08 対決! 超常ニンジャ軍団 後編
「ちょっと、あなたたち――」
「ヤバい! おい、時間だぞ!」
話しかけようと思ったのだが、突然ラプリンが大声を上げたためカリーテの声は途中でかき消されてしまう。
それを合図にしたように、解毒剤で元に戻ったリジェラを含むニンジャたちは入口が解放された美術展へと一斉になだれ込んだ。ついでにカリーテも巻き込まれていた。
「ななな、なんですの⁉」
「ごめんねカリーテさん。わたしたちがここに来てたのは理由があって……」
「うげ、さすがにもう居やがるぞ」
ニンジャたちがやって来たのは美術展の最奥、パンフレットにもあった催しの目玉となる宝石の前だった。
そして、ラプリンの言う通りそこには誰かがいた。黒髪にメガネ、ボディスーツの上にジャケットを着こんだクールビューティーという表現がぴったりの女だった。
「ハリザ先生……」
スーシィがポツリとつぶやいた。
「ハリザ?」
「最強のニンジャマスターにしてわたしたちの先生。今日は同窓会でもありニジャとしての抜き打ちテストでもあったんです。この美術展を利用して、先生が盗み出そうとする宝石を防衛できたら合格って」
「そんな事してましたのね。でも……もう盗られてますわよ」
そう、宝石はすでにハリザの手の中にあった。しかしこれで終わりというわけではないようだ。
「どうしたヒヨッコども、まともに防衛もできないとはそれでも里のニンジャか!」
よく通る声でハリザの叱責が飛ぶ。
「フヒヒ……、ちょっとトラブルがあったと言いますか……。フヒッ」
「言い訳無用、ニンジャならば不測の事態など常にあると思え! さあ、里に戻って特別訓練を受けたくなければ私から宝石を取り戻してみろ!」
言い訳無用と言いつつ、どうやら宝石を取り戻せば合格にしてくれるようだ。
というわけでまだ望みはあるとニンジャたちがハリザに立ち向かっていく。特別訓練とやらは相当に嫌なものらしい。
「サイバー……シャウトォ!!!!!」
「注射手裏剣乱れ打ち!」
最初に飛び出したのはラプリンとインジーだった。
ギターでテンションを上げ、波動砲の如く一点に集中したラプリンの歌声。それと同時に大量の注射器が四方八方からハリザを襲う。
「甘い!」
ハリザが手にした刀で虚空を斬った。
するとそこには真空の壁が発生し、ラプリンのサイバーシャウトを正面から受け止める。
音は振動、空気が無ければ伝わらない。どんな爆音であろうとも真空ではかき消されてしまう。
更に、真空の壁が消える際に周囲の空気を注射器ごと吸い込んだ。これにより二人の同時攻撃は完全に無効化されてしまったのである。
「攻める時は一気呵成に! 忘れたか!」
目にも止まらぬハリザの攻撃。ラプリンとインジーは防ぐ暇もないまま吹き飛ばされた。
「それじゃあ、次はわたしが行きます!」
ラプリンとインジーの間を縫い、今度はスーシィが打って出る。
「いちいち宣言するな、馬鹿者!」
「ひぃ、ごめんなさい~」
謝りながらもスーシィは直接攻撃による肉弾戦を挑む。
武器にも防具にもなり得る鋼鉄のトレイを手にしたスーシィと、それに難なく対応するハリザとの怒涛の乱打戦が繰り広げられている。
「チート忍法、足掴み~」
乱打戦を繰り広げるハリザの足元から二本の手が出現しその足を掴んだ。床の中に潜んだリジェラがスーシィのサポートをしようというのだ。
チート忍法とは言うがただ足を掴むだけの小技、しかしタイミングによっては効果絶大な技だろう。
「ふんっ!」
「わっ、ちょ⁉」
ただ、相手が悪かったらしい。
足を掴んだまではよかったものの、ハリザはそのままの状態で前蹴りを繰り出しリジェラを引っこ抜いてしまった。
スーシィのサポートをするはずがスーシィに対する飛び道具になってしまったリジェラ。そんなリジェラをスーシィは優しくキャッチする。
「リジェラ、大丈夫?」
「おおう……マジ女神」
「それじゃ、また行こうか!」
「いや……やっぱ鬼かも」
リジェラの無事を確認したスーシィが再びハリザに突撃していった。
そんな様子をカリーテは複雑な思いで眺めていた。
