03 対決! 宇宙魔法少女 後編
「――ハッ⁉」
気が付くと、カリーテはベッドにいた。
どこかで見たような天井と展開、もちろんここはカリーテハウスだ。
「お目覚めですかお嬢様」
傍らにはクラドがいた。いつも通りの何を考えているのかわからないクールな表情で。
「ええと……わたくし、何を……」
「お嬢様、見事なやられっぷりでしたね」
「あ、やっぱりそうですの。……油断、油断ですわ! それにあの珍妙なパワー、高貴なわたくしには似つかわしくなくてよ!」
屈辱的な敗北を思い出し、ベッドの上でジタバタと騒ぐカリーテ。
こんな時でもクラドはマイペースにその時の状況を思い出していた。
「それにしても借りパク常習犯のお嬢様が奇跡の返却をなさる事により、返された者の能力が一時的に強化されるとは。まさに怪我の功名、新たな発見でございました」
「いちいちトゲがありませんこと?」
「まさか。それより己の能力について理解が深まったのは良い事です、次に活かしていきましょう」
「ぬぐぐ……。あの小娘め、必ずや痛い目見せてくれますわ! 覚えてらっしゃい!」
初めて対峙した異世界の超人と、(親に負けたのはノーカンとして)初めて味わう敗北の苦味。カリーテは屈辱を胸にリベンジを誓うのであった。
具体的には即決で。ダウンしていた一日分のロスはあるものの、カリーテは敗北した翌日にはすでにリベンジに向け街へと繰り出していた。
「さあて、あの小娘はどこかしら。てらしとか言ったかしら?」
「素の状態だと『てらし』、変身していれば『てらしちゃん』ですね」
「呼び方なんかどっちでもいいですわ。フフ、見つけ出したらまず人質でも取って心をへし折ってやりますのよ」
「見事な小汚さ、素晴らしいです」
「絶対褒めてないですわねそれ」
何にせよあの『宇宙パワー』とやらは間抜けっぽいのに侮れない力なのは間違いない。やり方は十分に考慮するべきであろう。
「異世界の人間はみんなあのような力を持っているのかしら?」
「元から超人だった者もいるようですが、転移する際に不思議な力を得るものが多いようですね。どのような能力なのかは人それぞれ異なるとか」
「ま、それに関しては問題ありませんわね。借りて使ってしまえばいいのだから」
「またのたうち回る羽目にならなければよろしいのですが」
「……うっ。そ、そんな事にはなりませんわ!」
ちょっと不安になったが、あんな目にあったのは初めての事。そうそうあるものではないと思いたいカリーテであった。
――その時。
遠くの方から爆発音、そして悲鳴が聞こえてきた。
「あら、何かしら。面白そうですわね」
人探しの途中ではあるが、こんなイベントを見逃す手はないとカリーテは現場へ急行する。
現場は街の一角。遠巻きに見守る群衆の中、何者かが戦っているようだ。
「くっ……、人質とは卑怯なのだ!」
「グハハ! たとえぬいぐるみであろうと猫は許さん!」
そこには探していたてらしちゃんの姿があった。
ダメージを負っている様子のてらしちゃん、その視線の先には戦いの相手らしき銀色で二足歩行の犬のように見える何かが立っていた。
この見覚えの無い種族にカリーテは少しだけ興味が湧いた。
「街を守ってるって本当だったのね。それにしてもアレは何ですの、コボルトとは違うみたいだし……あんな種族いましたかしら?」
「お嬢様、あれは魔族ではなくエイリアンというものでございます」
「えいりあん?」
「異なる星や世界からの来訪者とでも言いましょうか。彼らだけでなく様々な存在がこの世界に召喚されておりまして、魔族との和平は成りましたが脅威はむしろ増えていると言えるでしょう」
「やっぱり人間はアホですわね。にしても、ああいうのと一緒にされるのはムカつきますわ」
ふと、エイリアンの持っている物が目についた。
「あら……? 何かしらアレ、ぬいぐるみ?」
「資料によると、てらしちゃんが大切にしているペブルスという名のぬいぐるみのようですね。お嬢様、人質作戦を横取りされてしまいましたよ」
「人質って、ぬいぐるみじゃありませんの。そこまで落ちぶれていませんわ!」
状況を見るに、てらしちゃんは人質……もとい、ぬいぐるみ質をあのエイリアンに取られ苦戦を強いられているようだ。
「しかし、ぬいぐるみひとつでああも窮地に陥るものでしょうか」
「そうね……」
そんな時、ふと頭をよぎる幼き日の記憶。
(たかがぬいぐるみ、されどぬいぐるみか……)
カリーテ自身にもそんな時期があったのを思い出した。
「お嬢様、何かおっしゃられましたか。おや、どちらに?」
思うところがあったのか、カリーテはいつの間にかエイリアンの目の前まで歩いていた。
「キミは昨日の……!」
「なんだ、貴様は」
予期せぬ訪問者の出現に、てらしちゃんとエイリアンの視線はカリーテに向かう。
「わたくしはカリーテ=パクリウスと申しますわ」
とりあえず名乗りを上げると、エイリアンが何かに気付いたようだ。
「そのツノ、貴様は魔族か」
「あら、ご存じですの? 最近の犬は喋るうえに物知りなのね」
「ククッ、知っているとも。人間ごときに敗れた劣等種族であろう? おまけに種族の王は人間に篭絡され退位したとか。なんとも惨めな事だ」
