02 対決! 宇宙魔法少女 前編
変なポーズとセリフを強要されそうになったので家を飛び出したカリーテ。
仕方がないのでこのまま計画を始める事にした。
「えっと、まずはどうしたらいいのかしら」
「こちらにアーシタラーから預かった資料がございます」
見れば同行するクラドが書類のようなものを持っていた。
「あら、手際がいいですわね」
「もったいないお言葉です。どうやらこの資料には超人的な力や異能を持った者がリストアップされているようですね。順次当たっていかれますか?」
「そうね。お母様たちに対抗できる人材がいればいいのだけれど。……まあ、そうでなくとも利用できるものはありそうですわ」
「では行きましょう」
クラドが魔法門を開き、カリーテは最初のターゲットの元へ向かった。
***
「んなっ……⁉」
魔法門の先、人間の街に繰り出したカリーテはいきなり言葉を失った。
そこはかつて見たような光景ではなく、得体の知れない様式の建築が立ち並ぶ場所。要するにとんでもなく都会的であったのだ。
特に整然とした区画にそびえ立つ、石でできているような真四角の建物はとても巨大で、カリーテは思わず目を奪われていた。
「な、なんですのあの石の箱は。城? ここは軍事都市なの?」
「城ではありません、あれはビルというものです。自在に形成できるコンクリートなる石を用いて造られた多目的の建築物ですね。この辺りは街ごと召喚されたようなので、こういったものは一般的な建築のようです」
ビルにコンクリートをはじめ、街にあるのはどれもこれもカリーテの知らないものばかり。人間の集落など大した事は無いと高をくくってたカリーテであったが、あまりの衝撃にすっかりうろたえてしまっている。
「な、なるほど……確かにシッチャカメッチャカですわね」
「お嬢様、あちらに目当ての者がいるようでございます」
クラドに言われて目をやると、そこには人間の少女たちが歩いていた。
「何かしらあれ。みな同じ格好をしているようだけど、異世界の軍隊なんですの?」
「ああ、あれはJKと呼ばれる者たちです」
「ジェーケー?」
「異世界にて若者を集めた学習所、そこに通う女子を表す言葉です。あの特徴的な制服と呼ばれる格好が証拠ですね」
「ふうん、変わってますわね。そんなものがわたくしの役に立つのかしら」
とりあえず、カリーテは彼女たちに声をかける事にした。
「ちょっと、そこのあなたたち!」
すると、その途端。
「キャッ! え、魔族じゃん!」
「マジ本物? うわ、角すごっ!」
カリーテはすぐさま少女たちに取り囲まれてしまった。
和平が成ったとはいえ魔族が珍しいのか、あまつさえ角などをペタペタ触られる始末だ。
「ちょ、気安く触んな! ですの!」
「ええー、いいじゃん減るものじゃなし」
言葉で言っても少女たちはやめる様子が無い。
(なんて気安い連中……。あれだけ争っていたのにこうも平和になるものかしら)
初めはそんな事を考えていたカリーテだったが、少女たちはあまりにしつこかった。
ただでさえ上限値の低いイライラが限界に達しそうになり、カリーテが暴力に訴えようとしたその瞬間。その拳は降り上がる直前、とある声によって止まった。
「ダメだよみんな、その人に迷惑でしょ」
JK集団のうち一人がそう言うと、少女たちはピタリとカリーテに触るのをやめたのだ。
「はーい、ごめんなさい」
「謝るのは僕にじゃないだろう?」
「……はい。ごめんなさい、魔族の人」
そればかりかカリーテに向かいしおらしく謝罪まで行った。
まるで指揮官のような統率だ。短髪で凛々しい王子様のようなその少女にカリーテは少し感心していた。
「あら、あの女なかなかやりますわね」
「お嬢様、あの者が資料にあった『月浦てらし』という人物のようです」
「なるほど、納得ですわ。でもわたくしの役に立つかどうか、確かめないといけませんわね」
最初のターゲットの発見に気合の入るカリーテ。さっそく目的の少女・てらしに歩み寄りビシッと指を突き付けた。
「あなたが月浦てらしね?」
「そうだけど……。えっと、どこかで会ったかな?」
