28.試験場へ
実地試験は首都シャルタルの外側にある森の中で行うとのことだった。但し、試験場は極秘ということで、私たちは外が見えないように窓の部分がすりガラスになっている馬車で移動することになった。
そこまでの移動の際にマルセルは当日に実地試験を受けられることがいかに凄いことかを説明してくれた。
「車の中で話した通り、冒険者登録するためには必ず試験を受ける必要があるが、普通は登録申請に言った日に試験に受けられることはない。登録のための試験は月に2回しか開催されない。だからと言って、直近の試験をすぐに受けられるわけではない。枠が埋まっていたら、その次の回まで待たなければならない」
私たちは「へえ」とちょっと他人事風に返事をした。
するとマルセルが若干怒った風に顔をしかめた。
「登録申請した日にそのまま特別試験を受けられるなんてことは、ほとんどないんだぞ。今のこの状況がロランス様の紹介状の威力だ。俺は枠が埋まってても無理やり入れてもらえるくらいの予想をしていたが、まさか当日に特別試験とは。そもそもこの馬車もそうだ。本来はもっとボロボロの荷馬車に10人以上詰め込まれる。ロランス様の紹介状のおかげで特別待遇を受けているんだよ」
「ありがたいです」
遥が真剣なまなざしで返事をすると、マルセルは満足そうに頷いた。
私はちょっと気になることがあってマルセルに確認した。
「試験ってどんなことをするの?魔法なんて昨晩の見よう見まねしか使ってないんだけど」
マルセルは「魔法の試験じゃない」と首を横に振った。
「冒険者全員が魔法を使えるわけではない。魔法を使えない剣士や格闘士もいるし、人間壁というか魔力が攻撃力はなく防御に特化しただけのやつもいる。まれに料理人もいる。でも、試験に合格して冒険者登録をしている」
マルセルの答えを聞いて「ああ」と気づいた。確かに、マルセルは魔法を使えない。
一方、遥はマルセルの答えに納得いかず反論した。
「でもでも、実地試験で確認するって言ってたよ」
「実地試験で確認するうちの一つの項目ということだろう。これからやる試験は、冒険者資質があるかどうかを見る試験だ。依頼を遂行する能力があるか、ポイントはそこだ。道に迷わず正しい目的地にたどり着けるか、正しい薬草を見分けられるか、目の前に現れた魔物を倒せるか、倒した魔物を解体できるか、怪我した人を治せるかなど試験項目のうちいくつか合格すれば登録できる」
ヤニックは「なるほど」と頷いているけれど、私と遥には不安しかない。
「私、薬草なんか見分けたことないよ。何が薬草なのかも知らないよ」
と遥が言う。
「ならば、その項目は捨てろ」
マルセルが冷静に反応する。
「森の中を歩いたことだってない」
と遥は続けると、マルセルが不思議そうな顔で遥を見て、それから私を見た。
「どんな場所で暮らしてたんだ?」
私は都心のビルやマンション群、郊外の住宅街を頭に浮かべて、
「コンクリートジャングル?」
と答えた。
マルセルは全くピンときておらず、「コンクリート?」と聞き返してきた。
「砂利と砂と石灰石と粘土を粉々にして水と混ぜて固めた、みたいな。私たちの世界はそういうものを使った建造物が多くて」
ヤニックはピンときたようで、
「モルタルみたいなものですか?」
今度は逆に遥がピンと来ていないようで「モルタル?」と聞き返したけれど、そこは無視して、
「そうそう。モルタルに砂利を混ぜたのがコンクリート」
遥は私に「モルタル?」と聞いてきた。
「モルタルはレンガやブロックなんかを積むときに間に挟んで繋ぐ接着剤みたいな」
遥は「あ~」とピンときたようだ。
そんな中、馬車が完全に止まった。そして、外から扉が開かれ、ドニーズが顔を出した。
「試験場に到着しました。どうぞ、降車ください」
そこはマルセルに聞いた森の中ではなく、岩場の前だった。
遥は小声で「森じゃないよ」とマルセルに言い、マルセルは「俺の時は森だったの」と小声で答えた。
私たちの前に立つアルノルドが両手を握る様にパンッと合わせた。
「これより適正試験を行います」
私たちはピシッと立ちなおした。
「行っていただくのは、こちらの洞窟の中から、こちらの紙に記されたものを見つけてくることになります」
ドニーズが私たちそれぞれに紙を渡してきた。そこには絵が描いてある。とても上手いとは言えない絵で小鳥のような形をしたものに見える。
「ばらばらに行くも良し、全員で行くも良し、手段に制限はありません。但し制限時間はあり、日没までとなります」
私は思わず腕時計を見た。時計の針はまもなく7時になりそうな場所にある。起きてからもう6時間経過したようだ。そして7時ということは、私たちがこの世界に着いてから24時間が経過しようとしているということだ。朝の想定通りなら今は15時頃のはずだ。
「日没まであとどれくらいですか?」
遥がアルノルドに訊ねる。
しかし、アルノルドは答えてくれなかった。
「そこも含めて試験となります」
そして、アルノルドは再び両手を握る様にパンッと合わせた。
「それでは試験スタートいたします」




