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11.夕食

 魔法レッスンが終わり、私たちはアドリア村の夕食会に参加させてもらうことになった。

 アドリア村では村全体が一つの家族という考え方のようで、それぞれの家は寝るための空間という位置づけで、食事は村民全員が一緒にとるのが生活スタイルということだった。

 夕食会のイメージはさながら林間学校のキャンプファイヤーといった感じで、広場の中央に大きめの石で囲われた丸くて浅い穴があり、その中央に薪や枝を組んで焚火をする。その上部に鉄棒のようなものが二本設置され、その鉄棒にイノシシが丸ごと吊るされ焚火の火で焼かれている。


「丸焼きは残酷だよ…」


 吊るされたイノシシから目をそらしながら遥が言う。


「この村の文化なんだよ」


 私がそう返すと、遥は首を横に振った。


「いや、この世界の文化だと思う。慣れなきゃだね」


 遥はそう言って、丸焼きの方に視線を戻したが「はあ…」と深いため息をついて下を向いて再び視線をズラした。


   ★


 イノシシが焼き終わったタイミングで、この世界にやってきたときに目にした紫いろのトマトや赤いキュウリなど野菜が乗った木製の皿が回されてきた。キュウリもどきはスティック状に切られ、トマトもどきはクシ切りにされている。


「サラダかな。ドレッシングはかかってなさそう」


 私の呟きに対して、ロランスが不思議そうに聞いてきた。


「あらあら、ドレッシングとは何かしら?」


「ああ、サラダにかけるオイルのような」


「サラダ?」


 私はお皿をロランスに見せて、


「私たちの世界では、こういうものをサラダと呼んでいます。こちらでは何と呼ぶのですか?」


「あらあら、野菜盛りよ」


 そのまんまだった。

 ロランスは皿を持って立ち上がって、「さあ、行きましょう」と言った。どうやらこの配布された皿に肉を乗せてもらうシステムらしい。 

 私と遥はロランスと共に肉配布の列に並んだ。肉には香草…たぶんローズマリーとかライムのようなものがまぶされているようで、香草の匂いで獣臭が抑えられている。マルセルがいないと思っていたが、焼けた肉をそぎ切る係をやっていた。皿を肉の下にかざして、そぎ切られた肉を乗せる。もう要らない量になったら皿を引き上げる。ケバブやシュラスコといったイメージだ。

 その後、ドヴィックを二回り若くした感じの獣人族の男性が肉の上に何かをすり潰したようなものをかけてくれた。ロランスに聞くと、彼はドヴィックの息子だったらしい。

 肉を受け取って、ロランスと共に席に戻る。皿の匂いを嗅ぐと、上にかけられたすり潰されたものはパイナップルとリンゴを混ぜたものような匂いがする。

 全員の皿に食事が乗った後、食前の祈りをするのが行儀らしい。


「あなたたちは右手を胸に当てて目を閉じていればいいわ」


 ロランスの言葉通り、私たちは皿を膝の上に置いた後、右手を胸に当てて目を閉じた。


『サンバチスト様、この食事に祝福を、そして命に感謝を込めて』


 全員が同時に口にした。


「もういいわよ」


 ロランスの言葉を受けて目を開けた。既にみんな食事を口に入れ始めていた。よく見ると全員手で食べている。

 私はロランスに小さな声で聞いてみた。


「手で食べるんですか?」


「あらあら、そうよ。この村ではね」


 ロランスの回答を聞いて「はあ…」と遥が落胆の声を出している。


「ちなみに他の村や街では?」


「王都の近くに行けばフォークやナイフ、スプーンを使っている場所もあるわ」


「なるほど…」


 私はスティック状になったキュウリもどきでて肉を持ち上げた。キュウリは想像よりも固くて箸代わりに使えそうだ。

 それを見た遥は「いいね」と真似をして肉を持ち上げて、口に運んだ。

 イノシシ肉は口に入れると獣臭が口の中に広がった。香草で臭いを消しても口の中では充満する。しかし、すり下ろされたパイナップルとリンゴの混ぜ物のようなソースがその臭さを3割減くらいにしてくれる感じだ。


「今日は特別な日、ご馳走を用意してくれたのよ」


 ロランスは肉を頬張りながら、ニコニコと私たちに話しかける。

 イノシシを丸ごと焼いているのだから確かにごちそうなのだと思う。みんな談笑しながら食事を楽しんでいる。但し一角だけ様子が違った。マルセルとドヴィックの息子が特に談笑もなく並んで座って食べている。

 ロランスに聞いてみた。


「なぜ、あの二人で並んで食べているんですか?特に仲良さそうにも見えないのですが」


「あらあら、そうね、単純に今日の給仕係なのだけど特に仲良いわけでもないから話すこともないだけじゃないかしら?」


 知らない人と相席というわけでもないのだから、ちょっとぐらい話してもよさそうなのにとも思いつつ、部外者なので特に突っ込まないことにした。

 料理はというと、正直私にとってはかなりワイルドな味で、野外でたまに食べる分には耐えられるというのが感想で、おいしいとは言いにくく、これが毎日続くとしたら辛いかもしれない。


「これ、ジビエ料理だよね」


 遥が私にそっと囁いてきた。


「そうね、括りとしてはジビエだね」


「最初は臭いしどうしようとか思ったけど、食べ慣れるとおいしくなってきた」


 遥に嘘はなさそうで、ロランスと談笑しながら本当においしそうに食べている。

 私は心から羨ましいと思ってしまった。ああ、醤油が欲しい。

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