20.ステータス
広大な畑や果樹園を抜けていく道、牧場を抜けていく道、森の中を抜けていく道、砂漠のような土地を抜けていく道、山がある場合の登山道は徒歩専用なので車は迂回する。景色は次々に移り変わっていく。たまに訪れる川に架かる橋は石造りであったり木製であったりして、木製の方は車で通ると壊れないかと不安になり慎重に通った。ギシギシと音が鳴ったものの、案外丈夫なようで無事通って行けた。
畑の作物は見たことのないもので、森の木々もまた日本ではあまり見ないタイプのものだったけれど、その光景に私と遥以上に感動していたのはヤニックだった。「すごいっ、すごいっ!」と興奮した様子で窓の外を見ていた。
遥は再び後部座席を覗き込んで聞いた。
「ヤニックさんは本当に村の外に出たことがなかったんですね」
「はい」
「ヤニックさんはおいくつなんですか?」
20歳くらいかなと予想してみるが、答えは予想外だった。
「12歳です」
という答えが返ってきた。
それに対して私以上に驚いたのが遥だった。
「えっ!私よりも年下?!めっちゃ大人っぽい」
ここで口を挟んだのがマルセルだった。
「獣人族は成長が他の種族よりも早いんだよ。見た目だけではなく精神的にもね。獣人族の12歳は立派な大人だ」
バックミラー越しのヤニックは少し複雑そうな顔をしているように見えた。
やがて、道は広くなってきた。
「急に道が広くなった」
私が言うと、マルセルが答えた。
「首都シャルタルが近づいているからだ。首都シャルタルはシャルタル王国で最も栄えた場所だ。人の往来も多いから、道は広くなっている」
「なるほど。つまり、そろそろ車をどこかに隠した方がいいということですね」
「うーん、とはいえ、ここまで来てしまうと逆に隠し場所はないんだが…」
マルセルは「なあ」と後部座席から身を乗り出して、私と遥の両方を見ながら聞いてきた。
「実際に見たことは無いんだが、召喚者はマジックボックスを持っていると聞いたことがある」
遥はハッとしたように後ろを向いて「マジックボックス!」と言った。
「この世界にもちゃんと存在してるんだ!」
遥は興奮している。
「どうやって確認したらいい?」
とマルセルに聞くが、マルセルの答えはそっけない。
「だから、俺は実際に見たことは無いと言っただろう」
「あ、そうだった。私の異世界あるあるの知識だとステータスが見られるんだよ。こんな感じで」
と言って、グーの手を前に突き出して親指と人差し指を立てた。
「出た!」
何が出たのか私にはまったく分からないが、先ほど遥が言ってたステータスが見えるものが出たのだろうと予想する。
「空間収納ある!マジックボックスあるよ!」
遥は振り返って、マルセルに告げる。
マルセルはそれを聞いて「本当にあるのかよ」と驚いている。
「マジックボックスが本当に存在するなら、そのマジックボックスにこの車を収納するのも手だ」
マルセルは魔法のセンスはないだけでなかなかの切れ者なのかもしれない。
遥は大きく頷いて「やってみる」と言い、その後のステータスを読んでいく。
「あとは…鑑定、風魔法、遠視召喚?遠くが見えて、見えたものを召喚できるってことかな? 手元にワープさせられる?」
遥の情報を聞いて、自分のステータスが気になってきた。私はマルセルに聞く。
「首都シャルタルまで、徒歩だとあとどれくらいですか?」
「うーん、ここからだとあと1時間くらいか」
1時間徒歩はつらい。せめて…
「あと30分くらいの所で声かけてください。車止めます」
すると遥が「いやいやいや」と止めに入った。
「15分のところにしようよ。30分は遠いって。2キロくらいでしょ」
しかし、マルセルが答えた。
「15分のところでは人が多すぎる。こちらが言う通り30分が妥当だろう」
《こちら》というのがちょっと気になって、
「夏子と呼んでください」
と、ついつい言ってしまった。
続いて遥も、
「私は遥」
マルセルは口ごもったように言った。
「名前は分かっている。そう呼んでいいのか迷って」
「私もマルセルって呼ぶわ。旅の仲間だからね。ヤニックもよろしくね」
突然巻き込まれたヤニックは「あ、はい、わかりました」と畏まっていた。