以前にスーシィと似たような事をやったが、目の前で繰り広げられている戦いはより精度が高い。それが気に入らないのだ。
「くっ、あの時は本気ではなかったと言いますの……?」
「スーシィがそうそう本気で戦うかよ、今だってそうだぜ」
消耗したラプリンがフラつきながら言った。
「マジですの?」
「アイツの剛力剛体は問答無用のフィジカルで大抵の事は踏み倒しちまうんだ。あの精神性でなきゃ許されない力さ」
「それは……」
素晴らしいですわねと言いかけてやめた。実際素晴らしい能力ではあるのだが、借りられるかどうかは疑問だったからだ。
カリーテの「借りる」能力は所持品や特殊能力ならば簡単に借りられるが、生来の身体能力などには適用されない。スーシィの超パワーがこちらの世界で身に着けた異能であればカリーテにとって有用なのだが、元々の力だった場合や元々強かった力を増幅する能力であった場合はそこまで意味のないものになるだろう。
(でもまあ、恩は売っておいて損はないかもしれませんわね)
ニンジャ全員が苦戦しているこの状況、恩を売るには丁度良い。
スーシィたちがまた吹っ飛ばされたタイミングでカリーテはハリザの前へと歩み出た。
「ちょっと失礼しますわ」
「なんだお前は、部外者か。まあいい、現地で戦力を調達するのもスキルのうちだ。助っ人を買って出たいのであれば許可しよう」
「あら、それではお言葉に甘えて。……それ、お借りしますわ」
その瞬間、ハリザが持っていたはずの宝石がカリーテの手の中にあった。
「……ん?」
「油断大敵、ですわ」
合格の条件は宝石を取り返す事、ゆえに試験はこれで終了となる。……はずだった。
「逆刻」
ハリザの目が怪しく光った。
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「あら、それではお言葉に甘えて。……それ、お借りしますわ」
その瞬間、ハリザの持っていたはずの宝石がカリーテの手の中に……無い。
「あれっ⁉ なんで⁉ どーいうことですのぉ⁉」
簡単なはずの所持品の借り受け、いつもやっている能力に失敗したカリーテはわかりやすくショックを受けていた。
そう言えば、おかしな事に同じセリフを二回言ったような気もする。もうわけがわからない。
「うわ、出たぜ。相変わらずえげつねえな」
この謎の現象、ラプリンたちは知っているようだ。
「ちょっと、これどうなってますの⁉」
「オマエのやってる事もわりと謎なんだけどな。アレはハリザ先生の『逆刻』だ、何て言うか……要するにちょっと巻き戻して結果を変えるんだよ」
「な⁉ そんな無法が許されますの⁉」
「そうそう、だから先生とやるのって嫌なのよね~。フヒッ」
「大人げないにも程がありますわ」
嫌なのよね、どころの話ではない。そんな力があっては試験など成り立たないではないか。
とはいえ格好つけて助っ人を買って出た手前、じゃあやめますわと引き下がるわけにもいかない。
「だったら、実力行使ですわ!」
カリーテはハリザに向かい猛烈な勢いで突進する。
「悪魔毒蛇拳、乱れ打ち!」
カリーテの両腕が無数の蛇と化し、あらゆる方向からハリザを襲う。
だがその程度の事で揺らぐハリザではなかった。どれだけ打ち込もうとも全て叩き落とされ、ただの一匹もその身に食らいつく事ができないでいる。
ただし、これはカリーテも想定していた事だ。切り札は別にある。
「悪魔爆塵掌!」
悪魔爆塵掌とは、カリーテが使う血達磨流魔闘術の技のひとつ。カリーテの内包する膨大な魔力を掌底から一気に放出する必殺の一撃である。
もっとも、威力がある分その隙は大きい。当然ながらハリザはその隙を見逃さず、悪魔爆塵掌をかいくぐりカリーテの懐へと飛び込んだ。
「今だ! その技、借りますわ!」
カリーテの狙いはここにあった。
ハリザが悪魔爆塵掌をかわすのは計算の内。ならば相手の『逆刻』を借り、利用する事で悪魔爆塵掌をかわせなかった事にしてしまえばいいのだ。
「オホホ~! やっぱりわたくしって天才で最強ですわ!」
ドガッ!
