


 とニット帽のようなものを渡してきた。

 私たちはマルセルの指示に従い、髪の毛を隠すようにニット帽を被った。そして、マルセルの指示に従い服の汚れを魔法で綺麗にした。マルセルはマルセルに自分の服の汚れも綺麗にしてもらった。

 その様子を確認し終えた後、女性は扉を開き、


「どうぞ」


 と、私たちを家の中に入れた。中に入る前に、靴を脱いだ。日本方式だ。

 家の中は大きな窯のようなものが2つ、鍋のようなものが3つ、その他試験管やフラスコのような機材がいくつも並んだ棚や机があった。

 マルセルは挙動不審な私たちに女性を紹介してくれた。


「宮廷薬術師のハマルさんだ」


 ハマルは「どうも」と小さく会釈した。


「土屋夏子です」


「土屋遥です」


「アドリア村ヤニックです」


 と私たちも自己紹介をした。

 次いでハマルはマルセルに言った。


「ウィザード・ロランスの元を追い出されて、冒険者に戻ったのかと思ったよ」


「なぜみんなそう思うんだ」


 マルセルはうんざりした顔をする。


「俺はウィザード・ロランスからの任務で彼女たちの護衛をしているだけだ」


 ハマルはあまり興味なさそうに「ああ、そう」と返事をしてから、


「で、万薬草の花は?」


 と手を出してきた。

 マルセルはマジックバッグの中から、私は空間収納の中から万薬草の花を出してハマルに渡した。

 ハマルは花を観察するように見てから言った。


「自生ではなく栽培ものか」


「よく分かりますね」


 ハマルはムッとした顔をしてマルセルを見る。


「私をなんだと思ってる」


「宮廷薬術師様です」


「よろしい」


 ハマルは花を再び観察するように見る。


「品は悪くないが、栽培ものだからな。そこまで高値はつかないぞ」


「分かってますよ。それでもギルドに売るよりは」


「ギルドは手数料取り過ぎだな。私としてもギルド通すより直接の方が安く購入できるから助かるが…花一つあたり金貨2枚でどうだ?」


 マルセルは渋い顔をしてから言う。


「もう一声!」


 ハマルは「うーむ」と悩んでから、


「では金貨2枚に銀貨50枚はどうだ?」


「もう一声!」


「それは自生ものを持って来てから言ってくれ。自生ものなら金貨4枚は出すよ」


「分かりましたよ。では、金貨2枚に銀貨50枚で」


 こうして、私たちはハマルに万薬草の花を売り、それぞれ金貨2枚と銀貨50枚を手に入れた。

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