10.杖と剣
ロランスの説明によると、光魔法は魔法の属性の中でもとても珍しいもので、多くは火、水、風、土の4属性に分けられ、それとは別に回復魔法に特化した属性がいるということだった。実際、この村でもそのような形で5つに分かれて魔法レッスンを受けていた。
「次はこれを使ってやってみなさい」
ロランスがマルセルの杖を私に渡した。杖を使わなくても魔法は使えるらしいが、使うことで神経が杖に集中できてコントロールしやすくなるということだった。
「それを使って、今やったことと同じことをして…そうね、あの的を狙って光を放ってみて」
ロランスが指さした先に獣人族が練習に使っていた的の予備のようなものがある。立てた丸太の上部中央に大きな葉っぱが付いてたものだ。
私は「はい」と言って、先ほどやった見よう見まねの円陣を杖を使って的に向け描いた。すると、先ほどと同様に陣がブワっと光り、そこから真っすぐ的に向かって光が飛んで行った。そして的の真ん中にある葉っぱに当たる。光に包まれた葉っぱはキラキラと光りながら消滅し、丸太がパタンと後ろに倒れた。
「素晴らしい」
ロランスは感嘆したように声を漏らした。そして、マルセルに向かって言った。
「杖に問題は無さそうね」
マルセルはばつが悪そうに「ですねえ」と答えた。
先ほどからロランスはマルセルに対して違和感のある言動を取っている気がする。「早く踏ん切りつけた方がいい」とか言ってみたり、魔法は魔力さえあれば使えると言った後にマルセルを見たり…
「その杖を今度はお嬢さんが使ってみて」
ロランスは倒れた丸太を魔法で再び立たせてから遥を見た。
遥は驚いて、
「私も魔法が使える?!」
私はマルセルの杖を遥に渡した。
遥は受け取りながら「どうやった?」と小声で私に聞いてきた。
「星描いて、それを囲うように丸を描く」
私の答えを聞くと、遥は緊張した面持ちで「分かった」と言い、的に向かって杖で星描いて囲うように丸を描いた。すると円陣が掃除機のように風を集め始める。
「私も魔法使えてる!」
遥の顔に笑顔が戻った。その後円陣から空気砲が発射され、それは丸太にコツンと当たったようで、丸太がわずかに揺れた。「当たった!」と遥は喜んで私を見た。
「あなたは風魔法ね。ちょっと弱めだけど十分使えるわね。杖も全く問題ない。では、マルセル、貴方もやってごらんなさい」
マルセルは、ばつが悪そうに私と遥を見た。前方のレッスン場からは獣人族たちがこちらを見ている。
「い、今ですか?」
マルセルの問いに対してロランスは笑顔で頷いて「ええ」と答えた。そして遥から受け取った杖をマルセルに渡す。
マルセルは受け取った杖の先をじっと見て、大きく息を吸って、ゆっくりと息を吐く。もう一度大きく息を吸って、ゆっくりと息を吐く。
その姿を見ながら、魔法を使う時はそんなに緊張するものなのだろうか、それくらい緊張して使わなければならないのだろうか、私と遥は緊張感なしに魔法を使ってしまったのだろうか、そんなことを考えていると、マルセルが星を描き始めた。
しかし、星を囲むように円を描いたところで何も起きなかった。
マルセルは再びばつが悪そうに私たちを見た。
そして、私たちもまた、ばつが悪い気持ちになって目をそらしてロランスに目をやった。
ロランスはドヴィックに向かい、大きな声で話しかけた。
「ドヴィック、どんなものでも良いから剣を持ってきて」
「少々お待ちください」
ドヴィックは小走りで建物の中に入り、長さ50センチくらいの剣を手にしてロランスの元にやってきた。
「マルセル、ではこの剣を使って」
ロランスは剣をマルセルに渡した後、遠くにあった的を魔法でマルセルの前に移動させた。
「この丸太を斬りなさい」
マルセルはフゥと大きく息をついてから目を閉じ、剣を振り上げた。すると、剣にイナズマのような電気が走る。マルセルは目を開き、剣を丸太に振り下ろす。丸太は真っ二つに切れ、その切り口は雷が落ちたように黒焦げになっていた。
マルセルはロランスを見る。
ロランスは黒焦げの丸太を見ながら言った。
「あらあら、やはり。剣にしか魔力を込められない。マルセルは根っからの剣士なのよね」




