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12.五大国

 夕食会のあと、私と遥はロランスが寝泊まりする家に招待された。

 この世界には電気が存在していないが、魔力を利用した道具である魔道具で賄えている。室内には魔道具のランプがいくつか設置されていて、若干薄暗さはあるものの夜を過ごす分には困らない程度には明るい。

 ロランスはこの世界について教えてくれるということだった。

 幸い、仕事に向かう途中だった私の車には仕事道具が積まれていたので、バインダーノートとノック式三色ボールペンを持ってスタンバイした。


「あらあら、このペンはどうなっているの?インクは?そのノートはどうなっているの?」


 ロランスは私の文具を手に取って、ボールペンのノック部分をカチカチしたり、バインダーノートの紙をサスサスと擦っている。ロランスの話によると、この世界では鳥の羽の軸の部分をインクに浸して、もっと質の悪いザラザラした紙に書くのが一般的だという。


「ちゃんとした地図を描くのは禁止されているから、ざっくりとした図を描くわね。まず、サンバチスト様の勢力圏が大きな括りとしてあって」


 と言いながら、ロランスはノートの中央に黒インクで山のようなものを描いた。


「その中心にあるのがキレネー山。この地域で最も高い山で2000年前に火を噴いたと言われているわ」


 キレネー山は火山らしい。日本で言う富士山みたいな感じだろう。


「このキレネー山を中心とした山脈があって、それを取り囲むように5つの国が存在している」


 ロランスは山を囲うように大きな5つの丸を描いた。山の下に一つ、左右に一つずつ、上に二つ。


「この5つの国を五大国と呼んでいるわ。それぞれの国にサンバチスト様配下の魔法使いが派遣されていて、私が加護しているのがキレネー山の南側に位置するシャルタル王国」


 と言って、ロランスは山の下の丸を指した。


「今あなたたちがいるアドリア村が属しているのはシャルタル王国のここにある」


 と言って、山の下の丸の、若干左寄り、若干上の方に小さな丸を描いた。


「シャルタル王国は五大国の中で最も領土が大きくて、キレネー山脈を源流とした2つの大河に囲まれているの。西に流れるのがセリル川、東に流れるのがロッジ川で、それぞれの川が南の海へと繋がっている」


 ロランスは、三色ボールペンのインクを青に変えて、シャルタル王国の両側の丸との接線をなぞる様に線を描いた。


「この川が国境になっていて、セリル川を挟んで西にあるのがヴァッヂ王国」


 ロランスは山の左側の丸を指し、次に右側の丸を指して、


「ロッジ川を挟んで東にあるのがクレマンスが加護しているベンチャ王国。あなたたちが向かうべき国よ。この下流では貿易を行うために反映した街がいくつか存在しているから、情報や利便性を考えてもそちらを経由してベンチャ王国に入った方が良いわ」


 私と遥は頷いて同時に「分かりました」と答えた。

 ロランスは私たちの反応を見てから、山の北側の丸を指した。


「そして、キレネー山の北西に位置しているのがマチュヤ王国、北東に位置しているのがエンガ王国。この二つの国にはなるべく近づかない方が良いわ」


 ロランスの真剣な声に、緊張感が走ったのが分かった。


「それは何故ですか?」


 遥が聞いた。

 ロランスはマチュヤ王国とエンガ王国の上の部分を黒く塗りつぶしてから言った。


「ここに魔王国が存在しているの」


 「魔王…」と私と遥は同時に言った。


「五大国はそれぞれ抱えているリスクが違う。最も安全なのがここシャルタル王国。山脈近くでは金や銀、銅、鉄といった資源が取れて鋳造も盛んで、平野はセリル川とロッジ川という大河以外にも山脈から流れる川は多くあって水不足に陥ることも少なく、温暖な気温で恵まれた土地だから農産物を良く育つ。海に面しているから海産物も取れる。だから、五大国の中で最も立場が弱いのよね」


「どうしてですか?」


「あらあら、それは安全で豊かだからよ」


「安全で豊かだから?」


「北側の二つの国は農作物を作るには条件が悪くて、さらに海にも面していないので海産物も取れない。鉄鉱石や銅、ダイヤモンドなどの資源が眠っているくらい。これだけでも恵まれていない国だというのに、さらに北には魔王国が存在している。サンバチスト様の勢力圏でマチュヤ王国とエンガ王国は魔王の侵略を防ぐ砦のような役割を果たしているのよ。この二国に守られている形となっているシャルタル王国、ヴァッヂ王国、ベンチャ王国はその代償として農作物や海産物などをこの二国に納めているの」


 ロランスの話では、シャルタル王国は北西のマチュヤ王国と北東のエンガ王国に収穫物など生産高の25%をそれぞれに納めている。西のヴァッヂ王国はマチュヤ王国へ、東のベンチャ王国はエンガ王国に生産高の25%を納めている。マチュヤ王国とエンガ王国は受け取るだけであるということだった。

 なるほど、だから安全で豊かだと立場が弱いのかと理解した。


「サンバチスト様が消える前から魔王国の攻勢が強まっている危険な状況で、北西のマチュヤ王国を加護しているのがガエタン、北東のエンガ王国を加護しているのがファビアンという防御に強い男性の魔法使いが配置されていたけれど、先ほども言ったようにサンバチスト様の結界が消えた後、彼らが結界を張りなおすまでの間に魔王国の魔人が入り込んだ可能性は否定できない」


 ロランスは右のこめかみに右手の人差し指と中指を添えた。


「特にガエタンの方は頭よりも体の方が先に動くタイプで、結界を張りなおす前に魔人と対峙しちゃって結界を張るのが遅れた可能性も否めないわ」


「つまり西側には行かない方が良いということでしょうか?」


 私がそう問うと、ロランスは頷いた。


「そうね、西とは言わず、とにかく北は避けておきなさい」

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