「あら……残念ながら知性は見た目通り劣悪ですわね。言いたい事はそれだけかしら?」
「だが感謝もしているぞ。貴様たち魔族と人間が争ってくれたおかげで、我らコスモドグマスがこの世界に降臨できたのだからな。手始めに全ての猫と猫派を排除するところだ、負け犬は引っ込んでいろ」
ゲラゲラと笑うエイリアン。
普段のカリーテならば「犬はお前だろ」と激高し大暴れするところであったが、今日は妙に冷静だった。
「フフ、薄汚い野良犬にしては面白い冗談ですわね」
「ま、待つのだ! ペブルスが……!」
一触即発の空気を察し、てらしちゃんがカリーテを止めようとする。
が、そのような事で止まるようなカリーテではない。てらしちゃんなど気にも留めずにエイリアンを睨み続けていた。
「ところでいいものを持っているじゃない、わたくしにお貸しなさいな」
その瞬間、エイリアンが鋭い爪でガッチリと保持していたはずのぬいぐるみ・ペブルスが、いつの間にかカリーテの手に移動していた。
カリーテの「借りる」能力において所持品の強制徴収など初歩、この通り簡単に取り上げる事が可能なのである。
「はあ……、やっぱりどう見ても小汚いぬいぐるみですわね」
手に取ったぬいぐるみを冷ややかな視線で見つめるカリーテ。
すると予期せぬ事が起こった。
「ぬわんぬ、ひどいんぬ~」
「ひあっ⁉」
ただのぬいぐるみだと思っていたソレが喋ったのだ。おかげで驚きのあまり変な声が出てしまった。
「しゃ、喋った……?」
「ペブルスはてらしちゃんと同じく宇宙パワーを持っているのだ、喋るくらい当然なのだ」
てらしちゃんによるとそういう事らしい。
「……わ、わたくしには相応しくありませんわ。えっと、返しますわね」
カリーテはペブルスをポイと放り投げた。
借りた物の又貸しは良くないので、本来の持ち主であるてらしちゃんに向かって。
「うわっとと! ペブルス! おかえりなのだ!」
「てらしちゃん、ただいまぬ」
ペブルスはてらしちゃんに受け止められ、無事帰還となった。
本当はもうちょっと格好良く振る舞うつもりだったのに、突然ぬいぐるみが喋ったせいでどうにも締まらない結果になってしまった。
(宇宙パワーってわけわかりませんわ。ああもう、イライラしますわね)
おかげでカリーテのただでさえ悪いご機嫌は急降下、苛立ちながらエイリアンへと詰め寄っていく。
「さて、ぬいぐるみよりも薄汚く醜い駄犬さん。足りない頭で考えたせこい人質作戦以外にわたくしを楽しませてくれるネタはありますの?」
エイリアンはカリーテの挑発を受け、怯むどころか不敵に笑う。
「やはり、魔族は愚かなようだな。よかろう、見せてやる。来たるべき犬世界に貴様らは必要ない、存分に後悔するんだな!」
雄叫びと共にエイリアンが恐ろしげなポーズを取った。
「グオオオオッ!」
取った後……何も起こらない。
「……な、なんだ、どういう事だ?」
混乱するエイリアンの頭上にスッと影がかかった。
「これがあなたの能力ですの?」
影を造り出したもの。それはビルほどの大きさへと巨大化したカリーテだった。
エイリアンがその能力を見せつけようとした直前、カリーテの「借りる」能力によって巨大化の力はカリーテへと移動していたのである。
「この程度の事であんなに自信たっぷりだなんて、コスモドグマスとやらもたかが知れていますわね。さっさとご退場願おうかしら」
「え? ちょ、ちょっと待て――」
「ふんっ!」
もはや聞く耳などない。
巨大なカリーテの巨大な踏みつけ、哀れエイリアンはたったの一撃で悲鳴ごと跡形もなく消し飛ばされてしまった。
「身の程知らずのザコにはお似合いの末路ですわね」
本来の持ち主が死亡したため借りていた能力も消滅し、カリーテの体は元のサイズへと戻った。
「お見事です、お嬢様。お力が錆びてはいないようで何よりでございます」
戦いを終えたカリーテの傍らには、いつの間にかクラドが立っている。
「当然ですわ」
カリーテはクラドを一瞥すると、戦いの一部始終を見守っていたてらしちゃんへと歩み寄った。
「さて、ようやく会えましたわね。次は――」
「すごいのだ! キミは強くていいやつだったのだ! ペブルスやみんなを助けてくれてありがとうなのだ!」
「え?」
てらしちゃんは満面の笑みを浮かべ、カリーテの両手をしっかりと掴んでいる。
「昨日は勘違いしちゃってごめんなさいなのだ。お家の事だからきっとキミにも事情があったのに申し訳なかったのだ」
「あ、あら……そう」
突然の感謝と謝罪で出端をくじかれたカリーテ。どうにもマイペースなてらしちゃんに調子を狂わされてしまう。
「ちゃんと謝罪できるとはよくできたお嬢さんですね。カリーテお嬢様も見習って欲しいものです」
クラドもこんな調子だった。
「もしボクの力を借りたくなったらいつでも手を貸すのだ! よろしくね!」
「別に仲良くなりたかったわけではありませんけど、……まあそれならそれでいいですわ」
素直でない悪魔令嬢と素直過ぎる宇宙魔法少女。
そんな二人を男たちは優しく見守っている。
「なんと、お嬢様にご友人が……。今日は良き日でございますね」
「あなたも苦労してるんぬなあ」
「恐縮です」
悪魔執事と喋るぬいぐるみ、こちらもじゅうぶん奇妙な取り合わせであった。