「ほんげえぇ⁉」
勝ち誇るカリーテの顎にきれいなアッパーが直撃。カリーテは弧を描くように吹っ飛ばされ床に叩きつけられた。
「その程度か? なんなら貴様も私が鍛え直してやろう」
「な、なんでえええ……⁉」
角が床に刺さってしまい身動きが取れない。その間にもハリザは冷徹なオーラを放ちながらゆっくりと近付いて来る。またしても絶体絶命の状況であった。
「お嬢様!」
そんな時、聞き覚えのある声がした。
ここにきてようやくクラドが追い付いてきたのだ。
「お嬢様、ここにいらしたのですか」
「クラド……! あなたいままでどこにいましたの? こっちはもう大変でしたのよ!」
「そのようでございますね。追い付いてみれば随分な強敵を相手になさっているご様子で」
クラドとニンジャたちの助力もありようやく角が抜けた。
「ふう……。って、まだ助かってはいませんわね。あの女、なぜだかわたくしの能力が通用しないんですの」
「なるほど。おそらくですが、そういった特殊能力は総合的な実力が開いていると通じないという話を聞いた事があります。つまりお嬢様の実力不足ではないかと」
「はあ⁉ わたくしは魔王の娘、魔界でも上位の実力を誇る偉大な存在ですわよ。そんなバカな話があるわけねーですの!」
「では、あの方を前にしてそう言い切れますか?」
「うっ……」
新たに現れたクラドを警戒しているのか、ハリザはその動きを止めていた。それでもなお痛感する強烈な威圧感、さすがのカリーテも現実を認めざるを得なかった。
そして、ハリザが再び動き出す。
「貴様……私と結婚しろ!」
「……は?」
動き出したかと思えばこの第一声、当然ながら場が凍り付いた。
なのにハリザはクラドから視線を外さないままにじり寄ってくる。
「貴様も魔族か。名は何という」
「……私の事でしょうか。私はクラド、カリーテお嬢様の従者をしておりま――」
「いい名前だ、ですね! 子供は何人欲しいか迅速に述べろ!」
この異様な展開にクラドは思いきり引いていた。
カリーテとしてはうろたえるクラドという普段見られないものが見られてちょっと面白かった。
「何事ですの、これは」
「あー……。ハリザ先生って最強のニンジャなんだけど、なんだか最近焦ってるんですよ」
「そのくせ仕事一筋だったからコッチ方面はだいぶコミュ障なんだよ、タチ悪いよな」
「フヒッ、あのクラドって人はカリーテの従者さん? いい男ね」
「けっこう強そうだし、センセの好みなんじゃね? こりゃ長くなりそうだし」
ニンジャたちが言うにはそういう事らしい。
「お嬢様、私は体調が優れぬゆえ早退させていただきます」
その言葉を残し、クラドは魔法門を展開しどこかへと姿を消した。
「あっ、待て! せめて新婚旅行はどこがいいか教えていけ!」
相手はワープしたというのに、ハリザはクラドを追いかけどこかへと走り去っていった。
「あの女だと魔法門にも追い付けそうで怖いですわね。……あら、これは」
ハリザが走り去った後、カリーテがふと下を見るとそこには宝石が落ちていた。試験対象である、一度は手にしたはずのあの宝石だ。
「えーっと、これは……」
「まあ、合格って事でいいんじゃないか」
そうでもしないと面倒な事この上ないのは確かだ。
というわけでカリーテとニンジャたちはそういう事にした。宝石を美術展に返却し、試験はこれにて終了だ。
「ねえ、みんなで甘いものでも食べようよ」
「賛成~」
スーシィの提案により試験の後はモールにあるカフェでスイーツタイム。癖の強い女子五人による女子会とあいなった。
「……あれ? わたくし何をしに来たんでしたっけ?」
その後、カリーテは営業が終了し真っ暗になったモールに一人取り残されるまで、その答えを思い出す事は無かった。
「クラドー! 早く迎えに来なさいー!」
***
「お困りですかー?」
明かりの堕ちたモール内に取り残されたカリーテ。その背後から声がした。
「アーシタラーじゃないの。丁度いいわ、あなたでもいいから家まで送ってちょうだい、ですの」
しかし、どうした事かアーシタラーは張り付いた笑顔のまま答えない。
「……聞いてますの?」
「そうですねー。カリーテ様はニンジャさんたちを見てどう思われました?」
「何ですのいきなり」
「新しい世界で多様な生き方を見て、何か思う所はありませんでしたか?」
「そんな事より、早くわたくしを家に……」
「大丈夫、魔族でも変われるのです。あなたはきっとお父様とは違うのですから。……そう、より良い世界のために」
次の瞬間、カリーテのすぐ目の前までアーシタラーが迫っていた。
その手の一本がカリーテの額に触れる。
「はい、あなたも――」




