21.空間収納
徐々に人通りが多くなってきた。馬車や馬に乗った人、冒険者のような人や行商人のような人も歩いている。すれ違うことが多くなってきたので車のスピードを落としたものの、人々はすれ違うたびにギョッとした目でこちらを見る。
「そこの小屋の脇に道があるので、そこに入って」
マルセルは後部座席から身を乗り出して、先を指した。
私は言われた通り、小屋の脇の道を入った。一方通行レベルの車が通るには細い道だ。思わずウィンカーを出したのだけれど、その音に「何?何の音?」とマルセルとヤニックは驚いていた。
それに驚いた遥が後ろを向いて説明した。
「これはウィンカーと言って、方向を変える時に周囲の人に知らせる合図」
マルセルとヤニックは頭の上に「?」マークを出していた。そもそもウィンカーを出している時の外観を見ていないからピンと来ていないのだろう。
500メートルくらい進んだところでマルセルが身を乗り出した。
「そこで止めて」
私は「はい」と車を停めた。
先ほどの大通りと打って変わって人がいない。
「ここで降りよう。必需品は全部持って出た方がいい」
「分かった」
私たちは必需品を一通りカバンの中に詰めて車を降りた。意外にもマルセルとヤニックは自分でドアを開けた。取っ手を引っ張るだけなので難なく開けられたようだ。
「さて」
遥が何やら意気込んでいる。
「空間収納はどうやったら出来るのだろう。マルセル知ってる?」
マルセルは呆れたような顔をする。
「言っただろう、俺は見たことが無いって。ちなみに」
そう言って、マルセルは斜め掛けしているショルダーバッグをパンパンパンと叩いた。
「これはマジカルバッグだ。バッグによって容量は決まっているけれど、これは見た目の100倍は物が入れられる」
遥は「マジカルバッグ!」と目を見開いて、マルセルに近づいた。
「中見ていい?」
「いいけど、何も見えないぞ?」
マルセルはカバンの蓋を開く。
私は遥の後ろから中を覗いた。中は真っ黒だ。
「これで必要な物をどうやって取り出すの?」
遥が聞くと、
「取り出したいものを頭に思い浮かべながら手を突っ込めば、それが取り出せる。例えば…そうだな。ロランス様から読むように言われた魔法書を取り出したいときは、それをイメージして」
と言って、マルセルはカバンの中に手を入れた。そして広辞苑くらいの太さの本を取り出した。比較的綺麗に見えるけれど、ところどころページの端っこが折り曲げられており、若干膨らんでいる。魔法を使えるようになるために読み込んだであろうことが伺えた。
「マジックバッグの利点は見た目以上に物を入れられることだけれど、欠点はバッグの入り口よりも大きなものは入れられない。だから、大きさの限界はこの本だ」
「なるほど。小さいバッグの場合は、もっと小さいもの入れられない?」
「そういうことになる。で、だ。遥の空間収納がどれくらいのサイズを入れられるのかがポイントになる。バッグと同様に入口が決まっている場合、この車を収納できない可能性はある」
遥は車に向かって両手を上げた。
「出でよ、空間収納!」
しかし何も起こらない。その後、両手ををくるくる回したり、車の周りを回ったりしているが何も起こらない。
私はそれを見ながら、遥が自分のステータスを見た時と同じ行動を取ってみた。手をグーにして前に出し、親指と人差し指を立てた。すると目の前に半透明の緑っぽい画面が現れた。半透明な宙に浮いたタブレットという感じだ。なるほど、先ほど遥はこれを見ていたのか。
スキル:空間収納、鑑定、光魔法、魔道具創造。
鑑定って何だろう?魔道具創造って?これがあったからスムーズに車を魔道具化できたのだろうか?
それにしても、このステータスを見る画面、タブレットと同じような機能だとしたら、スクロールとかもできるんだろうか。私は親指と人差し指を立てたまま、画面を横にスクロールしてみた。すると、レベルというページが出てきて攻撃力だの防御力だの書かれ、隣に点数のような数字が載っている。またスクロールするとスキルのページになった。先ほどの空間収納、鑑定、光魔法、魔道具創造が載っている。そのまま、なんとなく、空間収納をタッチしてみた。するとステータス画面が消え、代わりに黒い穴のようなものが目の前に現れた。
「え?」
私が驚いていると、それ以上に驚いた遥が私の元に駆け寄ってきた。
「夏ちゃん、今何したの?!」
「いや、ステータスの画面がタブレットみたいだなと思ってスクロールして、スキルの画面で空間収納をタッチしてみたら、これが出た」
私は思わず手をグーにした。すると、穴もステータス画面も消えた。
「あ、消えた」
私が言った後、遥が「私もやってみる!」とステータス画面を開いたようだ。残念ながらその画面は私には見えない。しかし、空間収納の画面をタッチしたのだろう。遥の前に黒い穴が現れた。
「出た!どうやって車をこれに入れたらいいの?」
そう言いながら親指と人差し指を立てたままの手を動かして黒い穴を車に近づけた。すると、穴は車を包んで車ごと消えた。
「収納できた!」
喜ぶ遥。
それを見て目を丸くして口は半開きになっているマルセルとヤニック。
「これがマジックボックス…空間収納か。リアルに存在するんだ」
ぼそっとマルセルが呟いた。