「わたくしは偉大なる魔王の娘、カリーテよ。さっそくだけどあなたの力を貸しなさい」
「へえ、勇魔婚で有名な魔王さんの娘なんだ。でも僕の力を借りたいってどういう事?」
「うるさいわね! わたくしはその忌々しい勇魔婚を解消したいの!」
「……!」
すると、柔らかかったてらしの表情に緊張が走った。
「勇魔婚は平和の象徴だよ。それを解消するとなるとまた争いが起きるかもしれない、その事を分かっているのかい?」
「わたくしに意見するつもりかしら? つべこべ言ってないではいと言いなさい!」
「……君の言いたい事はよく分かった」
てらしは他の少女たちに手で合図を出した。
「ここではみんなに危険が及ぶ、場所を変えて話をしよう」
「あら、面白いですわね。よろしくてよ」
そう言うとてらしは背を向け歩き出した。
「てらしちゃん、頑張って!」
「そんな角女ぶっ飛ばしちゃえ!」
「おめーらうるせーですの!」
カリーテは背中に刺さる黄色い声援を威嚇しながらてらしの後を追う。
少し違和感があったのは、少女たちが魔族であるカリーテの姿を目の当たりにしながらも誰もてらしの心配をしていないという事だ。
リーダーシップはあるかもしれないが、他の人間よりも格段に強いという風には見えない。その自信はどこから来ているのか不思議であった。
――そして、対決の時。
カリーテとてらしはおあつらえ向きに人気のない広場で対峙している。
「また都合の良い場所があったものですわね」
皮肉のようなカリーテの言葉にも反応せず、てらしはカリーテを真剣な眼差しで睨みつけた。
「街を守る者として、平和を乱そうとするやつは放っておけない。魔族と戦った事は無いけれど、君は強そうだからね……本気で行かせてもらうよ!」
どこから取り出したのか、てらしは宇宙服のヘルメットらしきものを手にしていた。
「変☆身!」
「なんか星が見えましたわね」
変身の声と共にてらしがヘルメットを装着。その瞬間、驚くべき変化が起こった。
てらしの体は一瞬にして緑色のオーラに包まれ、黒かった髪が輝く緑に変化した。それだけではない、服装も宇宙服モチーフだがフリフリした装飾や無駄な露出があるせいで宇宙には出られそうもないコスチュームへと変わっている。
「宇宙パワー全開! 宇宙魔法少女てらしちゃん、襲来なのだ!」
何より一番の変化は内面的なものかもしれない。
さっきまでの精悍さはどこへやら。星をキラリと目の中に輝かせ、陽気な喋り方で語尾には「なのだ」が付いていた。
「なるほど、確かにこれは危険ですね」
カリーテはクラドの言葉にちょっと納得しそうになった。
「危険の意味が違うような気がするのだけれど……まあいいですわ。わたくしとしてもコッチの方が得意ですのよ」
「コスプレですか?」
「違う! バトルよバトル!」
「それは失礼。それよりほら、向かって来ますよ」
「え?」
言われて振り返ると、てらしちゃんがすぐ目の前まで迫っていた。
「てらしちゃんの宇宙カラテを受けてみるのだ!」
「はあ?」
妙な姿勢から繰り出されるパンチを、カリーテは振り向きざまにひらりと回避する。
宇宙カラテという謎の動き。その構えはおよそ格闘技とは思えない奇妙なもので、そこから繰り出される攻撃も素人そのものであった。
「……人間の小娘風情が。わたくし相手にそのナメくさった動き、万死に値しますわ」
てらしちゃんの宇宙カラテはカリーテを怒らせた。
実はカリーテは『血達磨流魔闘術』の達人であり素手での戦いを得意としている。それだけにてらしちゃんの宇宙カラテが見せるふざけた動きは格闘技を嗜むものとして許せなかったのである。
「悪魔毒蛇拳!」
カリーテの拳が凄まじい速度で繰り出された。
この『悪魔毒蛇拳』はカリーテの得意とする技のひとつ。トリッキーな軌道で相手のガードをくぐり抜け痛烈な一撃を加える、まさに毒蛇のような拳撃だ。カリーテの持つ膨大な魔力と合わさり、対峙した者はカリーテの拳が毒蛇に変わったかのような錯覚に陥るだろう。
「手が蛇に⁉ すごい攻撃なのだ! でもてらしちゃんも負けないのだ!」
