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07 対決! 超常ニンジャ軍団 中編

 それは楽器を取り出したという様相ではない。鞘から剣を抜いたような、大振りの斧を構えたかのような迫力のある出で立ちだ。


「オレを……」

「え?」


「オ レ を そ の 名 で 呼 ぶ ん じ ゃ ね え !」


「きょわー⁉」


 振り向きざまにラプリンが叫ぶ。

 その声量は半端ではなかった。地震でも起こったかのように周囲がビリビリと震え、衝撃波が砲弾の如くカリーテを襲う。

 もちろん耳を塞いだ程度ではどうなるものでもなく、カリーテは白目をむくほど脳をシェイクされてしまっていた。


「おっげえ……、なんちゅう事してくれますの……」


 カリーテは吐きそうなほどフラフラだが、ラプリンの怒りは収まらない様子。

 取り出したギターを弾くでもなく、斧のように振り回し襲い掛かってくる。


「ああ……、こっちも地雷を踏んでしまったんですのね……」


 悪い事は重なるもので、今の轟音を聞きつけたもう一人が追い付いてきた。


「見~つけた! お注射の時間ですよぉ~! フッヒヒヒ!」


 バキバキに決まった目をしたインジーがカリーテの退路を塞ぐ。どこからそんなものを持ってきたのか、手には超大型の注射器を持っていた。もはや変な形の槍である。

 前方には怒れるパンクロッカー、後方には狂気の注射魔ナース。二つの脅威は確実にカリーテを追い詰めていく。


「あっ、コレわたくし死んだかも……ですわ」


 二人が同時に飛び掛かった時、いまだぐるぐる回る頭でカリーテは死を覚悟する。


 だがしかし、この絶体絶命のピンチに救世主が舞い降りた!


