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大日如来 空海

平安時代の「承和の変」を舞台にした歴史ファンタジーです。

 茜空に一陣の風が吹いて、桜吹雪きが天高く舞い上がる。


 東寺の境内を、竹箒で掃き清めておったが、集めた桜の花びらが風に舞い上がったので、その様子をしばらく眺めていた。


 生きておった頃なら、ワシが竹箒を手にしただけで、大慌てで坊主どもが駆け寄り、竹箒を奪っていったものだが、今は、物乞いのごとき姿にて、誰からも相手にされておらぬ。


 されど、それを寂しいとも思わぬし、舞い上がった桜の花びらを美しいとも思わぬのだ。


「おい。いつまでコソコソと隠れておるつもりじゃ?

 せっかく、人気の無い所に誘ってやったというに、なぜ出てこぬ?

 早う終わらせようぞ」


 その言葉が終わらぬ内に、十数人の覆面をした黒装束が、音もなく姿を現した。


「さて、誰に命じられた?

正良まさらか?(仁明天皇の諱)

 良房か?

それとも、弟の良相か?

 まあ、三人とも同じ穴のむじなじゃが…」


 急に、ドンと雷のような轟きと共に、空気がビリビリと震え出した。


 すると、庫裡の屋根から檜皮ひわだを撒き散らしながら、弓を握った黒装束が雪崩れのごとく落ちてくる。


石畳に倒れた黒装束は、ピクリとも動かない。


 その数、ざっと十三人…


 俯いていた空海が、無表情の顔を上げて声を張る。


「無い知恵を絞ったのう!

太刀では敵わぬとみて、離れた場所より弓で射殺そうと考えたか。

 愚か者め。

十三人もの命を、みすみす無駄にしおって…

 殺意は、邪気を溢れさせる。

ワシが、それに気付かぬとでも思うたか?

 出てまいれ。

見ておったであろう。

 ワシは、見えずとも、離れておってもお主らの命を奪える。

 試しに、ここにいる全員の命を奪ってやろうか?」


 その言葉が終わらぬうちに、慌てた藤原良相が飛び出してきて、空海の前にひれ伏した。


「お許しください!

私は止めたのでございます。されど、皆が…」


 そこまで言うと、良相は言葉に詰まり、石畳に頭を擦り付ける。


「分からぬことが一つある。

ワシの恐ろしさを知り、今まで従順であったお主らが、何故、急に逆らい始めるのじゃ?」


 ひれ伏したまま、震えながら押し黙る良相の肩を、空海がドンと蹴る。


 すると、「ヒイッ!」と悲鳴を上げながら、慌てて口を開いた。


「み、帝は、白川殿の台頭を、快く思われておらぬようで…」


「なるほどのう。

これまでは利害が一致しておったから従ったが、ワシが伯雨を立てたことで、その利害が一致せぬようになったというわけか…」


 空海の呟きにも、良相は押し黙ったままだ。


「されば、伯雨にも刺客を差し向けたのか?」


 その言葉に、良相の震えが更に大きくなる。


「愚か者め。

ワシは虚ろゆえ、怒りという感情を持たぬが、伯雨を怒らせるでない。

 あれを怒らせると、お主らは皆殺しにされてしまうぞ…」


 良相が堪え切れずに、とうとう啜り泣きを始める。

読んで頂き、本当にありがとうございました。

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