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淳和院后正子

平安時代の「承和の変」を舞台にした歴史ファンタジーです。

 不思議な噂を耳にした…


 今、朝廷で権勢を欲しいままにしている者どもは、全て我ら親子の敵なのだ。


 我ら親子を欺き、我ら親子を陥れ、その権勢を熟れた果実のように摘み取った。


 双子の兄である仁明帝に始まり、実母である檀林皇后、そして、大納言となった憎き藤原良房、その弟で、左近衛中将さこのえのちゅうじょうたる藤原良相…

 更に、良房の妹にして仁明帝の后、五条后(ごじょうごう、藤原順子)の五人だ。


 まこと、揃いも揃って欲に駆られた悪人どもが、我ら親子を陥れたのだ。


 されど、我らに与する善人も存在した。


 但馬権守たる橘逸勢と、薬子の変で廃嫡された阿保親王に、春宮坊帯刀舎人たる伴健岑、その友である白川延信などだ。


 皆、命を落とすか流刑に処されたというのに、ただ一人、栄華を手にした者がおる。


 白川延信だ。


 藤原良房の後ろ盾を得て神祇伯となり、王位まで賜って、あまつさえ王号の世襲まで許されるとは…


 今は、白川伯雨と名乗っておるが、ヤツが裏切り者なのだと世間では噂されている。


 それだけではない。


 かの者は、強力な呪力を有し、卓越した呪術を操り、いかなる穢れも祓ってしまうといわれている。


 それならば、あの子の穢れも祓えるやもしれぬ。


 裏切り者か否か、その真意も見定めねばならぬゆえ、急ぎ会わねばならぬのだ。


 確か、神祇官近くの朱雀大路に、慎ましい庵を結んでおると聞く。


 淳和上皇が崩御され、恒貞親王が廃太子となって、広き淳和院も、今は人影がまばらになってしまった。


 仕える者も、十人に満たぬほどに減り、閑散とした雰囲気が没落の気配さえ漂わせている。


 使者を立てるにしても、乳母めのとを呼び寄せるだけで気が滅入るのだ。


 人手があった頃ならば、ひとこと命ずれば済んだものを…


 淳和上皇が健やかなるころは、ここも華やかであった。


 煌びやかな牛車が頻繁に出入りし、池を中心とした庭園には、詩会の声と管弦の音に満ちていたのだ。


 曲水の宴に菊の節句、七夕の祭りや四季折々の遊宴にと…笑みの絶えることがなかった。


 それが今や、庭園は荒れ放題で、池の水も浅く濁り、風のみが、虚しく回廊を吹き抜けていくだけだ。


 されど、このままで終わるつもりなど毛頭ない、必ず、我が子を帝の位に押し上げてみせる。


 そして、失われた栄華を、再びこの手に取り戻すのだ。

読んで頂き、本当にありがとうございました。

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