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15.浄化

 朝食のパンはパサパサしていて、とてつもなく食べにくかった。水が美味しいことだけは助かった。ロランスの話によると、森の手前にある岩場から湧き出ている水を魔道具で浄化したものだそうだ。昨晩飲んでもお腹を壊さずに済んだのは、そういうことだったのか。

 お腹を壊さずに済んだのは良いが、トイレが困った。

 トイレは存在はしていた。ちょっと離れた場所に離れのように立っている小さな小屋がトイレになっているのだけれど、いわゆる昔のボットン便所的なものだった。一般家庭の浴槽サイズの穴を地面に掘って、表面を石垣のように覆っている。そこに水をはって、穴の縦方向に2枚の板を20センチくらい放して橋のようにかけている。この板に乗って、和式トイレのように用を足す。まあ、それだけであれば、まだ受け入れられた。最も受け入れられなかったのが、その水にプカプカとスライムが数匹浮かんでいたことだ。スライムが排泄物を浄化してくれるということで、確かにトイレは想像よりも臭くなかったけれど、スライムの上に用を足すことがどうにも受け入れにくかった。


「この世界のトイレは、どこもあんな感じなのかな?」


 トイレから戻った私がげんなりしながら言うと、


「異世界あるあるだね~」


 と、遥はあっけらかんと言った。


「異世界あるある?」


「スライムは浄化能力があって、ごみとか汚れとかを食べてくれるの。だから異世界ではよく水の浄化に使われてる」


「ああ、だから手洗い用の水桶みたいなところにもスライムが浮かんでたのか」


「そうそう。あれは元々魔法使えない人向け、主にマルセルさん用に置いたものだったみたいだよ。基本的に魔法が使える人は魔法で汚れを綺麗にするんだって。どんなに微力な魔法でも、それはできるらしい。でも、マルセルさんは魔法が使えないから手を洗うしかなくて、水桶を置いたみたい」


 いつの間にか遥は私の知らない情報を入手していた。


「誰から聞いたの?ロランス?」


「ううん、アナイスさん」


「ドヴィックさんの奥さんの?」


「そうそう。お風呂に入りたいって聞いてみたら無いって言われて。みんなどうしてるの?と聞いたら魔法で綺麗にしてるって」


「体も?」


「そうそう。で、私も教わって、さっき綺麗にした。ほら、髪の毛とかもサラサラでしょ?」


 それ、早く言ってよ!と心から思った。


「知りたい?」


 遥はいたずらっ子のように聞いてきた。


「そりゃそうよ」


「ど~しよっかな~」


「いいから、早く」


「仕方ないな~。昨日は星描いて丸描いたでしょ?あれは属性特有の攻撃魔法を使う方法だったんだけど、綺麗にする魔法はもっと簡単で、コンコンってキツネ作るでしょ?」


 と、遥は人差し指と小指を立てて、他の三本の指を前に突き出した。


「このノズル、鼻と口の部分、親指と中指と薬指をグーの形にして、人差し指と小指だけに魔力を集中。するとオーラが出る」


 私は遥の真似をして人差し指と小指を立てて、魔力を(と言ってもどうこめたら良いのかわかっていないのだけれど)集中させた。するとオーラのようなものが指の周りを包んだ。


「そのオーラで綺麗にしたい場所をなでる」


 私は試しに昨晩の夕食時にちょっと汚してしまった左腕の袖の部分をなでてみた。すると汚れが消えた。


「おお!」


「こんな感じで綺麗にするんだって。あ、服を着ている場合は服しか綺麗にならないから、体を綺麗にするときは裸になるか服の下に手を入れるかしないといけないって」


 私は「なるほど」と言いながら、頭全体を撫でていった。撫で終わると確かに頭がすっきりした気がした。そして、左手の手のひらと甲を綺麗にした後、気づいた。


「右手はどうすればいいの?手のひらとか腕とか」


 遥は「何を言ってるの?」という風な顔をして言った。


「左手でやればいいじゃない」


 ああそうか。と、私は左手でキツネもどきを作って魔力を集中させた。やはり利き手というのはあるのだろう。若干やりにくい。キツネもどきの手をしたまま腕を折り曲げると手のひらが釣りそうになる。魔法で綺麗になるというのは便利ではあるけれど、自分が想像していた魔法とちょっと違った。


「私、小さい頃に魔法使いになりたかったと言ったじゃない?」


 私はキツネの手を止めて、ポケットに入れていたボールペンを取り出した。そしてボールペンをくるくると回して、


「魔法のステッキを呪文唱えながら回すと体全体が光に包まれて変身するみたいな、髪型とかも変わっちゃって、ほうきで空を飛んだり、言葉を喋る猫が近くにいたり、そういうのを想像してたんだよ」


「それ、いつの時代のなんていう魔法少女」


 遥が呆れたようにツッコんできた。


「ロランスはシンデレラやオズの魔法使いのような魔法使いっぽいじゃない。見た目も」


「確かにロランスは童話の魔法使いっぽいし、加護している地域に結界張れるくらい別格な魔法使いなのは間違いない。ただ、この手の異世界の魔法使いは大体が治癒魔法で怪我を治すか、冒険者パーティーで後方支援するか、魔道具作るか、めちゃめちゃチートだった場合は魔王と戦う」


「でも、さっきの話だと、この世界の人はほとんど魔法使えるんでしょ?」


「この村が獣人族の村だからみんな使えるんだよ」


「獣人族は魔法が使えるということ?」


「亜人は魔力を持ってるの。異世界あるある」


「亜人?」


「言葉喋るし、二足歩行するし、道具を使う、いわゆる人間っぽいんだけど人間ではないみたいな。エルフとかゴブリンとか魔族とかドワーフとか、指輪物語に出てきそうなやつ。だから多分、マルセルさんは普通の人間なのだと思う。人間だけど剣には魔力を込められる特殊能力があるんじゃない?」


 私は「あぁ」と納得すると同時に、すらすらと異世界あるあるを話す遥に倣って異世界アニメを見ておくんだったなと心から思った。

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