16.同行者
ロランスは私たちに紹介状を渡した。
「この紹介状があればどの国にも入れるはずよ」
一人一枚。赤い紙に金字で文字が書かれている。明らかに日本語ではなく東南アジアの方で使われてそうなクメール文字っぽいようなシャム文字っぽいような丸みを帯びた文字であるが、読める。
『ナツコ・ツチヤ この人物の身元はウィザード・ロランスが保証します』
その文字の最後にサインが書かれ、その隣に刻印みたいなものが押されている。
「ありがとうございます!」
私たちは同時に頭を下げた。
「あらあら、そんなに畏まらないで。そうそう…」
この後に続いた言葉が、全くの想定外だった。
「マルセル、あなた道案内して差し上げなさい」
驚きすぎたマルセルが一瞬言葉を詰まらせてから反論した。
「私はロランス様のもとで魔法の修行中の身です」
「あらあら、一か月や二か月、それ以上、二年や三年修行を中断しても問題ないわよ」
「魔法は日々の訓練が大事だと最初に仰ったではないですか」
「あらあら、それは才能があればの話。あなた魔法の才能空っぽなのよ」
「え? だってだって可能性はあると仰ったじゃないですか。魔力はゼロではないって」
「ゼロではないわ。でも、あなたの魔力は剣にしか込められないでしょう。剣を持ってなんぼなのよ、あなた」
「いや、いやいやいや」
「あらあら、大丈夫よ。修行を中断したところで大差無いわ。私の下で無駄に過ごすより、人助けをする方が有意義というものよ」
「は? はあ?」
マルセルは高ぶった気持ちのやり場を無くしたのか、私と遥を悲しそうな顔で見た。
その顔にいたたまれなくなってロランスに言った。
「マルセルさんを巻き込むのは申し訳ないです」
しかしロランスは笑顔を言った。
「あらあら、気にしないで。この世界は必ずしもこのアドリア村のように平和なわけではない。森に入れば危険な生き物もいる。ダンジョンには魔物もいる。マルセルは元剣士なので、その点は頼りになるわ」
「でも…」
「それに、これはマルセルの為でもあるの」
マルセルは絶望したような顔をして「ロランス様…」と呟いた。
そこに「あの…」と割って入った声がある。ドヴィックだ。
「あらあら、どうしたの。ドヴィック」
「うちの息子も同行させてもらえないでしょうか?」
ドヴィックの隣には夕食の時にソースをかけていたドヴィックの息子が立っていた。
「お恥ずかしいもので息子はこの村を出たことがない。次期村長として見識を広めるために、そして臆病な性格を直すためにも、一度村の外に出るべきだと私は考えるのです」
「あらあら、それはとても素晴らしい考えだと思うわ。あなたたちはどうかしら?」
ロランスは私たちの方を見て首を傾げた。
そして私が悩む前に遥が答えた。
「同行者は多い方が心強いです!」
「ちょっと、遥?!」
遥は小声で私に囁いた。
「異世界ではパーティは最低4人はいるんだよ。危険地帯に行ったら、夜誰かが寝ずに見張りをしないといけないし、そういう点でも二人より三人、三人より四人の方が何かと便利だと思う。ロランスの弟子で元剣士、アドリア村の村長の息子ってことで、一応身元はハッキリしてるわけで、何か悪さされたらロランスと村長に文句言えばいいわけで」
「この車で寝泊まりは二人が限界でしょう。運転席と助手席に寝てもらうの?」
「ホテルに泊まればいいんだよ。あるよ、街に行けば」
私たちがこそこそしている最中、
ドヴィックの息子は、ドヴィックに背中を叩かれて一歩前に出た。
「ヤニックです。よろしくお願いします。何らかのお役に立てるように頑張ります」
と頭を下げた。
私と遥は釣られて頭を下げた。
「土屋夏子です。よろしくお願いします」
「土屋遥です。よろしくお願いします」
「ほら、マルセルも」というロランスの声の後、マルセルが一歩前に出た。
「よろしくお願いします」
私がマルセルの方にお辞儀をすると、マルセルは小さく口を結んで視線を外した。