一方のてらしちゃんも負けてはいない。相変わらずの奇妙な動きでカリーテの攻撃を捌きつつ、これまた奇妙な動きのパンチやキックで応戦している。
「流星パンチ! からの、流星キック!」
「……くっ」
驚くべき事に、軽く圧勝するつもりだったカリーテは思わぬ苦戦を強いられていた。
相手の奇妙すぎる動きは重力やバランスを無視し、思いがけない所から攻撃が飛んでくる。そのうえ本当に力が入っているのか疑わしいようなパンチでも、空振りした際に誤爆した地面をえぐり取るほどの攻撃力を持っていたのである。
「宇宙パワー、まだまだ行くのだ!」
「ああもう、やりづらいですわね!」
てらしちゃんが気合を入れるたび、その体から緑色のオーラが噴き出し体を包み込む。攻撃にしろ防御にしろ、このオーラがある部分は特に強力なようだ。
これが彼女の言う『宇宙パワー』なのだろう。そう推測したカリーテはいったん距離を取り、てらしちゃんに向かいニヤリと笑った。
「人間にしてはなかなかやりますわね。その宇宙パワーとやら、認めてあげてもよくってよ」
「ありがとうなのだ! でも認めてもらわなくても宇宙パワーは最強なのだ!」
「そうね、便利そうではありますわね。……だから、わたくしが「借りて」あげますわ」
カリーテがてらしちゃんに向け手を伸ばしたその瞬間、まるで空間が歪むような感覚が周囲を包み込む。
これこそカリーテの魔王の血筋としての能力。物質であろうが能力であろうが、カリーテの思いのままに「借りる」事ができる恐るべき力。
当然ながら借りられた側はそれを使う事は出来ず、返すかどうかはカリーテ次第。使い方によっては自己強化と相手の封印を同時に行う、まさに悪魔の技であった。
「な……なんなのだ? 力が……抜けるのだ?」
てらしちゃんの体を包んでいた緑色のオーラがその身を離れ、吸い込まれるようにカリーテへと集まっていく。
「ふふふ、これで宇宙パワーとやらはわたくしのモノですわ。それではさっそく、ご自分の力をその身で味わって――」
だが、ここで異変が起こった。
緑色のオーラがカリーテの身を包むにつれ、得体の知れない感覚がカリーテを襲う。
「ななな、なんですのこれ⁉ あ、頭の中に意味不明な情報ががががが⁉」
突如として頭の中に流れ込んできた膨大かつ意味不明な何かにカリーテは混乱し、思わず膝をついてしまった。
「キミも宇宙パワーを感じたいのだ? だったらいくらでも持って行けなのだ、宇宙パワーは無限だから問題ないのだ!」
てらしちゃんはといえばカリーテが宇宙パワーに興味を持ったと勘違い。
宇宙パワーは無限だというのは本当らしく、借りられて使えないはずの宇宙パワーは気合と共に再び全身に漲った。そして今度は優しく温かく、てらしちゃんはカリーテに向けパワーを送り込むのであった。
「あばばば! へ、変なもの送ってくるんじゃねーですわ!」
追い宇宙パワーを浴び、カリーテはもはや立っていられなくなっていた。割れそうなほどに痛む頭を抱えのたうち回っている。
「ぎぎぎ……、こ、こんなものいらねーですわ!」
このままでは勝負どころではない。カリーテは慌てて宇宙パワーをてらしちゃんへと突き返した。
カリーテの体から抜けた緑色のオーラがてらしちゃんへと戻っていく。
ここで、普段なら決して自分から返すような事はしないカリーテの奇跡とも言えるこの行動が更なる事態を引き起こしてしまった。
「おおっ! なんだかてらしちゃん、体がとっても軽いのだ!」
なんと、どういうわけかてらしちゃんの宇宙パワーがいつも以上に強化されてしまったらしい。
「凄いのだ、力が溢れるようなのだ!」
目に見えてオーラが増大している。
そしててらしちゃんは奇妙な構えを取った。
「いくのだ! 必殺、宇宙ビーム!」
独特な構えから放たれた緑色のオーラが一点に収束、強力で極太な光線となってカリーテに襲い掛かった。
「え、ちょ、ぬわぁー⁉」
いまだダウンから復帰していなかったカリーテにはなす術もない。
「なんか見たような展開ですのー!」
そのままビームに飲み込まれ、いずこかへとふっ飛ばされてしまうのであった。




