252.リロトの過去④
「そして、6回目の世界ではひたすら魔物除けの強化をして人生を終えました。人生を終えたということは、当然魔王軍に対応できる魔物除けは作れなかったということですが、それでもこの小箱を包んでも消滅しない魔物除けは作ることが出来たんです」
「おやおや、それが今回の人生でルノソクに配った魔物除けかしら?」
「はい、そうです。結局今度はオレが黒い像に操られていて8年間改良ができなかったので、気休め程度の効力でしかありませんが、それでも弱い魔族や魔物であれば建物に侵入してくるのを止めることはできます」
「あらあら、それは凄いじゃないの」
リロトは誇らしげに笑った。
「一応、6回目の人生で8年かけて研究しましたから。ただ、今回の人生ではベンティさんともっと研究を進めたかったのですが、どういう理由かやり直せたのは8年前からでした。6回目の時にそこで何か選択をしたわけではないはずだったのですが」
「その8年前というのは?」
「ベンティさんが黒い像を持ってルノソクに戻ってくるタイミングから人生をやり直すことになったのです。次の人生ではベンティさんに黒い像と契約しないようにと伝えようと思っていたので残念でしたが、そのタイミングでベンティさんが落雷に遭って意識不明になったという話が届いて」
ファビアンが不思議そうに訊いた。
「なぜそのタイミング?」
「分からないです。落雷に遭わなければベンティさんが黒い像を持ってルノソクに到着したタイミングではあって、その時にベンティさんの様子がおかしいことに気付いたので知らず知らずのうちに選択のようなことをしていたのかもしれません」
ガニスも言っていた。今回の人生では黒い像を携えてルノソクに戻ってくる途中で落雷に遭ったと。
「オレは心配で、ベンティさんが治療を受けているという病院に向かいました。そこにはアリソタ様がおられて、状況を伺いました。雨が降っていたわけでもないのに突然雷がベンティさんに落ちてきたと。今」
と言ってリロトは影を見た。
「あなたが雷を落としたと伺ったから、それであれば全く不自然な話ではなかったと理解できますが、その時は何かの神的な力が働いたのかと思いました。なぜなら割れた黒い像を見て、これでベンティさんは黒い像との繋がりが切れたはずだと確信できたからです」
確かに理由が分からなければ、神の仕業と考えてしまうのも無理はない。
「その後アリソタ様はヘルギムに戻り、オレがベンティさんの看病をすることになりました。5日ほど過ぎたあたりでベンティさんが目を覚ましました。体力は衰えていましたが命に別状もなく、ご飯を食べられるようになると体力も回復していき、会話もできるまでに戻りました。そこでベンティさんから話を伺ったところ、ファボニウス司祭によって黒い像との契約を強引にさせられたこと、そこからの記憶がないことを教えてくれました」
「おやおや、強引に契約させられたの?」
「ええ、ベンティさんの話では左手の薬指に針を刺されて、その指を黒い像に押し付けられたということでした」
ファビアンは「血判か…」と呟いた。
「オレは逆に6回目の人生の話をしました。ファボニウス派のクアソルエの教会が落雷に遭って黒い像が割れ、そこの牧師も今回のベンティさんのように失った記憶を取り戻していたことです。するとベンティさんはあの教会の牧師もベンティさんと同じように契約をさせられた。ただ、アリソタ様は自ら進んで契約したと言っていました」
「あらあら、人によって違うのね」
「そのようです。ベンティさんが歩けるまで回復した後ルノソクに戻ると、アリソタ様が職人を手配してルノソクの教会を建てていました。黒い像との契約が切れて正気に戻ったベンティさんは教会を造る気など無かったのですが、止められないほど進んでいました。アリソタ様から『ファボニウス派の教徒であったからこそ落雷に遭っても命が助かった』と言われた時は、『本当にファボニウス派の教えによって救われるのであれば、そもそも落雷に遭わなかったのではないか』とベンティさんは思ったそうです」
これもガニスから聞いた話と一致している。
ベンティは元々ファボニウス派の教会を探るために教徒として潜り込んでいただけなのであるから、余計にそう思うのだろう。
「そこでベンティさんとオレは相談して、落雷から自分を守ってくれたこの像こそが雷の力を宿した神ということにしてファボニウス派ではなくベンティ派としてこの像をまつった教会にすることにしました」