「ダメーッ!」


 何者かの絶叫と共に二枚の金属製のトレイが飛来。

 トレイはそれぞれインジーとラプリンの眼前スレスレをかすめ、その奥のコンクリート壁に深々と突き刺さった。


「……」


 金属のトレイが突き刺さった衝撃による震えを止めるまでの数秒間、周囲は水を打ったような静寂に包まれていた。

 そして、動きを止めたラプリンとインジー、思わずへたり込んだカリーテの前に一人の少女が姿を現す。


「二人とも、人に迷惑かけちゃダメでしょ!」

「……ん?」


 二人を叱る金髪でメイド服姿の少女。

 カリーテはこの少女に見覚えがあった。


「あなた……スーシィ⁉」

「あれ、カリーテさん。偶然ですね!」


 彼女はスーシィ。以前スシマスターの所で出会った、一時はカリーテの姉弟子だった少女である。

 思いがけない再会にカリーテは驚く。だがそれ以上に驚いたのは、スーシィが現れた途端にあれだけいきり立っていた二人が大人しくなった事だった。


「インジー、人にムリヤリ注射しないって約束したよね?」

「おっふ……。うん、その、ゴメンナサイ……」


「ラプリン、お店がすっごい揺れてたよ。迷惑かけちゃダメじゃない」

「……わ、悪かったよ」


 こんな感じで、二人ともスーシィに対してはとても素直な様子だ。

 ついでにその流れでスーシィは紹介もしてくれた。


「この人はカリーテさん、お師匠様の所で一緒に修行した事があるの。わたしの妹みたいなものだね」

「……違いますわよ、「弟子」が抜けてますわ。弟子でもないですけど」

「えー? 同じようなものですよ」

「まあ、それはさておき。あなたあのスシピエロの所で修業してたんじゃないの? 助けてもらったのは感謝しますけど、どうしてここに?」

「スシマスターです! えっと、今日はシノビレッジの同窓会みたいなものでして、みんなで集まっているんですよ」

「シノビレッジ⁉」


 ここで意外な単語が飛び出した。

 このモールに来た当初の目的、そのニンジャの養成施設の名がなぜスーシィから出てくるのだろうか。


「も、もしかしてあなた……ニンジャ、だったりしますの?」

「そうですよ~」


 あっさり教えてくれた。


「こういうのって秘密なんじゃないんですの?」

「別に隠すようなものじゃないですよ。インジーやラプリンもニンジャですし!」

「同窓会って事はそうなんでしょうね。ですわ」


 探していたニンジャは意外な形で見つかった。しかも知り合いだった。

 当初の予定であれば順調と言えるのだが、今はそうも言ってられない事情がある。


「ちょっと聞きますけど、あなたの仲間に緑髪で黒マスクをした小柄な娘はいますかしら?」

「緑……? ああ、たぶんリジェラかな」

「やっぱり知り合いですのね。それで、そいつは今どこに?」

「モールに来てるとは思うんだけど……。あの子がどうかしたんですか?」

「いえ、こっちの事情ですわ」


 まさか下着をスリ盗られたなどとは言えない。しかしこのままでは当てもなく探さねばならない。

 そう思っているとケラケラと笑う声が聞こえてきた。


「ハハハッ! オマエ、インジーだけじゃなくリジェラにもやられたのか」


 笑ったのはラプリンだった。

 その態度にカリーテは少々カチンと来た。


「あら、わたくしを笑うとは良い度胸していますわね。ラプリンちゃん?」

「ああ⁉」


 ラプリンは睨みつけてきたものの、すぐに目を逸らしため息をつく。


「……ハッ。普段ならブチのめしてるところだが、スーシィの妹分だってんなら許してやるぜ」

「だから違いますの」

「リジェラのやつ、凄腕のシーフのくせに下着フェチなんだよ。どうせパンツでもスリ盗られたんだろ」

「ばっ⁉」


 まさしくその通りである。ニンジャの仲間内では知られた話のようだ。

 それはそれとして恥ずかしかった。


「くうう……屈辱ですわ。あなたたち、そのリジェラとかいう小娘の仲間なのでしょう? 責任取って取り返すのを手伝いなさい、ですの!」

「いいよー」


 こちらもあっさりと話がついた。

 スシマスターの所にいた時は怪力の変な奴としか思わなかったが、こうして見るとスーシィは頼りになる存在なのかもしれない。


 最初に動いたのはラプリンだった。


「スーシィの頼みじゃ仕方ねえ、始めるか」


 ラプリンは構えたギターをギュンと弾いた。しかし何の音も響かない。


「なんですのアレは」

「しーっ、お静かに」


 しばらく沈黙と静寂の時間が続いた後、何か集中していた様子のラプリンが口を開いた。


「……いたぜ、たぶんリジェラだ。美術展の近くにいる」

「なんでそんな事が分かりますの?」


 その疑問にはスーシィが答えた。


「ラプリンは音の達人なの。今のは超音波を出してこのモール全体をスキャンしてたんです、だからリジェラの居場所が分かったというわけですね!」

「さらっととんでもねー事してますわね」


 それはさておき、カリーテたちは標的の場所が分かったので急ぎ向かう。


「それにしても、あたなたち我が強そうなのにスーシィの言う事は聞くんですのね」

「まあねえ、スーシィは里のアイドルみたいなものだし。……ま、怒らせたら一番怖いってのもあるけどね。フヒッ」

「それは何となくわかりますわね」


 カリーテは以前スーシィとやり合った事があり、その実力はよく知っている。インジーの言う通り、いつもにこやかなぶん怒らせた際の怖さも想像できた。


「オマエら、何を無駄口叩いてんだ」

