19.出発
「まずは首都シャルタルを目指しなさい。そこから東のベンチャ王国勇者と人魚に無事会えることを祈るわ」
こうして私たちはロランスとアドリア村の村民たちに見送られながら、ロランスの言葉に従って首都シャルタルを目指して出発した。
運転席に私、助手席に遥、後部座席の運転手裏にマルセル、助手席裏にヤニックが座っている。
「しばらくはこの道をひたすら進む形になる」
マルセルの指示に従い、東側に伸びた道を行くことになった。
ガソリンではなく魔法だとこんなにも静かなのか、と感じるくらい車は静かに走っている。まるで電気自動車のようなヌルっとした動きだ。しかし、道があまり良くない。車は静かだけれど、舗装されていない土の道なのでガタガタと車自体が揺れる。
それにしても初めての道は緊張する。信号も歩道もないので、突然人が現れたらどうしようとか、制限速度も無いのでスピードはどれくらい出して良いのだろうとか色々考える。
そんな私の緊張を無視するかのように、他の3人は何やら興奮している。
「外国の田舎って感じ」
遥の感動してる風の言葉に、心の中で「どこの?フランスあたり?見たことある?」と突っ込む。
「馬車よりも10倍速い!これはキングヒノプスの魔石の力か?」
マルセルの興奮してる風の言葉に、心の中で「馬車って意外と遅いの?」と突っ込む。
「この椅子どうやって出来てるんだ?この壁の素材はなんだ?」
ヤニックの好奇心旺盛な言葉に、心の中で「この子は職人タイプなんだろうか?」と突っ込む。
そして進んでいくうちに、ふと気づいた。たまに現れる畑の中にいる人たちが毎回私たちの車をギョッとした目で見ることに。
「やっぱりこの世界では珍しい乗り物なのね」
私の言葉に遥も同意する。
「なんかこの世の終わりみたいな顔して見てた人いたよ」
そんな私たちの会話にマルセルが突っ込む。
「はあ、そうかあ。そりゃそうだろうな」
先ほどから気になっていたけれど、マルセルの口調がロランスの横に立っていた時の丁寧口調とは変わって、若干ぶっきらぼうになっている。
「サンバチスト様が消えて、この世界の人々は魔王が攻めてくるかもしれないという不安に襲われている最中なんだよ。そんな中、見たこともない物体が見たこともないスピードで横切ってくんだから、魔王軍の何かかと勘違いする可能性がある」
マルセルの言葉にヤニックが同意した。
「確かに、お二人が車ごと落ちてきたときは、僕たちも魔王軍が空から攻めてきたのかと思いました」
私たちにとっては馴染みがあり過ぎて気にもならない車だけれど、確かに初めて見たら驚くかもしれない。遥も同じことを思ったようで、
「私たちの目の前に突然UFO現れたくらいな衝撃かもね」
遥の言葉に、「ユーフォー?」と反応するマルセル。
「UFOは宇宙船。宇宙を駆け巡る乗り物です」
「ユチュウセン…?」
マルセルは疑問をさらに膨らませたようだが、それ以上追究はしなかった。
その隙に私はマルセルに訊ねた。
「このまま車走らせてて問題ないんですかね?少しでも早くベンチャ王国に入りたいんですけど」
「問題ないとは言えないね。でも、この速さで進む他の乗り物は存在しないんで、これで行くしかないのでは?」
「大丈夫?」
「むしろこの車の噂を立ててもらい、ロランス様の招待状を持っている人が乗っていると知れ渡った方が便利になるかもしれない」
マルセルの言葉には説得力があったように思い、「確かに」と口にしたけれど、その後にヤニックが心配そうに言った。
「そう…なりますかねえ?」
遥が覗き込むように後部座席を除く。
「そうならない?」
「マルセルさんのような冒険者だと情報を入手する術がいくつもあって噂はすぐに届くとは思いますが、僕のように村から出たことのない者は情報を得る手段が少ないので、目撃したらただただ驚くだけになるかと」
ヤニックの意見にも一理あって、私は思わず「確かに」と口にした。
「とはいえ、これで行くしかないだろう。街の手前で一旦隠してみるのも良いかもな」
こうして私たちはそのまま首都シャルタルを目指すことにした。




