表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
20/21

逸勢の失脚

平安時代の「承和の変」を舞台にした歴史ファンタジーです。

 東寺に向かうはずの牛車は、無事にワシの邸宅に到着した。


 伴健岑と三人の舎人が平伏する中、不安を露わにした恒貞親王を我が邸宅に招き入れる。


準備が整い次第、ここを立たねばならない。


 屋敷に入ると、玉若が何事かと飛び出してきたが、恒貞親王を見ると、事情を察したのか静かに平伏した。


 恒貞親王が、誰にともなく「せ、世話をかけるのう…」と呟いて部屋に入る。


 ワシは、玉若に向かって「白雨はまだか?」と訊ねると、一瞬、喜色を浮かべた玉若が、「白川殿が来られるのですか?」と逆に聞いてきたので、「そうか、遅いのう…」と呟いた。


 いくら鈍いワシでも、玉若の気持ちには気付いている。


 ワシとて、身分違いだと、白川家に嫁ぐのを反対するつもりなどないが、今の状況を鑑みて、白雨が玉若を巻き込みたくないと考えておるのだろう。


 周囲の目もあるので、「母君を早くに亡くされた父君を、お一人には出来ませぬ」と笑っておるが、一番辛いのは本人に違いない。


 すると、舎人たちと門前に居た伴健岑が、ドカドカと派手な足音を響かせて屋敷に入ってきた。


 ワシが不審に思い、「どうしたのだ?」と訊ねると、ワシの耳元に口を寄せ、「屋敷が囲まれております」と囁いたのだ。


 驚いたワシは、「早すぎる!」と叫んで門前に急いだ。


 しかし、そこにはガチャガチャと甲冑の擦れる音が満ちており、弓や太刀を帯びた近衛府このえふの兵がひしめいていた。


 検非違使などではなく、圧倒的な武力を誇る官軍なのだ。


 藤原良房が、弟である藤原良相よしみに命じたのだろう。


退路は完全に絶たれてしまった。


 振り返ると、玉若まで心配そうに顔を覗かせているので、「中に入っておれ」と言ったが、動こうとはしないだろう。


そこに、甲冑を纏った大男が入ってきた。


「勅命により、但馬権守殿に申し上げまする。

屋敷は、近衛の兵で幾重にも囲みました。

 抗われても益はございませぬ。

恒貞親王をお渡しくだされ。

ご家族と御身のため…」


 そこまで口にし大男が、「グッ…」と呻いて片膝をついた。


 その背後には、鋭い目つきの白川白雨が立っている。


 驚いたワシが「白雨か…」と呟くと、白雨は、それに応えるように軽く頭を下げた。


「遅くなりました」


 白雨は、この人混みを掻き分けてここまで来たのであろう。


 その証拠に、兵士たちの群れが花道のように左右に割れており、人一人が通れるようになっている。


 道を開けた兵士たちは、目の前の大男のように、思い思いの態勢で呻いていた。


屈強な兵士たちの群れに恐怖が広がっている。


「何なのだあの男は!我々に何をしたのだ!」


「物の怪の類いだ!」


「気をつけろ!怪しい呪術を使いよるぞ!」


 そこに、広がる恐怖を鎮めるように、高い男の声が響き渡った。


「ほう。雨乞いの法か!

雨乞印うこういんも結ばず、祈雨きうも唱えずに、雨雲を沸かすのか!」


 その声を遮るように、藤原良相の慌てた声が聞こえてくる。


五筆和尚ごひつわじょう

貴方様が、自ら出られるほどの相手ではごさいませぬ。

どうか、このままお隠れくだされ」


「黙れ青二才!

お前たちが束になっても、勝てる相手ではないわ!

何せ、あやつはワシの弟子なのだからな!」


ワシは驚愕した。


 門を潜って現れたのは、紛れもなく七年前に入定したはずの空海だったのだ。

読んで頂き、本当にありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