「実はそう言うラプリンがスーシィの事好きすぎて何でも許しちゃうのよ。フヒッ」

「なっ、何言ってやがる! ……くそっ、ふざけやがって。誰もパンクバードって呼びやがらねえしよ」


「あなたも苦労してますのね」


 無駄話もありながら、一行は美術展近くまでやって来た。

 だが周囲を見てもそれらしき姿は見当たらない。


「アイツ、隠れてやがるな。……おい、インジー」

「はぁ~い、ワタシの出番かな。フヒッ」


 ラプリンに声をかけられ、インジーが一歩前に出た。


「お注射生成!」


 すると、謎の掛け声と共に薬液が満たされた注射器が出現した。


「んん? どっから出しましたのアレ」

「インジーは薬学の天才すぎて、こっちに来てからは色々な薬品を生成できるようになったんですよ。個人的な趣向のせいか入れ物が注射器限定なんですけどね」

「凄いのかアホなのかわかりませんわね。凄いんでしょうけど」


 インジーは注射器を逆手に持ち、近くの壁に向かって思いきり突き立てた。


「薬液注入~」


 するとどうした事か、コンクリートの壁がまるでプリンのようにプルプルと震えだした。

 震えはだんだんと大きくなり、細かい波へと変わっていく。そして――


「うひゃあっ⁉」


 ほぼ液状になった壁の中から緑髪の少女が勢いよく吐き出された。

 カリーテたちの目の前に転がり出たその姿は間違いなく目的の少女・リジェラだ。


「は~い、壁に近付かないでね。そろそろ液化薬の効果が切れる頃だから」

「こっちもまたとんでもねーですわね」


 スーシィの説明では色々な薬品を生成できるとの事だったので、これはおそらく壁を一時的に薬で液状にして中に潜んでいたリジェラを吐き出させたのだろう。

 だがそれはそれで疑問が残る。


「インジーの薬が凄いのはわかりましたけど、そもそもこいつはなんで壁の中にいましたの?」

「リジェラは物体を透過できるんだよ、自分はもちろん触れた物とかもな。そうやってパンツとかも履いたままスリ盗ってんだ。オマエのパンツもそうだろ」

「パンツパンツ言わないでくださらない?」


 ズケズケと言うラプリンに思わずツッコんでしまったが、その反面カリーテは心の中でほくそ笑む。


(これは……使えますわ! こいつら、なんて優秀なのかしら。わたくしの技のストックとして最適じゃありませんの!)


「何をニヤニヤしてんだよ」

「いえ、何でも。そ、それより下着を取り返しませんと!」


 戦力強化も大事だが下着を取り戻すのも忘れてはならない。

 カリーテは倒れているリジェラを掴み引き起こした。


「この変態泥棒、わたくしの下着を返しなさい!」


 が、リジェラはそう簡単には応じなかった。


「ヤだね。魔族の貴族の下着なんてレアもの、放してたまるかし!」


 しっかりと服を掴んでいたはずだが、リジェラの体はスルリとカリーテの手を通り抜けて逃れてしまった。


「ぬぬぬ、物体透過……厄介ですわね」


 普段であればカリーテの「借りる」能力で物を取り上げる事は容易にできる。しかし今回は盗まれた「自分の物」が対象であるため「借りる」わけではなく能力が適用されず、自力で取り戻すしかなかったのだ。


「じゃあ鎮静剤でも注射しよっか。ウヒヒッ、注射ぁ~!」


 手をこまねいているとインジーがそう言った。

 カリーテに協力してくれるのか、それとも単に注射をするチャンスだと踏んだのか。インジーが両手に何本もの注射器を生成した。


「注射手裏剣!」


 そしてニンジャらしく手裏剣として注射器をリジェラへと投げつけた。


「ムダムダ、あーしに当たるワケねーし」


 その言葉通り注射手裏剣は全てリジェラの体を貫通し壁に突き刺さった。物体透過能力があるのだから当然ではある。


「ちょっとソレ、借りますわ」


 だとしてもやりようはある。

 カリーテはインジーから注射器の一本を受け取ると、ダーツのようにリジェラへと投げつけた。


「ニヒヒ、誰が何度やっても同じだし」

「あなたもよ、借りてあげますわ」

「へ?」


 その瞬間、余裕ぶっていたリジェラに注射手裏剣がぷすっと見事に命中。薬液が注入され、リジェラは瞬く間にふにゃふにゃになってその場にへたり込んだ。


「な、なんでぇ~?」


 注射器を透過できなかった事への疑問を口にするリジェラ。だがそれに答えるはずのカリーテの姿は無い。


「あれ? カリーテさんは?」


 スーシィたちがキョロキョロと周囲を伺っている。

 何をしているのかといえば、カリーテは二階の手すりを掴み這い上がってくるところだった。

 その姿は何かに激突したようにボロボロで埃を被っている。リジェラの透過能力を借りて無力化したはいいが、同時に能力が発動した上にうまく扱えず一階まで落下してしまったのだ。


「いたたた……。自分が使うとなると面倒ですわね。変態がうつると嫌だから返して差し上げますわ」


 リジェラに能力を返すカリーテ。同時にヘロヘロになっているリジェラからようやく下着を取り戻す事ができた。


「うう……、あーしのレアもの……」

「あなたのじゃありませんわよ! そこで反省なさいな」


「わあ、けっこうハデなの履いてるんですね」

「……見ないでくださいまし。ちょっとお手洗いに行ってきますわ」


 ともかく、これで万全の状態へと戻った。

 となれば次は本来の目的である戦力の増強に取り掛かる番だ。

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