30.実地試験②
「消えた?!どこ行った?」
私たちはその場に立った状態のまま石を探したけれど、石はどこににも見当たらない。
「これトラップ?」
私はふとマルセルの方を見る。
しかし、相変わらずマルセルは視線を逸らす。
「慎重にもう一度確認したいけど石が無いなあ」
遥がきょろきょろと周辺に手ごろな石がないか探している。しかし見える範囲では砂よりも少し大きいくらいの、小指の爪よりも小さな岩の破片のようなものしかなく、確認するのに手ごろな石がない。
「僕、作れます」
ヤニックはそう言って地面に手を当てた。すると、ポコポコと地面が膨らんできて、ゴルフボールより少し大きいくらいの丸い岩の球ができた。
「これくらいのサイズがいいんですよね?」
遥は「ありがとう」と言って、ヤニックが作った岩の玉を手に取った。
「さっきは転がしたから上を通すように投げてみる」
と言って、遥は石が消えた地点の上を通るように慎重に石を投げた。すると、岩の玉は何もなくその先に飛んで行った。ヤニックの岩の玉は硬いらしく落下しても崩れることはなかった。
「地面に何かあるんだ」
遥はもう一つの岩の玉を石が消えた地点を通るように慎重に石を転がした。すると、やはり消えた。
「あそこだ」
私たちは恐る恐る石が消えたところに近づいて行った。
「セオリー通りなら、ここに魔法陣があるはずなんだけど…」
と言いながら石が消えた場所を凝視する遥。
「でも、何もないよねえ」
遥はマルセルを見た。
マルセルは目を逸らす。
「消えた石はどこに行ったの?」
私は遥に聞く。
「どこに行ったかは分からないよ。これが罠なのか、ここから絵のある場所にワープできるのか、2択だね」
「ワープって、ロランスが言ってた転移陣?」
「そうそう、それ。陣は見えないけど。ヤニック、また石出せる?この道幅のどこからどこまでが消えるゾーンなのか確かめたい」
ヤニックは「分かった」と言って、岩の玉を何個か作り出した。
遥は端っこから順に石を転がしていく。すると、道の中央70~80cmくらいの幅で石が消えることが分かった。
「ちょうど人一人分くらいだ」
ヤニックが言う。
「2択だね。あえてこのゾーンに入るか、ここを避けてその先に進むか」
遥が言う。
「異世界あるあるではどうなの?」
私が聞くと、遥は「うーん」と何かを想像するような顔をして、
「こんな序盤でゴールする作品は見たことない」
「じゃあ、避けて先に進むということね」
遥は頷く。
「じゃあ、ちょっと待って。印を残しておこう」
私は空間収納にしまっておいたビジネスバッグを取り出して、その中に入っていたバインダーノート用のルーズリーフを何枚か取り出した。ビジネスバッグを空間収納に戻してからルーズリーフを細く切って石が消えた手前に置き、ヤニックから重しとなる石をいくつか出してもらって固定した。そして道の端っこを通って反対側に出た後、再び石を転がして逆側からの消えるゾーンの手前にも細く切ったルーズリーフを固定した。すると、消えるゾーンは70~80cm四方であることが分かった。
「こういうのがいくつかあるはず。気を付けて行こう」
遥は言った。
そうして私たちは石を転がしながらゆっくりと奥に進んでいった。何度か消えるゾーンは現れた。ゾーンは道の真ん中とは限らず、右側に寄っていたり、左側に寄っていたりしたが、概ね70~80cm四方だった。私はゾーンが現れる度にルーズリーフを細く切った紙を置いて印をつけていった。
同時に徐々に車の光が届かなくなってきて、洞窟内には不気味さが増してきた。
私は再び魔法で指の先を光らせた。
「ありがとう」
遥とヤニックは感謝してくれたけれど、どれだけ光らせてもやはり照らせる範囲は限られる。鏡があればもうちょっと奥まで反射させられるのに…と思ってすぐに重大なミスに気付いた。私は慌てて空間収納からビジネスバッグを取り出した。
急に光が消えて、遥とヤニックは驚いた。
「どうしたの?」
心配そうに遥が聞いてくる。
「スマホ!」
私はそう言いながら、ビジネスバッグの中をがさごそと探り、スマートフォンを取り出した。充電の残量が気になるけど、しばらく使えるはずだ。ビジネスバッグを再び空間収納にしまい、スマホのライトをつけて奥を照らした。
「おお!先まで見える。その魔道具すごいな」
驚いたのはヤニックだった。いつの間にかマルセルの距離がちょっと近く、私の光の範囲内に近づいていた。魔道具ではないけれど、説明が面倒くさそうなので聞き流した。
どんどん進んでいく。車の光はとうとう届かなくなり、スマホの光だけが頼りとなった。それで分かったのは、石が消える前に地面が薄っすら白く光ることだった。
「やっぱり陣があるんだ」
遥は納得するように言った。
陣が確認できるようになったとはいえ、現れるのは石が乗った瞬間のみ。私たちはこれまでと同じように印を残すことを続け、奥へ奥へと進んでいく。
そして、私たちは更なる2択に迫られることになった。
「これって」
私がライトで照らした先にあったのは分かれ道だった。




